極真空手の世界王者としてK-1に初参戦したフィリオ選手、今は見る影もなくなりましたが規格外の体格とパワーでK-1に衝撃を与えたボブ・サップ選手。そういったK-1にとっての“外敵”的な存在は、脅威の目で見られながら否が応でもその年のK-1GPを盛り上げました。今回もMMAからのアリスター・オーフレイム選手という脅威の外敵の存在がK-1GPにスパイスを与え、バダ・ハリ選手という新世代のヒーローとなることを期待されている選手との構図もあったことから、非常に期待値の高いK-1GPファイナルラウンドとなりました。

今回のK-1GPで最も注目を集めていたバダ・ハリ選手とアリスター選手ですが、両者共に期待通りの活躍を見せてくれました。

バダ・ハリ選手は準々決勝でルスラン・カラエフ選手と対戦。前回K-1史上に残る名勝負を見せてくれた両者の対戦は、序盤から激しいパンチの打ち合いになりました。激しい打ち合いの末、バダ・ハリ選手がルスラン選手から1Rで派手なKO勝ちを収めました。最近の両者の活躍ぶりを比較すると当然の結果と見れるかもしれませんが、ルスラン選手の動きは悪くなかったと思います。両者のパワーと圧力の差が出てしまったと感じました。ルスラン選手のパンチが当たる場面も見られたのですが、パワーが増しているバダ・ハリ選手の一発一発の方が強力でした。元々打たれ強い方ではないカラエフ選手がバダ・ハリ選手のパンチに沈む結果となりました。

アリスター選手は準々決勝でティシェイラ選手と対戦しました。普段とは違うやや変わった構えを見せるティシェイラ選手が何かをやらかすのではないかと思いましたが、そう思ったのも束の間、アリスター選手の首相撲からの膝蹴りの餌食となり、ティシェイラ選手が失神KO負けを喫しました。

準々決勝をインパクトのある勝ち方で勝ち進んできたアリスター選手とバダ・ハリ選手は大会前の期待通り準決勝で顔を合わせることになりました。緊迫感のある試合でしたが、積極的に手数を出したバダ・ハリ選手が1RTKO勝ちを収めました。この試合で勝負を分けたのは、手数とスピードだったと思います。アリスター選手は少し慎重に行き過ぎた印象を受けました。ほとんど手数を出さなかったため、バダ・ハリ選手にそのパワーを活かした圧力を掛けられず、バダ・ハリ選手に僅かながらの余裕を与えてしまったと思います。バダ・ハリ選手が手数を出していく中で、打ち合いになった際にスピードで勝るバダ・ハリ選手のパンチがアリスター選手の顔面を捕らえ1度目のダウンを奪いました。勝負を決定付けたバダ・ハリ選手の2度目の左ハイキックはアリスター選手に大きなダメージを与えたようには見えませんでしたが、ダウンを宣告され、バダ・ハリ選手がここで外敵アリスター選手を食い止めると共に、自身のリベンジにも成功しました。

バダ・ハリ選手は決勝戦へ進み、逆のブロックから勝ち上がってきたシュルト選手と対戦することになりました。

シュルト選手は準々決勝でバンナ選手と対戦。序盤は動きの堅さが見られましたが、ボディへの蹴りであっさりバンナ選手からKO勝ちを収め、準決勝に駒を進めました。準決勝はレミー選手との対戦。レミー選手は準々決勝でジマーマン選手と僅差の試合を制して勝ちあがって来たため、消耗度の違いからシュルト選手があっさりレミー選手をマットに沈めることが想定されました。しかし、試合開始早々レミー選手がシュルト選手の顎先にフックを当てると、ダウンを奪いました。一瞬、「これはもしかすると!」との期待もありましたが、この一撃がシュルト選手を目覚めさせしまいました。シュルト選手が
GPを3連覇したころの強さを彷彿とさせるような戦い方で、レミー選手を削り、準々決勝のダメージもあったレミー選手からあっさり二度のダウンを奪い決勝進出を決めました。シュルト選手に敗れはしたものの、レミー選手は健闘したと思います。「偽者の王者、演技者」といわれたことに対する意地か、この日のレミー選手の試合からはシュルト選手を王者として倒すという強い意志が感じられました。

バダ・ハリ選手もシュルト選手も準々決勝、準決勝を1RKO勝ちで勝ち進んできているため、両者ダメージの差がほとんどないまま対戦に臨みました。対戦前から新王者バダ・ハリ選手誕生に対する期待が大きく高まっていることが感じられました。バダ・ハリ選手は前回It's ShowTimeでKO勝ちを収めたイメージからか、同じ戦法でシュルト選手との距離を詰めてパンチを出していきます。しかし、最初こそ多少の戸惑いを見せたものの、シュルト選手は冷静にバダ・ハリ選手の攻撃を見極め、一瞬の隙が出来たバダ・ハリ選手に強力な左ジャブを当ててダウンを奪いました。ダウンを奪われたバダ・ハリ選手は勝負を焦ったのか、やや玉砕覚悟でシュルト選手に襲い掛かります。しかし、シュルト選手の放った蹴りに対して、バダ・ハリ選手はミドルを想定したのか、肘が脇に下がったところを、シュルト選手の蹴りを側頭部に受けてしまい、2度目のダウンを喫しました。バダ・ハリ選手は果敢に立ち上がるも、最後は菊野克紀選手の“三日月蹴り”のような軌道のシュルト選手の前蹴りに沈み、悲願の新王者まであと一歩届きませんでした。前回の勝ちのイメージもあってか、バダ・ハリ選手の攻めは若干雑なようにも感じました。結果論ですが、もう少し相手の出方を伺いながら、冷静に攻めた方が良かったのかもしれません。

昨年度のGPファイナル不出場や、その体格差から来る難攻不落の強さゆえにK-1から干され、やや今年は存在感の無かったシュルト選手ですが、あらためてその強さを見せ付けました。また、昨年度GPに出られず、今年度はあまり注目されたいなかったからなのか、以前のようにシュルト選手が優勝したことによる「またシュルト選手か」というような飽和感がありませんでした。逆に「やはりシュルト選手は強いな」と感心すらしてしまいました。

今大会は、アリスター選手という外敵の進行を食い止めることに成功したものの、昨年度にピーター・アーツ選手が退治したと思われた外敵のシュルト選手が、また最強の外敵として舞い戻って来てしまった結果となりました。おそらくこのまま行けば来年以降も磐石の強さを発揮する可能性が高いと思われます。そうなると、シュルト選手が3連覇し、K-1が全然面白くないといわれてしまっていた頃の二の舞になってしまいます。バダ・ハリ選手のシュルト選手へのリベンジも来年のK-1としての一つのテーマですが、バダ・ハリ選手以外にもシュルト選手にとって脅威となる選手が何人出てくるかが、来年のK-1活性の鍵となりそうです。