もう既にご存知の方々も多いと思いますが、先日ヒョードル選手がコンバットサンボの大会で黒星を喫しました。MMAを含め、公の競技では8年ぶりの黒星です。個人的にはMMAであろうと、その他のジャンルの格闘技であろうと、やはりヒョードル選手の戦績に黒星がついたことには大きな衝撃を受けました。

自身コンバット・サンボのルールに関しては疎いので詳しいことは把握できないのですが、投げに成功した回数の差で、ヒョードル選手の対戦相手であったブルガリアのBlagoy Ivanovという選手に軍配が上がったようです。



これに関して、ヒョードル選手のコメントがUFC FIFGHT.com(
http://www.ufcfight.com/mma/2008/11/fedor-emelianen.html)に掲載されていました。

"I have no excuses for my loss...I lost fair and square. Ivanov is better with his throwing techniques than with his striking. In general I dont think I am bad with my throwing skills, but I was not able to grip him (referring to his gi) properly and Ivanov made the better throws. With the remaining time, I was not able to catch up"

“私は負けたことに関して言い訳はありません。公平に行われた基準の中で負けました。Inanov選手は打撃よりも投げの技術に優れた選手でした。私は自分の投げの技術が劣っているとは思いませんが、投げる際に彼の着をうまく掴むことが出来ませんでした。一方でIvanov選手はうまく投げを駆使していました。制限時間内で逆転することが出来ませんでした。”


下記は、おそらく過去の大会の映像だと思うのですが、打撃も関節技もあり、MMAの要素も大いに含んでいる競技だと思います。ヒョードル選手のコメントからすると、投げが勝敗判定の際にポイントとして大きく影響するようです。



このヒョードル選手の敗戦が今後のMMAでの試合に影響するか否かに関して意見が割れています。この2つに意見が割れるのはごく自然のことですが、やはりヒョードル選手に黒星がついたということに対して各々思うところがあるようです。

影響はないという意見には、MMAとコンバットサンボは共通する部分もある一方で、やはり別物なので影響がないという見解や、むしろ違う競技であるコンバットサンボでも王者であったこと自体が驚異的というような見方があるようです。これに関しては自身も賛同できる部分があります。例えばキックボクシングとK-1も共通項の多いルールでありながら、やはり両方の競技で勝ち続けることは至難の業です。似て非なる部分も多いにあると思います。

逆に影響があるという意見には、格闘技に対するヒョードル選手の気持ちが途切れつつあるのではといった不安や、そもそもヒョードル選手の最強論自体が幻想であったのではという声も挙がっています。これに関しては逆に、自身はヒョードル選手が現MMA界においては最強である可能性は高いと思っています。ヒョードル選手の強さが幻想であったとは思えません。

しかし、当たり前のように勝ち続けてきたヒョードル選手を見てきたからこそ、この黒星に対して若干の不安が無い訳ではありません。格闘技に限らず、物事には流れと言うものがあると思います。競技の勝敗はもちろん対戦相手との力量の比較によって左右される部分が大きいと思いますが、流れや勢いも無視出来ない要因だと感じています。特に勝ち続けてきた選手であればあるほど、その黒星の影響が大きく出てしまう場合もあると思います。無意識の部分で黒星に対する気負いのようなものが出てしまうのでしょうか。例えばPRIDEで無敗のまま18連勝で絶対王者の地位まで登り詰めたヴァンダレイ・シウバ選手。19戦目で階級で上回るハント選手に黒星を喫してしまいますが、その後のPRIDEでの戦績は4勝3敗となっており、ファイトスタイルもそれまでのような勢いを感じさせなくなってしまいました。そのシウバ選手に敗れるまでPRIDEでは11勝1敗1分の戦績を誇り、同階級では負けたことのなかった桜庭選手も、シウバ選手に敗戦を喫してからはPRIDEでは7勝5敗の戦績です。PRIDE25では対戦相手のニーノ・エルビス・シェンブリ選手を終始圧倒しながら、偶然のバッティングによりKO負けを喫しています。それまでの流れでは考えられないような、アクシデント的な負け方でした。

最強論を体現しているヒョードル選手の強い姿をまだまだ見続けていたいですし、ヒョードル選手がMMAで負ける姿を見るのが怖いという想いがどこかにあるからこそ、他競技での黒星に少しの不安を感じているのかもしれません。しかし、優秀な指導者として知られるパット・ミレティッチ氏はヒョードル選手の強さを次のように表現しています。

「ヒョードルの強さはイカれている。誰もが恐れる戦いや挑戦に、奴は何にも特別な感情を抱かずに平然と向き合うことができている。その精神力が奴の強さの源だ」

格闘家の中でも、生物的に何か普通の人間とは異なるものを感じさせるヒョードル選手にとって、今回のコンバットサンボ大会での黒星など今後のMMAの試合には何の影響もないのかもしれません。次戦はアンドレイ・アルロフスキー選手との対戦が濃厚です。アルロフスキー選手は世界トップファイターの内の一人ですが、今回のコンバット・サンボ大会での黒星の不安など掻き消すような、いつも通り圧倒的な強さを見せつけて勝利するヒョードル選手の姿を期待しています。