成人の日。今日、この日を迎えた新成人は1994年、平成6年生まれ。まずは新成人の方々、おめでとうと言わせてください。自由の幅が広がる一方で、それなりの責任もついてきますが、「大人」としての第一歩に就いて、皆さんの前途には輝かしい可能性が広がっています。


私がかつて席を置いたR社の創業者は、「人は、その望むところまで伸びる」と言いました。裏を返せば、望まなければそこまでしか伸びないという厳しい箴言でもありますが、20歳の今、皆さんの想いはそこに向かう情熱さえあれば、いかようにも実現することができるという点では、全員に公平に開かれているんですね。


1994年といえば、物価変動の程度を表す物価指数であるGDPデフレーター上、日本経済がいわゆるデフレ現象に陥った年。そして、それから20年後の今、皆さんの成長とともに、やっとデフレ不況から脱却できそうなところにきています。


新成人の親御さんたちは、この20年間右下がりの経済状況の中で、一所懸命あなたたちを育ててきたんですね。新成人の親御さんたちにも、おめでとうございます、と言わせてください。その親御さんたちは、成人の日を右肩上がりのときに育っただけに、そのギャップに苦しまれたことでしょう。



かくいう私は、あと5年で、還暦。新成人の方々のおよそ3倍の人生を生きることになります。そんな我が身を振り返れば、とても皆さんに偉そうなことは言えないのですが、本を読むこと、多くの人と接すること、3年間は一つの仕事に打ち込むこと、この三点だけは、あなたにとって損になることはないと、断言しておきたいと思います。


いわゆる、バブルを経験した大人たちは、お金が魔物であることを知りました。そして、先の大震災での多くの犠牲のもとに真の人生の意義を今やっと知ることになりました。その大人たちの親御さんは、戦争による凄惨な現実を目の当たりにして、祖国の復興のために汗を流してきました。


日本という国が、世界の国々との門戸を開いて約150年。様々な栄光と辛酸を経験して、今に連なっています。そんな国に生まれた新成人。世界中のおよそ200カ国の中で、およそ1/60の人口を占める極東の島国がまがりなりにも世界第三位の経済大国であること。


そして、この日本が培ってきた技術、文化のありようが世界に注目されていること。その中で皆さんのこれからの人生の選択は自由です。どうか、自分の可能性を閉ざすことなく、チャレンジして欲しいと思います。








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