7月20日(月)にさいたまスーパーアリーナにて開催されたDREAM10。この大会ではそれぞれの選手たちの、様々なドラマが盛り込まれていました。

まず残念だったのは桜井マッハ速人選手。ウェルター級GP準々決勝では、当初不利と予想されていた青木選手との試合で衝撃的なKO勝ちを収めたことからも、念願のメジャー大会初タイトルへと大きな期待が寄せられていました。準決勝の相手はウェルター級GPベスト4の中では最も下馬評の低かったザロムスキー選手でした。多くの人がマッハ選手の勝利を期待したと思います。試合中に何度かマッハ選手の強いパンチがザロムスキー選手の顔面を捕らえるシーンもあったのですが、ザロムスキー選手は打たれ強いようで全く怯むことはありませんでした。逆にザロムスキー選手も打撃で応戦しました。そしてリーチに勝るザロムスキー選手のパンチもマッハ選手の顔面を捕らえはじめました。次の決勝戦を意識してKOを狙っていたのか、それでもマッハ選手は果敢に打ち合いに挑みました。打撃の報酬の中で、マッハ選手は目の回りをカットしてしまい、酷い流血が見られました。そこで一度試合は中断されました。その後試合は再開されたものの、これでマッハ選手は更に勝負を焦ったのか、KO狙いの打撃戦を挑みました。ところが逆にザロムスキー選手のハイキックにより返り討ちにあってしまいました。ザロムスキー選手が最後のKOの決め手となるハイキックを打つ瞬間、マッハ選手はミドルキックと読んだのか、ガードが腹部へと下がってしまい、がら空きになった右首筋にまともにハイキックを貰ってしまいました。マッハ選手の優勝を大いに期待していたファンは多かったと思いますが、ここにてマッハ選手のDREAMウェルター級初代王者の夢は潰えてしまいました。

マッハ選手を下した勢いに乗ってか、ザロムスキー選手の快進撃は続きました。もう一方の準決勝でガウヴァオン選手から僅差の判定勝ちを収め、決勝戦に勝ちあがってきたジェイソン・ハイ選手から右のハイキックにて失神KO勝ちを収めました。そして見事初代DREAMウェルター級王者の座に就きました。準決勝を1RKO勝ちにて決勝戦まで来たザロムスキー選手に対して、ハイ選手は準決勝をフルラウンド戦い抜いたため、消耗度の差はあったと思います。ただ、それを差し引いても、ザロムスキー選手の単発で終わることのない打撃のコンビネーションは見事でした。

ザロムスキー選手はウェルター級GP準々決勝では、池本選手相手に1Rで危ないシーンも見られたり、あまり知名度もないことから、今回優勝することを予想していた人はほとんどいなかったと思います。池本選手が健闘したという見方もあるかもしれませんが、それよりもザロムスキー選手は相手が強ければ強いほど良いパフォーマンスを見せる選手なのかもしれません。まだまだ伸びシロはありそうな選手なので、一つずつ穴をなくしていき、持ち前の打撃、スタミナ、身体能力、そして持ち前の気持ちの強さを武器に活躍していって欲しい選手です。今後、更にザロムスキー選手のポテンシャルを引き出してくれるような、強い選手との試合が楽しみです。


その他ワンマッチでは、パウロ・フィリオ選手がPRIDE以来となる、日本での試合となりました。パウロ選手はPRIDEに参戦していた頃から、圧倒的なパワーと寝技の技術を武器に磐石の強さを見せ付け、総合格闘技戦績無敗(不戦敗を除く)を誇っていました。しかしアメリカでWECに参戦後、薬物依存症により入院。復帰戦となったWEC36でのシェノン選手との試合では、精彩を欠くパフォーマンスで総合格闘技初黒星を喫してしまいました。

そのパウロ選手がDREAM初参戦でマヌーフ選手と対戦しました。やはりPRIDEに出場していて日本の格闘技ファンから愛着を持たれているのか、パウロ選手への声援は大きかったようです。試合の方は序盤にパウロ選手がマヌーフ選手のパンチのラッシュを被弾し、危ないシーンが見られました。しかし、パウロ選手はそのラッシュに耐えると、グランドに持ち込み、腕ひしぎ逆十字固めで逆転一本勝ちを収めました。パウロ選手には危うくKO負けしてしまうのではないかと思わせるようなシーンがあり、以前のパウロ選手であればもっと楽に勝てたのではという声も飛んでいます。マヌーフ選手のパンチの圧力が凄かったのか、パウロ選手が衰えているのかはこの試合だけでは判断できません。しかし、マヌーフ選手にタックルは防がれると判断したのか、組み付いてからの投げでマヌーフ選手をグラウンドに持ち込んだところに、パウロ選手の底力が垣間見れたような気がしました。


最後に青木真也選手VSビトー“シャオリン”ヒベイロ選手。ある意味で青木選手がシャオリン選手を完封して勝利したわけですが、青木選手のパフォーマンスに賛否両論が飛び交っています。ファンの多くは最高峰の寝技の攻防を期待していたと思いますし、青木選手自身も極めての一本勝ちや、魅せることをある程度は意識している選手です。青木選手のパフォーマンスは期待していたものと違っていたのが、試合後のブーイングに表れていました。

ただし、これに関しては100%青木選手に非があるわけではないと思います。グラップラー同士が試合をするとお互いの寝技を警戒しすぎる余り、スタンドでの攻防が多くなってしまうことがあると思います。PRIDEで行われたヴェウドゥム選手VSノゲイラ選手はそのパターンだと思います。今後DREAMのミドル級でもフィリオ選手VSジャカレイ選手という世界を代表するグラップラー同士の試合が組まれるかもしれませんが、スタンドでの打撃と差し合いで試合が終わってしまうかもしれません。ジョシュ選手VSノゲイラ選手はジョシュ選手がリスクを考慮しつつも、自信のある寝技でノゲイラ選手に挑んでいったため、あのような名勝負が生まれました。どちらか一方の選手でもリスク覚悟でグラウンドに持ち込めば、寝技の展開も生まれると思うのですが、やはり不利なポジションは避けたいため、リスクを負ってまで寝技に持ち込まないことが多いと思います。シャオリン選手も試合途中でグランドに持ち込もうとするシーンは何度かありましたが、自分が不利なポジションになりそうと察知すると、自分から離れるシーンもありました。青木選手VSシャオリン選手の試合展開は、二人で作り上げてしまったものだとも言えると思います。

また、青木選手はムエタイの練習を熱心に行っているようで、寝技以外でのスキル、総合格闘家としてのスキルを見せたかったのかもしれません。これから更に総合格闘家として飛躍していくという青木選手なりの意思表示の意味もあったのかもしれません。試合内容は面白味に欠けたものだとしても、あのようにシャオリン選手を完封できる選手はなかなかいないと思うので、その部分では青木選手を評価できると思います。シャオリン選手は試合後のインタビューで「判定に納得が行かない。」と言っていましたが、シャオリン選手が何かを積極的に仕掛けたり、青木選手にダメージを負わせたシーンはなかったので、その発言には説得力はないと感じます。

今回の試合で賛否両論の議論を醸し出した青木選手ですが、この試合をきっかけに、10月のハンセン選手とのタイトル戦、そして大晦日で浮上している川尻選手との試合でどのようなパフォーマンスを見せるのかは楽しみです。