前回のブログにて触れた
井原隆一氏の著書『財務を制するものは企業を制す』について
ご紹介しましょう。

「財務分析の本じゃないの?」
「だったら、興味ないな~」

そんなこと言わず、お付き合いくださいね。
きっと得るものがあるはずです。


それでは
【ケース1】:井原氏が関わった企業での実話。


部課長がそろって深刻な顔をしながらやって来て:
「支手(支払手形)決済のめどがたたない」

いかにも銀行へ出向いて借金交渉をしてくれ、と言わんばかり
だった、そうです。

井原氏は、そこで貸借対照表を取り寄せ、一言:
「ここにある資産の部は、すべて資金である。この中から生み出せ」
と。

その結果、この企業は必要な資金を自前で捻出し
「借金なしで済ませた」
そうです。


氏曰く:

「もし私が銀行へ出向いたとすれば、知恵を出すことはなかったろう」
「借金利息を払わず、知恵を得た。この智恵は会社にとって金のなる木
を得たのと同じである」と。


【ケース2】:期末に、今期実績見込みと翌期の見通しについて報告を
受けた時のこと。


「今期見通しは売上高35億円、純益2億円、現在人員90人」
そして来期生産計画の説明に入ろうとしたので、

井原氏は次の指示を出したそうです:
「ちょっと待ってもらいたい。実は、皆さんに計算してもらいたいこと
があるので、今日の会議はこれまででやめ」
「1週間後に再開してもらいたい」

さらに、
その計算をする上で、次のような前提条件を提示:

(1) その計算の第1前提:
低成長下の競争激化時代である。従って、今期売上高35億円より
5年間増加しない!

(2) その計算の第2前提:
物価上昇の折(当時)から、資金を据え置くことはできない。
年10%ずつ5年間上げつづけ、原材料、経費は年7%ずつ上昇する!

(2) その計算の第3前提:
部員90人のままで、同じやり方で、同じ製品を同じ量だけ5年間造り
つづける!


1週間後カムバック、その計算の結果報告は:
「5年後に黒字2億は、6億7千万円の赤字になります」
「計算してみるまで気がつかなかった」と。

その会議で井原氏は:
「そこで、この際、6億の赤字を黒字にする方策を至急考え、すぐ実行
に移してもらわなければならない」
「その具体策を、2週間で作り提示してもらいたい」
と注文をつけたそうです。

その後、3度目の会議では、具体策が提示され、それを見た井原氏は:
「私の予想を上回るほどのものであった」
と結んでいる。


井原氏は何故このような厳しい指示をしたのでしょうか?

「今期の報告を聞きながら、私は、何となく、得意になっている、
慢心している、将来を楽観しているという感じを受けたので・・・
この際、目を覚ます必要があると感じた」
ためと記しています。

どうでしょうか。


「あなた」の会社を取り巻く環境が刻々と変化していますね。
現在のオペレーションをそのまま継続することに不安はないの
でしょうか?

もし不安があるなら、どのような手を打つのか?


『財務を制するものは企業を制す』とは、

決して財務分析の話しではなく、

「あなた」の会社財産(人材、利潤、資金、サービス等)を増やす
ために、
考え、考え、そして考え・・・会社構成員の知恵を総結集し、
戦略的にものごとを考え、それを具体的な行動計画に展開し、
そして、実践することを意味すると思うのです。


(完)
1997年、四大証券の一角を占める山一證券が自主廃業。
当時、あの巨艦が沈没するなんて誰が予想したでしょうか?

野澤社長の苦渋に満ちた記者会見のシーン。
その残像は、今でも脳裏の片隅にあります。


実は、その4年前(1993年)、
『「沈みゆく船」と題された極秘報告書がまとめられ、
会長、社長ら首脳5人だけに配られた』
そうです。

この報告書をまとめたのは当時の企画室部長。
報告書によると:

「わが山一丸は今確実に沈みつつある・・・5~6年以内に破綻する」
「現時点での簿外含み損失5200億円」
「本社資産の含み益を加えても償却できない」

と、警告を発していた、とのこと。


首脳陣は早くから危機的様相を認知しながら、
結果的に、社員は勿論のこと、株主さえも欺いていたことになります。

主幹事の監査法人も、その職責を公正に全うしていたとはとても
思えません。
厳しい言い方をすれば、見て見ぬふりだったのでしょう。


ところで、何故その「簿外含み損失」は表面化しなかったのか。

首脳陣の思いは意外と単純で:

・その巨額の損失を先送りさえしていれば、
「何とかなるだろう」
・やがて、相場は回復し、
「いずれ株価は戻るはずだ」
・当該損失の穴埋めができるにちがいない(そうなってほしい)、
「山一が潰れるはずがない」

なんて、ガラスのように脆い夢を見続けていたとしか考えられません。


そして・・・奈落の底へ転落。


それにしても、
景気などの外部環境の好転を神頼みするような経営陣のもとで、
突然、過酷な境遇にさらされた社員たちはたまったものではありません。
その憤怒と狼狽ぶりはいかばかりだったでしょうか。

ただ、
一部の役員・部長クラスは、
事前に得た断片的な社内情報をもとに危機の到来をうすうす感じ取って
いたはずで・・・
密かに脱出計画の準備を進め、難を逃れた輩もいたにちがいありません
・・・が・・・部下は蚊帳の外。


この倒産劇を思い出すたびに、ふと、
井原隆一氏の著書『財務を制するものは企業を制す』にある
言葉が思い浮かびます:

「創業は易く、守成は難し」
「経営は結果であり、結果はすべて数値に現れる」
「現在の数値は将来の数値を暗示しているはずである」


そこで言いたいことは:

今、「あなた」が目の前にある業務に没頭している時でさえ、
会社の経営、そして資金繰りが順風満帆とは限らない、ということです。


「あなた」は
所属する会社組織の(会計・財務)「数値」について:
・認知していますか?
・説明をうけていますか?
・現在、その「数値」に、「あなた」はどのように関わり、
そして、今後、どのように関わっていきますか?

その「関わり方」に大切な意味があると思うのです。

“わたしの会社の「数値」を知るのはオーナー社長だけです”
なんて、決して自慢できることではありません。


会社規模の大小を問わず、
山一證券の二の舞だけはまっぴらです。



<続く>
先に記述した「二つの大局的な視点」を背景に、
また、EU発“金融クライシス”という暗雲漂う現在、

2012年度に向けての心構えは:
「IT業界を取り巻く環境の急変に備えなければならない」だ。


目の前に「滝つぼ」がある。

「何も起きないと思うよ」とたかをくくっているのかもしれないが、
突如、それに向かって急降下する瞬間・・・・
後戻りできないことに気づく・・・ああ・・・。

「肝心なことは見えないもの」だ・・・いや、
「肝心なことを見ようとしない」のだろう。

それでも、
「オレはそう思わないよ」
「ウチは大丈夫」「きっとなんとかなるさ」

それだけ自信があれば、心配ない。

さもなくば、


<ステップ1: 最優先課題は何か?>


ソフトハウスの社長である「あなた」にとっての
2012年度の「最優先課題」は何だろうか?

think!・・・
think!・・・

個人的な見解で恐縮だが:
「財務体質の改善、強化」こそ、その筆頭に掲げたいのだ。
「Cashを積み上げて万一の事態に備える」こと。

特に、今年は・・・。
「あなた」の会社が「滝つぼ」に落下してもらっては困る。

経営リスクをいかに回避するか・・・
「あなた」の知力が試される年でもある。

さらに攻めの課題を加えて、並列にランキングしていただくのも
大歓迎だ・・・が、「財務体質の改善、強化」だけは外せない。


<ステップ2: シナリオメーキング(1)>


さて、
「あなた」が責任をもって掲げた「最優先課題」の解決に向けて
具体的にどのようなシナリオを描くのか。
そのシナリオこそ、「あなた」が年頭のK/O会議で全社員に語りかける
内容だ。


【第一回】に例としてあげた「数値目標」だけでは、不十分であり、
シナリオとして完結しない。

ここで、過去3年間の予実管理表を紐解いてほしい。
定めた「数値目標」なるものは、現実として達成したのだろうか?
恐らく・・・否。
ソフトハウスの90%は現状維持、昨年並みが精一杯だったのでは
ないか。

「あなた」は「今年も会社は何も変わっていない」ことに気づき愕然
としたこともあったのではないか。
その時、社員の気持ちのゆがみに思いをはせる余裕はなかっただろう。

今年も、このパターンを繰り返すのだろうか・・・


そこで、
次の「命題」の真偽について、自らに問いかけてほしい:

<命題>
「社員の勤労意欲と企業の成長との間に相関関係がある」
すなはち、
「社員のやる気は、“会社が成長しているな“と実感できるときに
スイッチがオンになる」


いかがなものだろう。

また、
「成長」といっても、それは「量的な成長」ばかりではなく、
「質的な成長」をも意味する。

個人的には、この「質的な成長・進化」こそ重要視したいのだ。


<ステップ3: シナリオメーキング(2)>


さて、
「最重要課題」の一つである「財務体質の改善、強化」は
経営上の2012年度の必達目標でもある。

次のステップは、
どうすれば、そうなるのか?・・・具体的に展開しなければならない。

think!・・・
think!・・・


そのための取り組みとして、まずは「ビジネスの原点」に回帰してみては
いかがであろう:

「ビジネスの原点」=「ビジネスを維持・成長させる方法」だ。

「あなた」にとって、それは何か?


ご自分のAnswerをお持ちであれば、心配ない。


さもなければ、
「ビジネスの原点」へのアプローチとして、是非、参考にして欲しいのは:

次の三つの領域(三点セット)から攻めてみることだ。


1. 新規顧客の開拓:

・最も労力・コスト・時間がかかる領域だ。
・新たな「人と人との信頼関係」構築には時間が必要なのだ。
・新たな技術分野への参入を考えるのも面白い。
・「あなた」ならどうする?

2. リピート率を上げる:

・単純に「稼働率」をあげることを意味しない。
・「営業サイドからのリピート」と「技術サイドからのリピート」。
・技術者の育成、達成感、帰属意識の高揚につながる手立てとは。
・「あなた」ならどうする?

3. 取引単価の増額:

・経験年数だけでは、「単価アップ」の実現はおぼつかない。
・社員のスキルを客観的に把握する道とはなにか。
・会社として何を目指すのか。
・「あなた」ならどうする?


さあ、もう時間がない。

上記「三点セット」について、「あなた」の会社として、どのように
取り組み、そして具体的なシナリオに落とし込んでいくのだろうか。

それは、同時に、
あのざわめきから聞こえてきた:

「どんな会社を目指したいの?」
「オレに何してくれるの?」
「わたしは何をすればいいの?」

社員の声に耳を傾け、応えるものであって欲しい。
社員こそ“ダイヤモンドの原石”だから。

・営業部隊のシナリオ:
(オレは何をすればいいの、それはオレにとってどんな意味があるの?)。
・技術部隊のシナリオ:
(私は何をすればいいの、それはわたしにとってどんな意味があるの?)。
・全社、あるいは組織としてのシナリオ:
(会社はオレ達に何をしてくれるの?)。

「三点セット」はそれぞれが密接に絡み合う。
その組み合わせ次第では、大きな相乗効果をもたらすだろう。


こうして、
「あなた」のシナリオはすでに手元にある。
それは、「会社の生き方」を表現したものであり、
「あなた」の会社の「思想」と同義でもある。

そのシナリオを、社員に語りかけ、そして、
日々の活動に結びつけ、尽力し、
四半期ごとに見直しを図り、
「あなた」の会社にとって最も相応しい
「三点セット」のベストミックスを探し求め続けてほしい。

結果として、
例え、量的な売上目標が未達であったとしても、
シナリオに沿ったいくつかの重要な「質的な前進」があれば、
しめたものではないだろうか?

生き残るためには、「質的変化」をコツコツと積み上げるしかない。
それは高利益体質(PL勘定)への近道であり、
健全な財務体質(PL勘定+BS勘定+cash flow)への基盤となる。


毎年、「何も変わらない」は・・・まずい。
「思想」に裏打ちされた「シナリオ」の欠落が・・・まずいのだ。


最後に、
2012年度が、「あなた」の会社、そして全社員にとって、最良の年と
なりますようお祈りしております。


<完>