最近はとんと行っていないカラオケですが、一時のボックスブームから今はどうなっているのでしょうか?またこれからどうなっていくのでしょうか?そんな疑問から昨日、「カラオケ文化産業論」(野口恒編著/PHP研究所)という本を読みました。


カラオケ産業文化論 「日本に誕生して三十余年、現在、カラオケを楽しむ人口は五千万人弱、関連事業は一兆円に近い。これだけの巨大エンターテインメント市場は、いかに開拓されたのか。本書では、日本人のライフスタイルを変えてきたカラオケの歴史と未来像を探っている」。

「そもそもカラオケは1960年代、関西の盛り場から始まったという。歌うという共通の嗜好を通じて、日本人特有の『集い』と『もてなし』の文化が形成された。さらに、音響機器の技術革新も見逃せない。8トラックテープから、ディスク・チェンジャー、通信カラオケ、ボックス……。今では、ケータイカラオケや自動車カラオケなど、いつでも、どこでも楽しめる『ユビキタスカラオケ』の環境が実現している。また、若者だけでなく、ある老人ホームではカラオケ健康体操が導入されているという」。
PHP研究所HP



「カラオケが21世紀の「生きがい社会」をつくるコミュニケーションツールであることを示唆する画期的文化論」という大仰なキャプションに、「カラオケ産業」ならわかるが、「カラオケ文化」というものが果たしてあるのだろうか?と訝しむのは私だけではないでしょう。本書では、業界大手のシダックス・志太勤会長の「文化は社会にくせをつけること」だという言葉まで引用されています。

文化とは、人間が長年にわたって形成してきた慣習や振舞いの体系を指す言葉であり、本書でも指摘があるように厳密にいえば「カラオケ文化」ではなく、「社会の支配的な文化から逸脱した文化事象を指し、ハイカルチャー 大衆文化 の両方を横断し、言語 宗教 価値観 、振る舞い、服装 などを含む」(ウィキペディア)という意味でサブカルチャーに属するものです。

こんな揚げ足を取り的な物言いはやめて、本題に入りましょう。本書は20053月が第一版であり、2年半を経た今日のカラオケはどうなっているのだろうか?と思ってネットでチェックしてみると、次のブログが検索されました。

JOYSOUND WAVEうたスキ という機能をご存知だろうか。HPと完全にリンクしており、カラオケの際に、ログインをして選曲し、歌い、採点など機能を使うとHPに載るのである。その曲を歌った、人たちの中で全国の採点ができるのだ。3位以内だった場合には、カラオケ画面に『みゆさん ○○店』などと掲載される」。(http://blog.still.itigo.jp/trackback/635714

採点機能の相対化、これは本書でも想定内でしたがこれ以上にゲーム化は進行しているように思います。

興味深かったのはカラオケのルーツ。当然それは、今は見ることもないギターや三味線による「流し」でしょ、と思ったんですが、これが実は違うらしいのです。それにはおよそ三つの源流があるというのです。詳しくは割愛しますが、第一は「歌なし」といわれる「歌のない歌謡曲」、第二は「ミュージックボックス」、第三はマイクミキシング機能付きの歌なしステレオ「マイクミキシング」。



井上大祐

加えて、カラオケの発明には10人のアイデアマンがいて甲乙付けがたいらしいのです。但し、カラオケシステムの完成者としては、神戸のバンドマン出身、井上大佑氏の名があげられます。井上さんは1999年「タイム誌」の「The Most Influential Asians of the 20th Century」(20世紀にもっとも影響力のあったアジア人20人)の一人に選出されています。

新世代のカラオケとしては、第一にゲーム文化、ゲームビジネスとの融合、第二ノンPC族の増大によるモバイル化、第三に音楽配信の高速化によるモバイル化、第四にブロードバンドによるネット化によって、携帯カラオケ、BBカラオケ、ユビキタスカラオケという道筋がついているようです。イメージとしてはこれら端末を使って、プライベートスペースに良質な音源が提供され、どこでもカラオケが楽しめるようになる、と。

「ケータイカラオケは、携帯機能付きの着メロの機能をカラオケに応用した新しいカラオケスタイルである。自分の歌いたい楽曲を携帯電話にダウンロードして、好きなカラオケを、好きな時に、追う存分楽しむことができる。また、テレビに接続して家族や友達とみんなで楽しむカラオケパーティに使うこともできる。」

「ユビキタスネットワーク社会」、あえて説明するまでもありませんが、現東京大学 大学院情報学環教授 および東京大学空間情報科学研究センター 教授 の坂村健氏が第3世代のコンピュータ利用形態として1988年ごろに提唱しました。「ユビキタス(ubiquitouus)とはもともとラテン語で、“同時に至るところに存在する”つまり偏在するという意味である。身の回りのあらゆる情報機器を使い、ネットワーク(有線系・無線系)を介していつでも、どこでも、簡単につながるネットワーク社会」ですね。

カラオケのテクノロジーは開発当初から最新のテクノロジーにリンクしてきたところが、今に至るカラオケ産業の強みになっています。同時に、「ソフトコンテンツの制作・著作、ソフト製造、ハードシステムの開発・製造、ディーラー流通の販売メンテナンス。キャリアネットワークの運営、設置拠点の飲食サービス、工事保守、関連アクセサリー、課金回収と、川上から川下まで多くの業界にまたがっており、複雑なバリューチェーンを形成している」。

「その上、ナイト市場(酒場)、デイ市場(ボックス、喫茶)、バンケット(ホテル、旅館の宴会用)、そして家庭用、屋外用が輻輳し、メーカー、商社、OEM」があり、その市場を形成しています。

これからカラオケが日本人にとってどんな存在になるのかある程度は予測できるものの、それがビジネスとして今後も大きく育っていくのかはわかりません。ただ、素材となる音楽ソフトは毎日アーカイブされているので、資源が枯渇することがない以上、サブカルチャーとしては生き続けていくことだけは確かだと思います。



野口恒

野口 恒プロフィール

モノづくりを中心に、情報・技術・人間に関わるさまざまな問題を、独自の視点から分析し、解決方法を提示する。ジャーナリストとしてコンサルタント活動に取り組み、また、「モノづくり」「中小企業の自立経営」「経営全体」をテーマに、業界の最新動向を見据えた講演を行う。

職歴・経歴
1945
年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。法政大学大学院社会科学研究科(経済学専攻)中退。出版社勤務を経て、現在フリーのジャーナリスト(経済評論家)。「情報化白書」編集専門委員、群馬大学社会情報学部特任講師などを務める。

著書
「工業が変わる現場が変わる」「日本企業の基礎研究」「製造業に未来はあるか」「バーチャル・ファクトリー」「シリーズ・モノづくりニッポンの再生(5巻シリーズ)」(以上、日刊工業新聞社)「トヨタ生産方式を創った男」(TBSブリタニカ)「アジル生産システム」(社会経済生産性本部)「超生産革命BTO」(日本能率協会マネジメントセンター)「オーダーメード戦略がわかる本」(PHP研究所)「中小企業の突破力」(日刊工業新聞社)「カードビジネス戦争」「新カードビジネス戦争」「ICカード」「データベース・マーケティング」(以上、日本経済新聞社)等多数。