この小説はドラマ「SUPER RICH」の二次創作です。

EDテーマ 優里 「ベテルギウス

 

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Scene-7

ドラマのあらすじは こちら

第1話から最新話の<目次>は こちら

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夜の9時を少し過ぎた頃、会社の近くにあるオーセンティックバーのカウンター席に零子とリリカが並んで座っていた。

 

ここは零子のお気に入りの店で、木製の調度を使った落ち着いた雰囲気の店内に、ゆったりと流れるJAZZの響きが心地よい。

 

いつも会社の人間と行くのはもっとカジュアルな感じのバーなのだが、今日はリリカが静かなところで飲みたいというので連れてきた。

 

「零子さんは平気なんですか?」

 

2杯目のカシスオレンジを頼んだ後、詰め寄るように問いかけるリリカに零子は不思議そうに言葉を返した。

 

「何が?」

 

「宮村さんと春野君のことです」

 

やはりそうか。

 

リリカが何を聞きたいのかはもちろんわかっていた。

 

だが零子は素知らぬ顔で問い返した。

 

「二人がどうかしたの?」

 

「あたし、オフィスを移転する時にあの二人がルームシェアするって聞いて、なんかモヤモヤしました」

 

「どうして?」

 

実は自分もリリカと同じ気持ちなのだが、一回りも年上の立場でそれをありのまま口にすることははばかられた。

 

いや、正確に言うとリリカと“同じ”ではない。

 

二人がルームシェアを始める少し前、宮村が「春野」から「優」に呼び方を変えたときから、既に心の中に釈然としない思いが生まれていた。

 

「正直に言います。あたし、春野君のことが好きです。零子さんだって宮村さんのことが好きなんですよね。」

 

「あ、あたしは、別にそんな・・・・・・」

 

あまりにもストレートに本心を言い当てられたことに零子は狼狽した。

 

「隠してもダメですよ。見てればわかります」

 

「だってあたし、6歳も年上よ」

 

―― ビンゴ!

 

リリカは心の中で叫んだ。

 

カマをかけたつもりだったが、年齢を気にするのはそれだけ本気ということだろう。

 

「関係ないですよ、宮村さん精神年齢高いし。ほら、同い年の東海林さんと違って」

 

その時、二人の背後に男が立った。

 

「俺がどうしたって?」

 

突然姿を現した東海林にリリカはいかにも邪魔者と言いたげに吐き捨てた。

 

「はあ? 何でいるんですか」

 

「いて悪かったなぁ。俺はこの店の常連なんだよ!」

 

「あーもう、タイミング悪すぎ!」

 

零子ともっと踏み込んだ話をしたかったのに、東海林がいたら台無しだ。

 

リリカはヤケになって、お代わりしたばかりのカシスオレンジを一気に飲み干した。

 

 

そして数分後。

 

「あーあ、寝ちまった。こいつ酒弱いくせに飲み方知らねえからな」

 

「ほんと、しょうがないわね」

 

苦笑いしながら、零子は自分のストールをカウンターに突っ伏しているリリカの肩に掛けてやった。

 

彼女のように素直になれたら、もっと気持ちが楽になるのだろうか。

 

切なげにため息をつく零子に東海林が言葉をかけた。

 

「・・・・・・零子さん、俺、いいですよ」

 

「え?」

 

振り返る零子をまっすぐに見つめると、東海林は真剣な眼差しを向けた。

 

「零子さんのためなら、都合のいい男になっても」

 

自分たちは会社の設立当初から一緒に仕事をしてきた仲間だ。

 

そしていつ頃からか零子の宮村に対する気持ちに気づいていた。

 

同時に自分の零子に対する想いも無自覚でいられなくなっている。

 

けれど零子が宮村と結ばれるのであればこの気持ちは封印するつもりでいた。

 

だが最近は、自宅にいるときの宮村と優の仲睦まじさを知っている。

 

先日、宮村の部屋に泊まった時も・・・・・・。

 

 

 

 

優がキッチンで酒のつまみを作っていると、缶ビールを取りにきた宮村が隣に立った。

 

「何か手伝おっか?」

 

「じゃあ、これ持っていってください」

 

チーズの盛り合わせとクラッカーを乗せた皿を差し出す。

 

だが物欲しげにじっと見つめている宮村の視線に気づくと優は悪戯っぽく笑った。

 

「ったく、しょうがないなぁ」

 

言いながら小さく切ったカマンベールチーズのひとかけらをつまみ、慣れた様子で宮村の口元に運ぶ。

 

「あとは座ってからですよ」

 

軽く戒めるように優が微笑むと、宮村は大きく口を開け、そのままチーズと一緒に優の指先にパクついた。

 

「もう、俺の指まで舐めないでくださいよ!」

 

「ふふ」

 

二人の様子をソファーに座って背後から眺めていた東海林は心の中で声を上げた。

 

―― 何あれ。 新婚? 新婚なのか?

 

 

 

 

零子は東海林の視線を避けるようにうなだれた。

 

いつになく思い詰めているその表情に、返す言葉が見つからない。

 

「・・・・・・あ、ちょっと、お手洗いに行って来るね」

 

逃げるように玲子がその場を去ると眠っているはずのリリカがポツリと呟いた。

 

「・・・・・・ハンディーマン」

 

「ん? 何こいつ、寝言?」

 

リリカは酔いで赤みを帯びた顔をあげると、呆れ顔で言葉を吐きだした。

 

「だから、便利屋! 都合のいい男って意味ですよ!」

 

「はあ? 何だよ、それ」

 

東海林から目を背けて天井を見上げると、リリカは自分に言い聞かせるように声を荒らげた。

 

「あたしは絶対に都合のいい女になんかならない!」

 

強がる口調の裏側に報われぬ恋の切なさがにじむ。

 

駄目だとわかっていても、きれいさっぱり忘れることなどできない。

 

それが”恋”なのだ。

 

「あーわかったわかった。じゃあ、今夜は都合のいい者同士、飲み明かそうぜ」

 

「だから、やだってば!」

 

 

 

 

 

帰宅の途につく人々が行き交う夕方のオフィス街は、朝のそれとは異なり一日の仕事を終えた安堵感と心地よい疲労感に満ちている。

 

ビルのエントランスを二人並んで歩きながら、優は宮村に問いかけた。

 

「今日の晩飯どうします? 何かリクエストありますか?」

 

このところ遅くまで残業が続き、定時で帰れるのは久しぶりだ。

 

だから宮村の好きなものを作ってあげたい。

 

「そうだなぁ、だいぶ寒くなってきたし鍋にする? 豆乳鍋とかどう?」

 

「あ、いいですね」

 

優も同じことを考えていた。

 

些細なことでも気持ちが通じ合うのが嬉しい。

 

互いの顔を見合わせて微笑んだ時、二人の前に全身黒ずくめの若い男が立ちはだかった。

 

「スリースターブックスの方ですか?」

 

唐突な問いかけに戸惑いながらも、無意識に優をかばうように半歩前に進み出た宮村が言葉を返した。

 

「はい、そうですが?」

 

返事を聞き、目深まぶかに被った野球帽の下でニヤリと笑った男が、いきなり宮村に抱きついてきた。

 

次の瞬間、苦痛に顔をゆがめた宮村が両手で腹のあたりを押さえた。

 

男の手には1本のバタフライナイフが握られている。

 

「宮村さん!」

 

名を呼ぶ優の目の前で宮村の体がゆっくりと崩れ落ちていく。

 

ただならぬ事態に気づいた周囲から恐怖におびえる声が上がる中、薄れゆく意識の中で宮村の耳には優の悲痛な叫び声が響いていた。

 

「宮村さん! だ、誰か救急車! 救急車呼んでください!」

 

 

 

 

 

~ to be continued

 

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