※タイトルは林遣都さんの作品集「THREE TALES」を

オマージュしています。

※今回はドラマ「愛しい嘘~優しい闇~」とのミックス版です。

 

本日、夜11時15分からテレビ朝日系で放送されている

ナイトドラマ

愛しい嘘〜優しい闇〜」が最終回を迎えます。

1月にスタートし全8回の作品でしたが、毎回予想もつかない展開で本当にドキドキワクワクしながら堪能させてもらいました。

放送後に多くの方たちが感想や考察をツイートされ盛り上がっていたのも楽しかったですが、何より惹きつけられたのがやはり林遣都さんの演技力です。

今回は雨宮秀一と言う一人の人物を本物と偽物の二役として演じ分けられ、最終回ではいよいよその二人が対峙することになります。

林遣都さんのお芝居はいつも「林遣都劇場」と言う異名と共に語られますが、今回は更に難しい役柄できっと林遣都さんの代表作の一つになると思います。

応援の気持ちを込めて「Three tales -30歳の俺達-」最終話のその後を書きました。

「愛しい嘘〜優しい闇〜」と「おっさんずラブ」をご覧になっていない皆様にはわかりにくいかもしれませんが、林遣都さんが大好きな作者のわがままとしてお許しください。

藤沢飛鳥

 

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番外編 

愛しい嘘~優しい闇~

 

ドラマのあらすじは こちら

第1話から最新話の<目次>は こちら

「愛しい嘘~優しい闇~」のあらすじは こちら

 

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「Three tales -30歳の俺達-」最終話

から続きます。

 

 

 

一緒にアパートの2階に上がってきた安達達と別れ、牧はシンガポールから迎えに来てくれた春田と共に自分の部屋に入った。

 

牧が入れたコーヒーを飲み、落ち着くと春田は穏やかな顔で言った。

 

「じゃ、行くか」

 

「え、どこに?」

 

時刻は夜の8時を過ぎている。

 

もしかして春田はまだ夕食を食べていないのだろうか。

 

だが考えてみればそれは自分も同じだ。

 

思いがけず春田が迎えに来てくれたことが嬉しくてすっかり忘れていた。

 

「晩飯なら俺が今から作りますよ。ちょうど唐揚げ作ろうと思ってたし」

 

本当は予定していた今日の夕食のメニューは唐揚げではない。

 

だが唐揚げは春田の大好物だ。

 

予定外だがたまたま冷蔵庫の中に鶏肉がある。

 

少し待ってもらえば大丈夫だ。

 

「や、俺、○○ホテルに泊まってんだ」

 

春田の顔つきが真剣みを帯びた。

 

「今夜は一緒にいよう」

 

―― 一緒に。

 

春田の傍から逃げるようにして日本に帰ってきて以来、何よりも夢見ていた言葉だ。

 

牧は真っ直ぐに自分を見ている春田を見つめ返すと深くうなずいた。

 

「はい」

 

 

 

 

 

その頃、隣の部屋では黒沢が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、安達が安堵の息を吐いた。

 

「牧、マジでよかったよな、好きな人が迎えに来てくれて」

 

別れてしまいそうになった自分たちを、また結び付けてくれたのは牧だ。

 

牧のお陰で自分の心に素直になれた。

 

だからこそ、牧にも幸せになってほしかった。

 

「優しそうでいい人みたいだし」

 

「うん、そうだね。」

 

笑顔で話す安達の言葉を黒沢は上の空で聞いていた。

 

牧のことよりも気になっていたことがある。

 

それは安達にしたプロポーズのことだ。

 

クリスマスイブの夜、二人きりで花火を見るつもりだったビルの屋上で気持ちを込めたお揃いの万年筆を渡し、正直な思いを伝えた。

 

―― 俺とずっと一緒にいてください。

 

それに対して安達は涙を流しながら

 

「はい」

 

と答えてくれた。

 

それは生涯心に残る幸せな夜だった。

 

けれどさっき牧がプロポーズされているのを見て、はたと気づいたのだ。

 

―― 結婚してください。

 

春田が牧に言っていたその一言を自分はまだ安達に言っていない。

 

そしてできることならもう一度最高のプロポーズをやり直したい。

 

そのためにはシチュエーションが大切だ。

 

やっぱりきれいな夜景の見えるレストランだろうか。

 

いや安達はそういう気取ったところはたぶん苦手だ。

 

では海に浮かぶクルーズ船はどうだろう。

 

心地よい潮風に吹かれながら美しい港の夜景を背に ・・・・・・きっとロマンチックだろうな。

 

それとも景色を一望できる山の展望台とか。

 

自然に囲まれた清らかな空気は気持ちがいいだろう。

 

そうだ、いっそのことキャンプにしようか ・・・・・・。

 

「・・・・・・ 一、優一」

 

「え、あ・・・何?」

 

突然現実に引き戻された黒沢が慌てて言葉を返すと、安達がくすくすと笑った。

 

黒沢のことだ、きっとまた何かよからぬ妄想をしていたのだろう。

 

「なんだよ、さっきから呼んでんのに、ぼーっとしちゃって」

 

「あ、いや、何でもない」

 

慌てて首を横に振る。

 

正直に話してしまってはサプライズにならない。

 

「風呂、先に入る?」

 

もう慣れたとても言いたげな安達の笑顔に黒沢も微笑んだ。

 

 

 

 

 

八重洲口からほど近いシティーホテルの上層階。

 

窓辺に立つと宝石を散りばめたような夜景が綺麗だ。

 

この光景を二人で一緒に見られるなんて思いもしなかった。

 

白いバスローブを身に付けた牧の瞳に知らず知らずのうちに涙が浮かんだその時、背後に立っていた春田が牧を抱きしめながらつぶやいた。

 

「あのさ、さっきお前の同期いたじゃん」

 

何か甘い言葉でもささやいてくれるかと思ったのに、拍子抜けしたように牧は短く返事をした。

 

「ああ、はい」

 

「背高い方さ」

 

「黒沢ですか?」

 

「ああ、その黒沢君、めちゃくちゃイケメンだったよな」

 

「はあ? 何ですか? 気になるの?」

 

牧は思わず声をあげた。

 

春田が黒沢のことを気にかけているとは思いもしなかった。

 

そして同期の黒沢は春田が言うようにイケメンで背が高く、営業成績トップのエリートだ。

 

部署が違うとはいえ、ライバルとして意識しないと言えば嘘になる。

 

一瞬で拗ねてしまった牧を慌ててなだめるように春田が言葉を続けた。

 

「や、だから俺じゃなくて、お前がさ、あんなイケメンが近くにいて、その ・・・・・・大丈夫かなと思って」

 

春田が考えていた事は自分の思いとは逆だった。

 

牧はホッと胸を撫で下ろすとすぐに笑顔を見せた。

 

「無いです。黒沢とはライバルっていうか、そもそも俺がイケメン好きだったのは春田さんのこと好きになる前までだから」

 

「そっか ・・・・・・って、どういう意味だよ!」

 

声を荒げる春田に牧は平然と答えた。

 

「どうもこうも、そういう意味ですよ」

 

「ちぇっ、なんだよぉ。わざわざシンガポールから飛んできたのに。どうせ俺はイケメンじゃないですよ」

 

拗ねように口を尖らせ、春田がツンと横を向く。

 

その顔を見て牧は悔やんだ。

 

どうしていつも自分は春田にきついことを言ってしまうのだろう。

 

春田だって一人の人間だ、いくら大雑把な性格だと言っても些細な言葉で傷つかないはずないのに。

 

抱きしめてくれている春田の腕に手を添えると、牧は謝罪の言葉を口にした。

 

「ごめんなさい。言い過ぎました」

 

素直に詫びる牧にもう一度目を向けると春田は笑ってうなずいた。

 

牧は時々、口が悪くて面倒くさいが根は素直で愛らしい。

 

「春田さん」

 

「ん?」

 

「ありがとう。迎えに来てくれて」

 

「おう」

 

言葉を返しながら、春田はふと思いついたように牧から身体を離した。

 

「ちょっと待ってて」

 

春田はベッドの横にあるサイドテーブルまで行くと、部屋の明かりを全て消した。

 

暗闇の中、互いの姿だけがぼんやりと浮かび上がる。

 

「ほら、こうした方が夜景がきれいに見えるだろ」

 

少しあごを上げてドヤ顔を見せる春田に牧もうなずいた。

 

「そうですね」

 

春田にしては気が利いている。

 

牧の考えていることがわかったかのように春田が照れ臭そうに頭を掻いた。

 

「あのさ」

 

「はい」

 

「さっき、アパートの前で俺のことなんか好きじゃないって言ったよな」

 

「あれは・・・・・・」

 

それは春田を追い返すため咄嗟に口にした言葉だった。

 

決して本心からではない。

 

ただあの時は自分の心に正直になれなかったのだ。

 

だが、思いがけない安達の一言で自分の本当に気持ちと向き合うことが出来た。

 

あの場に安達と黒沢がいてくれてよかったと、今、心から思う。

 

「あれは・・・・・・何?」

 

その先を促すように春田が問いかける。

 

「その・・・・・・嘘です。ごめんなさい」

 

「わかってるよ」

 

牧は時々、心とは正反対のことを言うことがある。

 

それは春田のことを思う愛しい嘘だ。

 

「じゃあ、寝るか」

 

そう言って差し出された春田の手に牧は自分の手を添えた。

 

あらためて顔を見つめると春田の背後に闇が広がっている。

 

それは愛する人が傍にいてくれる優しい闇だった。

 

 

 

 

 

 

ドキドキおしまいドキドキ