最近、ルワンダ出身のコルネイユが歌う「TOO MUCH OF EVERYTHING」という曲をよく耳にします。「底のない深い悲しみは男を優しくする」とキャプションされる彼の「底のない悲しみ」は、彼が住んだルワンダの首都キガリで1994年、大統領が暗殺されたことで起きたルワンダ紛争です。罪もない80万人以上の人々が次々と虐殺された、近代史の中でも最も残虐な大量虐殺が行われた、いわゆるルワンダの大虐殺です。
ルワンダはドイツ
、ベルギー
の植民地
でしたが1962年
に独立を果たし、少数派民族であるツチ族を中心とした国家
が成立しました。独立以後続けてきたツチ族による支配に反抗した多数派民族であるフツ族が1973年
にクーデター
を起こし、逆にフツ族がツチ族を支配することになりました。1990年
から1994年
にかけ、フツ族の政府軍とツチ族
のンダ愛国戦線(RPF)との間で行われた武力衝突によりフツ族によるツチ族の大量虐殺がおこなわれました。
このときの惨事については、高級ホテル「ミル・コリン・ホテル」で働く支配人のポール(ドン・チードル)らが巻き込まれた事件を描く「ホテル・ルワンダ」(テリー・ジョージ監督/2004年)という映画で知ることができます。時は1994年、ルワンダの首都キガリ。まさにコルネイユが17歳を迎えた祖国の物語です。
これは民族間の紛争ですが、この世界には宗教間、国家間の戦争の火種は相変わらずくすぶり続けていますね。少なくとも国家間の戦争については一触即発の懸念が語られることが少なくありません。しかし、先日から何度も取り上げているトーマス・フリードマン氏はその著書「フラット化する世界」の中で、フラット化する世界では次のような二つの理論により戦争回避が可能であると述べます。
「世界がフラット化するにつれて、古くからあるグローバルな脅威、新たに台頭したグローバル・サプライチェーンが、お互いに影響を及ぼし、それが目を見張るような国際関係の激動をもたらしていることは確かだ」。
「世界各地を旅するうちに、マクドナルドが出店している国同士は、マクドナルドがその国にできて以来戦争をしたことがないという事実に気づいたのがきっかけだった。マクドナルドにこの事実を確かめてから、私は『紛争防止の黄金のM型アーチ理論を』を提唱した」。
「経済発展によって、マクドナルドの店舗網が利益をあげられるくらいにミドルクラスが成長すると、その国はマクドナルドの国になるということを、その理論で説明した。そして、マクドナルドの国の人々は、もはや戦争を望まない。そのかわりハンバーガーを買うために列に並ぶ。私が指摘したいのは、グローバルな貿易を生活水準向上という一枚の織地に織り込まれた国――マクドナルドのフランチャイズ店舗網ができるのがその証明――にしてみれば、戦争の代償は勝敗には関係なく許しがたいほど高くつく、ということだ」。
また「フラット化した世界でのカンバン(ジャスト・イン・タイム)方式サプライチェーンの出現と普及は、マクドナルドに象徴される生活水準の全般的向上よりもずっと地政学的な冒険主義を抑止する効果がある、というのが「デルの紛争回避理論」の主な主旨だ」。
「デル理論とは、デルが採用しているグローバル・サプライチェーンに組み込まれた二国は、双方がそのサプライチェーンの当事者である限り、戦争を起こすことはない。なぜなら、巨大なグローバル・サプライチェーンに組み込まれる人々は、昔ながらの戦争をしたいとは思わなくなるからだ。それよりも、カンバン方式品物やサービスを提供し、それがもたらす生活水準の向上を享受するほうを望む」。
先日の中越沖地震で
これは国内の災害で引き起こった現象ですが、世界規模で資材帳調達やアウトソーシングをしているサプライチェーンにとって戦争や紛争による操業停止というリスクは、対岸の火事ではないはずです。マクドナルドやデルを誘致している国にとってもこういう事態は国益のためにも回避すべきもので、国にとって死活問題となる現実が、トーマス・フリードマン氏の二つの理論の裏づけになっています。