健さんが亡くなりました。1931年生まれ。享年83。三船敏郎(1920年生まれ)、石原裕次郎(1934年生まれ)、いわゆる日本映画界の「銀幕のスター」の最後の柱がなくなってしまいました。生命を宿した以上、それに終わりがあることはわかってはいても、率直にさびしい。


健さんと言えば、寡黙、不器用が代名詞。それを演じてきた名優。私には「ダンディズム」という言葉が思い浮かびました。日本語に訳すと「壮年男性の独特の男らしい雰囲気が出ているさま」とありました。一方で、「伊達男」とも訳され、「人目を引く、しゃれた身なりの男。また、侠気(きょうき)のある男。侠客。男だて」を意味するようです。


「ダンディー」。もともとは18世紀 後半から19世紀 英国 において、「身体的な見た目や洗練された弁舌、余暇 の高雅な趣味に重きを置く男性のこと」であるそう。これだと、健さんのイメージとは乖離してしまいます。義理に裏打ちされた確固たる自我と弱者への揺るぎなき慈愛、それが健さんの真骨頂、だと思います。




高倉健

健さんの振舞いは、私世代以前の男たちの理想像のひとつです。私も健さんのように寡黙で、真摯に立ち振る舞いたい、そう思いながらも、いつまで経ってもその域に達し得ない歯がゆさがあります。しかし、健さんが銀幕で示してくれた男の生き様は、健さん亡き後も何でも作品を通じて確認することができます。


一昨年の主演映画「あなたへ」のロケ地として協力を受けた富山県富山刑務所を健さんが訪れた映像が流れました健さんは受刑者に対して、自分は役者生活のほとんどを皆さんと同じ制服を着て演じた役者です、と噛締めるようにして次のように語りました。


「1日も早く、あなたにとって大切な人のところに帰ってあげて下さい。心から祈ってます。どうぞお元気で出所して下さい」


この言葉は、健さんでしか受刑者の心に届かないと思いました。健さん、お疲れ様でした。ありがとうございました。







高倉健インタヴューズ/野地 秩嘉

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