昨日取り上げた「アウトソーシング」ではなく、「インソーシング」。私はトーマス・フリードマン著の「フラット化する世界」で初めて知りました。「@IT情報マネジメント」の情報マネジメント用語辞典によれば次のような解説があります。

insourcing/社内調達化」
システム開発や運用などの業務を外部事業者にアウトソーシング していたユーザー企業が、その業務を再び自社に取り戻すこと。

米国では1990年代の半ばからITアウトソーシングがブームとなリ、グローバルな金融機関などによる大型アウトソーシング契約のニュースも報じられた。しかし、「思ったほどコスト削減が進まなかった」「開発や運用から得られるスキルやノウハウを経営やIT戦略にフィードバックできない」「ITサービスが硬直化する」「ITガバナンス 上、問題がある」などのデメリットが明らかになってきた。このため2000年ごろから、アウトソーシング契約を見直し・解消して、SEなどを再雇用し、システム関連業務を社内に戻すという動きが散見されるようになる。このようなアウトソーシングと逆の流れを、インソーシングという。


日本企業でも、一度は社内IT部門を情報子会社にしたり、情報子会社を売却や独立などで切り離したりしながら、再び社内にIT部門を組織するケースが見られる。いずれにせよ、どの部分をインソース(自社)で行い、どこからをアウトソースに任せるのかを定める、ソーシング戦略が重要となる。

なお英語で“insourcing”という場合、日本でいう派遣やインハウスの請け負いのように、アウトソーシング側が発注企業の社内で業務を進めるスタイルをいう場合があるので、注意が必要である。


この解説で「注意が必要である」とされる「インソーシング」のもう一つの定義が、「フラット化する世界」では今後の大きなビジネスチャンスになっていることが記されています。同著ではこの象徴的な企業としてアメリカ・アトランタに本社を構える巨大運送会社UPSを取り上げています。



UPS


ユナイテッド・パーセル・サービス (United Parcel Service, UPS)は、「アメリカ合衆国 の貨物運送会社 フェデックス DHL と並ぶ国際貨物航空会社 で、世界200か国以上の国と地域で一日あたり1400万個以上の荷物を扱っている。日本ではヤマト運輸 (現ヤマトホールディングス )と提携。代表者Michael L. Eskew (CEO)、売上高426USドル(2005年度)、従業員数407200人(全世界、2005年度)、輸送機260機(世界第11位の航空会社)」。(ウィキペディア)

「世界を見渡した小企業は、商品の販売・製造や原料の購入をもっと効率よくできる場所がいくらでもあることに気づいた。しかし、それをどうやって利用すればよいかわからないし、自力で、複雑でグローバルなサプライチェーンを管理する資力もない。大企業であっても、自社にはそういう能力が備わっていないと感じて、こうした複雑な代物ん0お管理はやりたがらない場合が多い。たとえばナイキは、サプライチェーンに資金とエネルギーを注ぎ込むよりは、もっと優れたテニスシューズをデザインすることに集中したいわけだ」。(「フラット化する世界(上)」)


こうしたニーズに応える形でUPS1996年に「シンクロナイズド・コマーシャル・ソリューションズ」事業を立ち上げたといいます。UPSでは「パッケージ・フロー(貨物の流れ)テクノロジー」という数学を駆使し、製造、梱包、集配プロセスを、そうしたエンジニアが分析して、設計もしくは再設計し、グローバルなサプライチェーン全体を管理しています。そして、必要とあらば財務面でも援助し、未収金の管理や代金引換渡しも行うというビジネス・モデルを構築しました。


ここでは東芝のノートパソコンを例に挙げています。顧客は東芝に送るためにUPSを利用します。しかしノートパソコンを受け取ったUPSは、それを東芝には送らない。ルイビルのハブにある自社経営のコンピュータ・プリンター専門の作業所で修理します。修理は東芝の審査を経た修理工が行って顧客に配送するというプロセスになっているそうです。これによって、修理に時間がかかると苦情が多かった東芝は、送るのに一日、修理に一日、送り返すのに一日の都合三日で東芝を通さずに顧客の手に戻るすことになるわけです。


この例では修理のアウトソーシングに思えますが、単なるアウトソーシングでは業務全体から一部を取り出し委託する形になりますが、インソーシングでは業務自体をロジスッティックの観点からデザインするところが違うわけです。日本でこういったインソーシング事業をやっている企業があるかどうかはわかりませんが、提携しているヤマト運輸では最近「通販事業」を手がけたというニュースがあっただけです。


*サプライチェーン・マネジメントSupply Chain Management;SCM)は、「供給連鎖管理。自社内外に拘わらない、それらすべての供給に関わる活動の統合化によって経営の成果を高めるためのマネジメント のことである。サプライチェーンとは原材料の源泉から最終消費者にいたるプロセスにおけるものや、サービスの変換に関わるすべての活動を指す。1983年 ブーズ・アレン・ハミルトン(コンサルティング会社)が初めて『サプライチェーン・マネジメント』という言葉を用いる」。(ウィキペディア)