酪農学園大学獣医学類推薦入試の不合格から
しばらく経ったある日。
いつも通り
「いってきます」と学校へ出かけたタロウ。
送り出した後
家事を済ませているところに電話が鳴った。
こんな朝から誰だろうと思いながら
スマホの画面を見ると、
タロウの学校名が出ている。
学校から?
何の用だろうと思いながら電話に出ると、
担任の先生からで
「タロウくんどうかされましたか?
まだ学校に来ていませんが」
と言われた。
「えぇ〜?!
朝いつも通り家を出たんですけど…
まだ学校に着いてないですか??」
まさか事故!?![]()
いやいや
登校中の事故は中学の頃やらかしたもん。
ほぼ同じ通学路でまた事故るなんて、
さすがのタロウでもないない![]()
頭の中で朝からのタロウの様子を振り返る。
いつもの時間に起きてきて
朝ご飯もちゃんと食べた。
特に元気がない感じもなかったと思うが…
どうしちゃったんだろう![]()
とりあえず先生には
「ご心配おかけして申し訳ありません。
今から思い当たる場所を探してみます。」
と伝え、電話を切った。
一応タロウのスマホに電話してみるが、
繋がらない。
そりゃそうだよね…
車を出し、高校までの道や公園、図書館など、タロウの行きそうな場所を探してみる。
夫に言われた通り、
最寄り駅の自転車置き場にも向かう。
車を停め、
タロウの自転車がないかを見て回る。
思い当たる場所をぐるぐると探して回ったが、
結局タロウの姿も自転車も見つからないまま、仕方なく引き返した。
家まで戻る道のり、私は
自分の高校の頃のことを思い出していた。
いつも通り学校へ向かうバスに
乗っていたある日、
突然途中のバス停で
ふらっと降りてしまったことを。
直前までそんなことするつもりもなかったし、
なんでそうしてしまったのか、
自分でもわからない。
その後どう過ごしたかもよく覚えていない。
ただ、
ふらっと降りてしまった瞬間の記憶だけは
たしかに残っている。
タロウも同じだったのかもな
そう思えた。
だからあまり心配はせず、
そのうち帰って来るだろうと
いつも通り仕事に戻った。
夕方家に戻ると、
タロウは自分の部屋のベットに寝ていた。
それほど心配していなかったとはいえ、
やはりほっとした。
無事に帰って来てくれてほんとによかった![]()
「おかえり」
とだけ声をかけ部屋を出ようとすると、
「明日はちゃんと行くから。」
布団の中からタロウの声が聞こえた。
落ち着いたしっかりとした口調だったので、
安心した気持ちで
「うん」
と返事したことを思い出す。
タロウの姿が
疲れた鳥が羽を休める姿と重なって
ちょっと胸が痛かった。
「どうして学校をサボったのか」
私は自分の経験から、
そんなこと聞いても意味がないと思えた。
あの時の私だって
自分自身の気持ちが、行動が、
よくわからなかったのだから。
受験の重み。
彼女や友だちとの関係。
イヤでも見えてくる理想と現実。
きっと、
自分でも気づかないうちに
いろんな感情がもつれ合い、
どんどん自信がなくなって
逃げ出したくなってしまったのだと思う。
答えを一つに絞って説明できるほど
単純なものではないのだ。
そもそも
自分の感情のもつれを
きちんと言葉にできるなら、
こんなにも悶々とはしない。
ふらっとそういう行動に出てしまうのは
心と体がSOSを出しているからなのだろう。
母親の私にできることはいつだって
いつも通りあったかいご飯をつくり、
提供することだ。
人の心と体は間違いなく、
口にする食べ物からできている。
「ごはんだよー」
いつものように声をかけると、
タロウは部屋から出てきて晩ご飯を食べた。
それでまた一つほっとした。
次の朝、
タロウは昨日の言葉通り
何事もなかったかのように学校へ行った。
一日休んでエネルギーを
充電できたのかもしれないな
よかった![]()
後からあの時どこにいたのか聞いてみると、
子どもの頃散歩がてら寄って遊んでいた
小さな神社で寝てたらしい。
あ〜
それは思いつかなった![]()
タロウはかくれんぼ得意だったよなー
なんて変なこと思いながら、
だけど
すぐに見つかる場所じゃなくて
よかったのかも
とも思った。
あの日のひとりきりの時間が
タロウにもう一度前に進む力を
与えてくれたような気がする
タロウ、
これからも色々あるだろうけど
つまずきながらでいい。
ゆっくりと、一歩一歩前に進んでいこう。
