近くにドイツ菓子の店があるんです。

近くに、といってもバスに乗らないといけない場所なんですけど。

そこのお店は生菓子は勿論ですが、焼き菓子が美味しいと評判で、

二階には省スペースのカフェスペースがあります。

小さなテラスを挟んだ反対側はきっと従業員用ルームなんだろうなと思いつつ、

そのテラスは勿論、お店の周りを彩る花々も実に手入れが行き届いていて、

ものすごく華やかな雰囲気ではありませんがホッと安らげるお店なんですよ。

 

そこが先月?先々月くらいからずっと店を閉めていました。

普段前を通るわけではないのですが、そこの場所の更に向こうにある八百屋さんに行くことが

二週に一回はあるわけで、車で前を通るたびに

「またしまってる。でも門前も綺麗だし、閉店という風な張り紙にも見えないし…」

と思いつつ停車してまでドアに張り付けられた張り紙を読む時間が無かった為そのままにしておりました。

 

ここで話が少し跳びますが、

『英国一家、日本を食べる』という書籍をご存知でしょうか。

その名前の通りに英国人ジャーナリストのマイケル・ブース氏が日本食文化について書いたものなのですが、

いまこの人はあるコラムを書いておられるのですね。

それがこちら、「マイケル・ブースの世界を食べる」。

月一連載なのですが、なるほどねぇと思わされることも多々あり、結構楽しみにしています。

それで今月の記事が「グレーリスト」という話だったわけなのですが(詳しくは上のリンクからご覧ください)、

大雑把に要約すると、

「人に「どこかいい店教えて」と言われたら、店の雰囲気とか味とかまあ悪くはない店(=グレーリスト店)を教えるよね。

 でも、一番いい、自分が今度もまた来ようと思う所は、やっぱり秘密にしちゃうんだよな」

という内容。

 

ここで冒頭のドイツ菓子店に戻るのですが、

どうしてこのお店がずっと閉めていたか、その理由が分かりました。

 

某有名テレビ番組(一度ゴールデン枠になり、今再び深夜枠に戻った)の特集で

「本当に美味しいバームクーヘン」

の中でこのお店のバームクーヘンが取り上げられてしまったそうなのです。

「しまったそうなのです」とは書きましたが、ちゃんと取材許可を得てのことなので、

テレビ局側が悪いというわけではないとは分かっているのですけれどね。

ただ、番組終了からバームクーヘンの注文が殺到。

オンラインショップを立ち上げてはおられたのですが、

連日続くバームクーヘンの大量注文に通常営業が間に合わず、

仕方なく店を閉めてそちらに対応するということが理由だったそうです。

 

誰が悪いわけでもないし、名前が知られるのはいいことなんですけどね。

それに何より売り上げが伸びるのは喜ばしいことであるはず。

先週、久しぶりにその店の前を通ったら通常営業に戻られていました。

 

が、その店の前でスマホやタブレットで写真を撮る人々のなんと多かったことか…。

 

 

ここってそんな写真を撮るような場所じゃないんだけどなぁ、住宅街だしなぁ。

その店に通い詰めているわけではない私が抱いて感想ではないと思うのですが、

なんでしょうか、ものすごく残念というか…悲しいというか…。

グレーリストの記事を読んだ時、

「このお店は私にとっては誰彼構わず知ってほしい場所では無かった」

という感じがまさにこの話だよなと思ったわけです。

 

だってあそこ、確かにバームクーヘンも美味しいのだけどさ。

それよりも和栗のパイが絶品なんですよ。

そんなことを知られることなく、みんなバームクーヘンばかり注文しているのかなぁ。

「バームクーヘン以外のお菓子も美味しいですよ」

とかブログやTwitterに書かれちゃうのかなぁ。

 

それが残念で、悲しい理由でした。