赤楚衛二さんのお仕事復帰、おめでとうございます。

そして本日2月8日は「チェリまほ劇場版」公開まであと2ヶ月ですね。

何か記念にと思い、これまでほぼ登場していない浦部先輩のお話を書きました。

藤沢飛鳥

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魔法使いのお見合い(未遂)

 

OPテーマ omoinotake 「産声

EDテーマ DEEP SQUAD 「Good Love Your Love

 

ドラマのあらすじは こちら

小説の<目次>は こちら

 

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白く輝く朝日がカーテンを開けた窓から差し込みダイニングを明るく照らし出す。

 

テーブルの上には妻の由美が作った朝食が並んでいる。

 

香ばしく焼き上げたバタートースト、ふわふわのオムレツにソーセージ、ポテトサラダ、コーンスープ、こだわりの野菜のスムージー。

 

そして向かいに座る美しい妻、由美の優しい笑顔。

 

―― 俺は幸せ者だ。

 

バターがたっぷり染み込んだトーストをかじりながら浦部はあらためて恵まれた自分の境遇を噛みしめた。

 

結婚して3年になるが、まだまだこうして二人きりの甘いひとときを過ごしていたい。

 

「でね・・・・・・」

 

にやけ顔の夫の思いには気づかず、いつものように最初にスムージーを一口飲むと由美が笑みを浮かべて話し出した。

 

「会社の後輩のアサミちゃん、来年で30歳じゃない。それまでにどうしても結婚したいって」

 

ガラスのコップを置くと、由美は真剣な表情で夫の顔を見つめた。

 

「ねえ、誰か良い人いない?」

 

「そうだなぁ・・・・・・」

 

浦部は手にしていたトーストを皿に戻すと、コーンスープの入ったカップを手に取った。

 

せっかく愛しい妻が相談してくれたのだからぜひその求めに応えたいが、特に心当たりは思いつかない。

 

けれどスープを一口すすった時、ある顔が浮かんだ。

 

「・・・・・・いた、〈魔法使い〉が」

 

「はあ?」

 

 

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朝、8時45分。

 

出勤時のエレベーター前は多くの人でごった返していた。

 

3台同時に開いたドアの向こうに次々と人々が吸い込まれていく。

 

すべてのドアが閉じるとそこに安達と黒沢の二人だけが残った。

 

安達は最後に乗ろうとしたのだが、黒沢がこうなることを予想してそれを引き留めたのだ。

 

ほんの少しでも二人きりの時間が出来ると嬉しい。

 

あとから来た浦部が二人の姿に気づき声を掛けようとしたその時、黒沢の左手が抱き寄せるように安達の腰のあたりにまわされた。

 

「ちょっ、やめろって、会社だぞ!」

 

「いいじゃん、少しだけ」

 

「だめだって! 家じゃねぇんだから」

 

強く諫める安達の口調に、母親に叱られた子供のように黒沢がしょぼんと肩を落とす。

 

―― え? 何、あれ。

 

心を許し合ったようなその仕草はまるで恋人同士みたいだ。

 

―― や、まさかね。

 

元々、安達と黒沢は同期で特に最近は仲がいい。

 

これも友達同士の悪ふざけなのだろう。

 

そう思いなおすと浦部は背後から二人に声を掛けた。

 

「おはよ」

 

「あっ、おはようございます」

 

言いながら飛び退くように黒沢から一歩離れた安達の怯えた表情はいつものそれだ。

 

そして傍らにいる黒沢は、

 

「おはようございます」

 

こちらもいつもと変わらない余裕の微笑み。

 

堂々と胸を張るその圧倒的な威圧感は先輩である自分でも気圧されてしまう。

 

 

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席に着き仕事を始めた浦部は日常の冷静さを取り戻していた。

 

―― さっき見たことは俺の考えすぎだよな。

       うん、そうだ。

 

自分を納得させるようにうなずいた浦部の背後で安達と黒沢の話し声が聞こえた。

 

「このデータなんだけど、去年と今年の数値を円グラフで比較できるようにしてくれるかな」

 

「じゃあ、二重のドーナツグラフにしようか。その方が違いも一目でわかりやすいし」

 

「あ、いいね。じゃあそれでお願いするよ」

 

「わかった、午前中に仕上げとく」

 

それは何の変哲もない「仕事」の会話だ。

 

浦部は小さく安堵の溜息を吐いた。

 

―― よし。この話が終わったら

       安達に例の件、話してみるか。

 

意を決して浦部が振り向くと笑顔で見つめ合う二人の姿があった。

 

それはまるでそこだけが温かい春の日差しに包まれているかのようにキラキラと輝いていた。

 

見てはいけないものを見てしまった気がして思わず背を向ける。

 

―― な、なんだぁ? 

       このピンク色の空気は???

 

黒沢が去ると浦部は確かめるようにそっと振り返った。

 

安達の背が心なしか弾んでいるように見える。

 

―― や、まさかね。うん、そうだよ。

       俺の思い違いだって。

 

自分に言い聞かせると浦部は安達に声を掛けた。

 

「安達ぃ、今夜さぁ、時間あるぅ?」

 

「え?」

 

安達がいかにも戸惑った顔になった。

 

先輩の浦部が語尾を伸ばし気味に何かを言ってくる時は大抵よからぬ話だ。

 

もしかしてまた残業の依頼だろうか。

 

不安そうに眉を顰める安達の肩に手を置くと、浦部は小声で囁いた。

 

「や、実はさぁ、今度お前に紹介したい女の子がいるんだけ・・・・・・」

 

言い終わる前に背後から声が聞こえた。

 

「安達、さっきの資料なんだけど」

 

そこに憮然とした顔つきの黒沢が立っていた。

 

仁王立ちともいえる威圧感に満ちたその目は明らかに浦部を睨みつけている。

 

気迫に圧倒されるように浦部は即座に安達から身体を離した。

 

「じ、じゃあ、その話はまた後で」

 

「あ、はい・・・・・・」

 

ホッと息を吐く安達と浦部の間を割くように、黒沢が身体を滑り込ませてきた。

 

 

―――――――――――――――

 

昼休み。

 

由美の作った弁当を広げ、甘い卵焼きを頬張りながら浦部は考え込んでいた。

 

―― あの二人、明らかに怪しい。

       てか、今までなんで

       気づかなかったんだ、俺。

 

思い返してみると黒沢の安達に対する態度は普通の同僚のそれではない。

 

そして時々、営業マンの黒沢が安達の残業を手伝っているようだ。

 

モヤモヤした感情が頭の中に渦巻いている。

 

この違和感を払拭するには3つの選択肢がある。

 

   ① 安達に直接聞く。

   ② 黒沢に直接聞く。

   ③ 藤崎さんに相談する。

 

①は一番わかりやすい。

 

安達は嘘をつけない性格だからだ。

 

だが本当に自分の予想通りだとすると、安達は返答に困るだろう。

 

あまり追い詰めるとそれこそ<パワハラ>になりかねない。

 

②は黒沢のことだ、答えるより前に

 

「仮にそうだとして、何か問題でも?」

 

涼しい顔でそう問い返されるのがオチだ。

 

③は聡明な藤崎さんのことだから、何か知っていても適当にはぐらかされて終わるだろう。

 

―― だが・・・・・・。

 

浦部の頭に大きな疑問が湧いた。

 

―― そもそも聞いてどうする?

 

もし二人が付き合っていたとして、それはあくまでもプライベートの話で仕事には関係ない。

 

そしていくら先輩だと言っても自分にそこまで立ち入る権利はない。

 

けれどやはり気になるのだ。

 

あれこれ考えあぐねていると正面から遅い昼食をとる安達と黒沢が弁当箱の入った小さなトートバッグを手に並んで歩いてきた。

 

午前の仕事が終わりいつものように昼食に誘った時、今日に限って安達は言った。

 

「や、あと少し、キリのいい所までやってから行きます」

 

それは外回りから帰る黒沢に合わせて安達が時間をズラしたのだろう。

 

互いの身体こそ少し距離を取っているものの、二人の笑顔は幸せなオーラに満ちている。

 

浦部はあらためて安達の顔を見つめた。

 

それは無邪気で純粋で、自信と幸福感に溢れた愛らしい微笑みだった。

 

―― あいつ、今まであんな顔して笑ったこと

        あったっけ?

 

安達のことは新入社員の頃から面倒を見てきたが、これまで一度もあんな可愛らしい笑顔を見たことがない。

 

安達はどんな仕事でも丁寧にきちんとやるのにいつも自信無さげで臆病で、そんな後輩を便利だと思う反面、30歳を過ぎても彼女のできない安達がもどかしかった。

 

テーブルに着く二人の様子を遠巻きに見守りながら、浦部は自分でも気づかないうちに深くうなずいていた。

 

食べ終わった弁当箱を閉じると、浦部は妻の由美にメールを送った。

 

>由美、ごめん。

   今朝の話ダメだった。

   なんか、付き合ってる人いるみたい。

 

送信ボタンを押した浦部は、向かい合って座る安達と黒沢にもう一度目をやると思わず口の端を上げてニヤリと笑った。

 

―― しょうがない。明日、頼むつもりだった

       仕事、俺がやるか。

       や、二人きりで残業ってのもいいのかな?

 

 

 

 

 

 

ドキドキおしまいドキドキ