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「うどんのお願い ニコ

 

OPテーマ omoinotake 「産声

EDテーマ DEEP SQUAD 「Good Love Your Love

 

ドラマのあらすじは こちら

小説の<目次>は こちら

 

*原作ではうどんちゃんは女の子です。すみません。

 

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オレの名前は「うどん」。


雑種の野良猫だ。


いや、野良猫だったというべきだろう、今はれっきとした飼い猫なのだから。


「猫に小判」ということわざには意味があるが、公園で拾ってくれた主人いわく、猫に「うどん」という名前をつけたのはオレが入っていた箱に書いてあったからで深い意味はないらしい。

オレの主人は30歳独身の男だが最近恋人が出来た。


金髪で可愛らしい顔をした、主人より随分と年下の「男」だ。


そう「男」だ。


猫界では同性がくっつくことは稀だが、人間界では時々あるらしい。


まあ、当人同士が幸せなら他人(オレの場合は “他猫” だが)が、とやかく言う筋合いではない。

 



実はこの恋人のことは主人と出会う前から知っている。


以前公園に住み着いていた時、ダンスとかいうものの練習で毎週公園の広場に来る彼は、時々オレの好きなミルクをくれたり猫用のご飯をくれたりした。


だから突然この部屋に連れてこられて金髪と会えなくなったことは少し寂しかった。


けれどある日、偶然この部屋で「みけねこ宅配便」と書かれた段ボール箱を持った金髪と再会できた時は嬉しかった。


それは金髪のほうも同じだったようでオレがここに引き取られたことをとても喜んでくれた。

―― 可愛がってもらって良かったニャア。

主人の腕に抱かれたオレの頭をなでながら、金髪が優しく微笑む。

 

人間は気づいていないが猫は時々、人の心の声が読めるのだ。

 

 


今の主人はぶっきらぼうだが、根は優しい人でオレのためにいろいろな猫グッズを揃えて部屋の中で好きなようにさせてくれる。


あの公園にいたときの、自由気ままだが毎日その日の食べ物の心配をしなければならない野良暮らしに比べたら、ここは天国だ。


それに金髪もよく遊び相手になってくれる。



だが、今日は主人と金髪が喧嘩をしてしまったようだ。


どちらが悪いのかは猫のオレにはわからないことだが、いつも仲のいい二人が言い争う姿を見ているのは悲しい。

「柘植さんのわからずや!」
「み、湊こそ、自分勝手じゃないか!」
「俺が自分勝手?」
「そうだよ、お前はいつも・・・・・・」


―― 可愛いから怒れない。

という本音を主人は言えないようだ。

―― 湊は拗ねた顔も怒った顔も、

       反抗心を露わにして睨みつける

       瞳ですら愛しい。

って、そう思ってんなら正直に言えよ!

「いつも? なんですか?」
「だから、その・・・・・・」

 

詰問するような金髪の問いかけに主人は返す言葉を失い黙り込んだ。

 

しばらく続いた沈黙の後、業を煮やしたのか金髪が吐き捨てるように言った。


「もういい!」


そのまま背を向けると部屋を飛び出していった。


オレの主人はと言うと、ただ茫然と突っ立っている。

―― ほらほら、早く追いかけないと。

「にゃん、にゃーん」


「どうした? 腹が減ったのか?」

 

とぼけた顔で主人が問いかける。


オレがいくら声を大にして叫んでも人間には通じない。

―― 違う違う! 追いかけろって!

「にゃにゃ、にゃーん」


「なんだ? 遊んで欲しいのか?」


主人はそばにあった猫じゃらしを手にした。

 

オレに目を向けてくれるのは嬉しいが、その優しさは「今」じゃない。


―― ええいっ! 言ってもわからなければ実力行使!

オレは玄関まで駆け出すと、ドアを何度も爪で引っ掻いた。


「なんだ、外に出たいのか? 今夜はだめだぞ、もう夜遅い」
 

そう言われても、俺はさらにカリカリと乾いた音を立ててドアを引っ掻き続けた。


「仕方ないなぁ。ちょっとだけだぞ」


主人が渋々ドアを開けると、寒風が吹きつける廊下で金髪が座り込んでいた。

 

うずくまるように体を縮こませ、華奢な両肩が寒そうに震えている。

 

それはまるで親鳥とはぐれ行き場をなくした小鳥のように儚げだ。


「湊! お前こんなところで何してるんだ? 風邪ひくだろ!」


「だって、柘植さんが追いかけてきてくれないから ・・・・・・」


上目遣いで見つめる黒い瞳が涙で潤んでいる。


「え? 俺はてっきり、お前は家に帰ったとばかり」


「そんなはずないでしょ! 今夜は一緒にいるって約束したじゃないですか」


金髪は意地っ張りだが結局は素直で、そしてたぶんオレの主人のことが大好きなのだ。

その時、オレの背後に立っていた主人から

 

―― キュンドキドキ


心の声が聞こえた。

すると突然、主人がその場にしゃがみこんで床に手をつき頭を下げた。


いわゆる<土下座>というやつだ。


「すまなかった! 全部俺が悪い」

 

こういう時いつも、大抵、いや絶対に、白旗を上げるのは主人のほうだ。


金髪はその姿を見ると、涙を拭いて微笑んだ。


「ううん、俺も柘植さんの気持ち、考えなくてごめんなさい」



1ミリの隙もないほどピッタリ寄り添った二人が部屋に戻ってきた。


―― どうよ? 仲直りできたのは

         オレのおかげだニャン


なのに二人はお互い見つめ合ったまま、オレにありがとうの一言もない。


二人の足元にジャレついてみたが、オレのことなど全く眼中に無いようだ。


主人が淹れたコーヒーを飲みながらホッと息を吐いた金髪が、ふと思い出したように問いかけた。


「で、さっきのって何ですか?」


「さっきの?」


「だから『お前はいつも・・・・・・』の続きは?」


「そ、それは、その ・・・・・・お前はいつも ・・・・・・」


正直に口にするのが照れ臭いのか主人は顔を赤らめて頭を掻いた。


「いつも可愛いよ」


「はあ? なんですかそれ」


金髪は目を見開いて笑ったが、まんざらでもないようだ。


全く、夫婦喧嘩は犬も食わないと言うらしいが、いちゃいちゃカップルの喧嘩は猫だって食いたくない。


なんだか今夜は色々と動き回って疲れた・・・・・・。


オレが自分の寝床に帰ると、隣の寝室から時折二人の笑い声が聞こえて来た。


やがて笑い声は静かになり、微かに子猫のような鳴き声がした。


この家にオレ以外の猫はいないはずなのだが、なぜか時々寝室から聞こえてくる。


ただそれは「子猫のような」ではあるが “猫語” ではない。



閉め忘れたカーテンの隙間から、夜空の真ん中で金色に輝くまんまるな月が見えた。


独り身は気楽だが、こんな夜は少し寂しくて神様にお願いしたくなる。


「神様、俺も可愛い恋人が欲しいニャア」(=^・^=)

 

 

 

 

 

ドキドキおしまいドキドキ