8月2日(日)に行われた戦極~第九陣~は、2009年の戦極興行の節目に相応しい素晴らしい大会でした。好試合も続出したことから、戦極ベスト興行との呼び声も高い大会となりました。


戦極~第九陣~の盛り上がりの口火を切ったのが、フェザー級GP準決勝一回戦の日沖選手VS金原選手。それぞれの良さが思う存分発揮された試合となりました。まず金原選手の気迫と粘りには目を見張るものがありました。並みの精神ですと極められてもおかしくないようなシーンが幾度となくありましたが、金原選手はことごとく凌ぎました。やはり試合前の舌戦、そしてプロ格闘家として日沖選手とは相容れないスタンスを持つ者として、ただでは負けられない意地があったのだと思います。この金原選手のパフォーマンスには技術を超越した何かを感じました。一方の日沖選手も恐るべきグラウンドスキルの高さで圧倒的な強さを見せ付けました。金原選手の気持ちも凄いものを感じましたが、日沖選手のスキルの高さは、気持ちだけでは超えられないものでした。決してグラウンドスキルの低いわけではない金原選手をほぼ完封といって良いほどの内容で圧倒し日沖選手は勝利を挙げました。しかし、日沖選手は試合中に頭部を負傷したようで、決勝戦は棄権となりました。金原選手の気迫が一矢報いた結果かもしれません。


準決勝二回戦の小見川選手VSサンドロ選手も、一回戦の日沖選手VS金原選手に勝るとも劣らない試合内容でした。このフェザー級グランプリで小見川選手は覚醒したような快進撃を見せていますが、さすがにサンドロ選手相手では厳しいのではないかというのが試合前の印象でした。ところが蓋を開けてみると、互角の勝負が展開されました。試合は判定までもつれ、僅差で小見川選手が負けてしまったかと思ったのですが、その逆で小見川選手は僅差の判定勝ちを収めました。サンドロ選手はパンチが大振りだったものの、その手数は多かったのですが、クリーンヒットがないと取られたのかもしれません。小見川選手は手数では及ばなかったという印象でしたが、途中サンドロ選手が少しぐらつくシーンを見せれたのと、最後のテイクダウンが好印象を残したのかもしれません。サンドロ選手はこの判定結果に不満を露にしていました。


判定では不明瞭だったのが、藤田選手VSイワノフ選手。30-28で藤田選手を支持したジャッジもいれば、30-27でイワノフ選手を支持したジャッジもいました。ジャッジの間で両選手の判定に5ポイントも差がついてしまったことには少々首を傾げました。戦極では選手の優劣を評価する際の明確な基準が設けられていないか、ジャッジによって捉え方が変わるような基準なのかもしれません。


フェザー級グランプリの決勝戦は日沖選手の棄権により金原選手が勝ち上がり、金原選手VS小見川選手となりました。両者共に準決勝で消耗していましたが、お互いに気持ちを前面に出し、この試合も好勝負となりました。金原選手は序盤、中盤と試合を優位に進めました。終盤で小見川選手も盛り返しましたが、一歩及ばず、金原選手が見事フェザー級グランプリの初代王座に就きました。フェザー級には、今回のグランプリでは棄権してしまったものの、未だ戦極では無敗の日沖選手や、リザーブマッチで底知れぬ強さを見せたチャンソン選手、そして準決勝で僅差の判定で初黒星のついたサンドロ選手などまだ未対戦の強豪選手がいるので、まだまだ興味深い対戦カードの組合せが考えられます。今回決勝に残った2名も含め、戦極のフェザー級は今後の展開も楽しみです。


また、三崎選手の事件による謹慎処分で注目を集めた、中村選手とのミドル級次期挑戦者決定戦。この試合は誰しもが三崎選手の謹慎処分が惜しすぎると思ってしまうような内容で中村選手にKO勝ちを収めました。事件を起こして集中して練習が出来ていないことことが想定され、勝利しても挑戦者権は与えられないことから、試合前は三崎選手の精神状態を不安視する声も多く挙がっていました。もちろん三崎選手には色々と思うところがあったと思うのですが、個人的には中村選手に押しかかったプレッシャーも大きかったと思います。自分が勝利しなくては、このミドル級次期挑戦者決定戦というテーマが本当に意味を成さなくなってしまうこと、不祥事を起こした選手に負けるわけにはいかないことなど、中村選手にとっても思うところは非常に多かったと思います。結果論ですが、試合を観た印象ですと無心で試合をしていた三崎選手に対して、中村選手のほうが気負ってい試合に臨んでいるように見えました。それが影響してか、動きも固く、本来の力を発揮できずに負けてしまったのではないでしょうか。中村選手は三崎選手の強さを認めつつも、自分自身に納得がいっていない気持ちがあると思います。


最後に北岡選手VS廣田選手のライト級タイトルマッチ。この試合でつくづく北岡選手の存在に奇妙さを感じました。プロ格闘家として人気が出るには、様々な要素があると思いますが、その中でもストーリー性・感情移入の有無・試合内容の面白さは大事な要素だと思います。戦極の中では北岡選手はこの3つを兼ね備えた数少ない選手だと思います。戦極第二陣から参戦している北岡選手は、ナルシズムを含んだ奇抜な発言で戦極のライト級を盛り上げ、五味選手に対しての挑発、そしてその五味選手との試合での勝利など、北岡選手を誰が倒すのかというポジションまで上り詰めました。試合前のその気違いとも捉えかねられない表情などで、好き・嫌いというように両極端の支持を持つ選手です。この場合の嫌いという感情もファンの関心の集めるのには影響力のあるもので、結果的にそれが選手としてのブランディングに巧く作用した例が秋山選手だと思います。そして常に一本勝ちを狙いにいき結果を出す北岡選手の試合内容は決してつまらないものではありません。それなのに会場に行くと北岡選手への声援は驚くほど少ないものがあります。一体何故でしょうか。北岡選手は戦極が出来る数年前に、お世話になった船木選手に挑戦状を送るなど、一部では良く思っていないファンも多いと思いますが、そういった話を知っているのはコアファン層のみに限りなので、会場の声援には影響しないものだと思われます。戦極では負けが込んでも一方に人気の衰えることがない五味選手を見ていると、勝ち続けても人気が出ない北岡選手は少し不憫にも思えてしまいます。今回のタイトルマッチでは北岡選手は廣田選手に敗れてしまい、初防衛に失敗したと共に、戦極初黒星を喫してしまいました。5R判定決着でも良いという思いが北岡選手にあれば、もしかしたら勝てていた試合かもしれません。それでも北岡選手は1Rからかたくなに一本を取りに行き、自分のスタイルを貫きました。勝利至上主義という観点からすれば、この北岡選手の姿勢に対して批判もあるかもしれませんが、プロ格闘家として少しでも面白い試合を見せたいというマインドは立派だと思いました。PRIDEでは「判定ダメだよ。」という発言をした五味選手ですら、王座についてからは保守的な試合内容が目立ったくらいです。北岡選手が廣田選手にTKO負けした瞬間は、会場がこの日一番の歓声に包まれました。こういった部分でも北岡選手の存在は、戦極というイベントにおいては大きく貢献しているのです。


印象に残っているのが、戦極第8陣での大会開始前の会場前に設置されたテントでのことです。パンフレット等のグッズを販売していたテント内で北岡選手はファンとの交流を持とうと、スタッフの人たちと一緒に立っていました。しかし、私が知る限りですと、気づいた人は少なく、気づいても握手などを求めるファンの人の姿はありませんでした。戦極がまだメジャーイベントと呼ばれるまで成長していないことも影響しているのかもしれませんが、理由はそれだけではないような気がします。ここまで人気が出ない北岡選手の存在そのものに不思議なものを感じてしまいます、しかし、そのような北岡選手を不思議と応援してしまいたくなるような自分も同時にいます。北岡選手は今回のライト級タイトルマッチ終了後のインタビューで、「今までどうもありがとうございました。」という意味深な言葉を残しています。これは何を意味しているのでしょうか。引退の示唆、ウェルター級への転向、もしかすると特に深い意味はないのかもしれません。ただ北岡選手は引退するには早すぎると思います。北岡選手には引き続き活躍してもらい、日本格闘技界を盛り上げていって欲しいと思います。そして、もう少し人気が出れば尚良いとおもっています。