⚠只今企画で使用中っ!
リスポンでの企画でございますっ。



声劇「風に溺れる」

男1人、女1人

A(男性):後輩。先輩が好き。
B(女性):先輩。傲岸不遜。


↓本文↓

A(独白):
一陣の風が吹いた。

それは携帯の鳴る音だったり

素っ気ないあなたの声だったり

水飛沫の煌めきだったり

まるで、静かで、身勝手で、

いつも僕を退屈な日常から颯爽と連れ去っていく。

B:ぷはっ。

A:…先輩の水着姿。

B:ん?あぁ、ようやく来たか。
予定より3分18秒早かったな。
だが、2分14秒の遅刻、まぁ上出来だ。

A:今から10分で学校のプールまで来いなんて言う人は来てもらえるだけで有り難いと思うべきです。

B:(楽しそうに高笑いをする。)

A:ちょっ、声デカいっす先輩。

B:どうして?
哀しいときは泣き、楽しいときは笑う。
それは人間にとって当たり前の常識、自然の摂理、果ては宇宙の心理だ。

A:何がそんなに楽しいのかは知りませんが、僕たちは学校の常識、摂理、心理に逆らって、夜のプールに忍び込んでいるんだってことを忘れないでください。

B:ほう、口答えも達者になってきたな。
ふむ、今の君も勿論好きだが、
昔のなんでも「はい」と言っていた君が可愛くて好きだったんだがな。

A:…。
んで?僕をここに呼んだ理由をそろそろ教えて下さい。

B:あぁ、見せたいものがあってな。
あ、別に私の水着姿とか、華麗な遊泳姿とか、ましてや溺れた竜兵ちゃんの物真似とかじゃないぞ。

A:それは残念です。
じゃあ、それ以外で見せたいものとは?

B:飛び込みだ。

A:は?

B:プールそばにある庭の草むしりの最中(さなか)。
時刻は4時半過ぎ、フェンスの向こうでは、汗を流す水泳部たち。
そこで見た飛び込みがとても美しくてな。
だから私もやりたくなった。

A:え、あの、すいません、その前になんで草をむしってんすか。

B:そんなのは決まっている、用務員さんの仕事っぷりがとても美しかったからだ。

A:ソウデスカ…。
通りでどこを探してもいないと思ったら…。

B:まぁ草むしりは君の手を煩わせなくても出来るからな。
なんだ、君もやりたかったのか?
この物好きめ。

A:…先輩に言われたかないです。

B:私が物好きだと?
それは少し違う、私は私の思想で経験で感性で美しいと思ったモノを

A:あー、ごめんなさい、ボクガワルカッタデス。

B:わかれば良い。
という訳で善は急げと、練習をしていたんだが、まぁ私も大概天才でな。
もう習得してしまったから、そうなると誰かに見せたくなってな。
 
A:…。
分かりました、では、一体どんな物なのか、一応期待しておきます。

B:はぁ…昔はあんなに素直で可愛かったのに。

A(独白):
本当は言いたいことが沢山あった。
先輩の太ももが真っ赤になってること、とか
先輩の水着姿、可愛いな、とか
先輩の美しいって基準を知りたい、とか
何故呼んだのが、僕なのか、とか。
そういうのはいつも胸の奥に押し込んできた。
この距離が愛しくて、本音を歪めた。

se:飛び込む音。

A:…綺麗。

A(独白): 
故に。

B:ぷはっ!
はは、どうだ!
私は美しかったか?

A:はい、とても素敵でした。

B:別の言葉で!!

A:は?あ、えと、とても綺麗で、

B:で!

A:美しかったです。

B:そうか!
(もう一度高笑いをする。)

A:だから声デカいっす先ぱ

B:なぁ、さっきも言ったが!
私は私の思想で経験で感性で美しいと思ったモノを愛(め)で、美しいと思ったモノの傍に少しでもその身を置きたいと願っている!

A:え

B:後は分かるな!

A:なんすか、それ。

A(独白):
やっぱり、先輩には、敵わないって思った。

A:先輩、僕

B:あ、マズイ、警備の人にバレた。逃げるぞ。

A:え?うそ、このタイミ

B:続きはまた今度だ!

A:待って、その格好で逃げるんですか!?

B:失敬な、コート羽織ってきた!

A:夏の変質者完成ですね!

B:退屈しないだろ?

A:(笑う。)
はい!

A(独白):
夏の夜にまた一陣の風が吹いた。

A:先輩こっちです!

A(独白):
風の随(まにま)に僕も歩みだすと

B:あぁ、任せた!

A(独白):
慌ただしくも案外、僕に寄り添ってくれている。
そんな風(ふう)に思えたんだ。