【泣きじゃくったミッション】

某日 21:20
ソファに座る両親を見上げながら
泣きじゃくる私。
テーブルには花束とケーキが置かれていた。
 
 
今回の投稿では、
この風景に至るまでの経緯を、
順を追って説明させて欲しい。
 
 

実は、
つい先日、
嬉し恥ずかし 哀し儚し
とうとう私は、
40代に突入してしまった。

そして、
その記念日の前日、
19:50
私は
パートナーから渡された鍵を握りしめながらターミナル駅に向かっていた。

時間に見合った人込みの賑わいで、
ハンズフリー通話の彼女の声が聴き取りづらい。

指定された場所には、
確かにコインロッカーが在った。

恐る恐る鍵を差し込む。
回せた!
ロッカーを開けたことを伝えると、
イヤホン越しの彼女の明るい声が、私を褒め称えた。

中には、
大きめの紙袋がふたつ。
ケーキと花束だ。

「あ。なんだ。誕生日プレゼントね。回りくどい渡し方だな」

意を決したように、彼女は声を低くして
話し出した。
 
これは私への誕生日プレゼントではなく、
私にあるミッションを課す為に、
このような演出をしたのだ、と。

そして、
そのミッション内容に
私は言葉を失った。
いや、
あまりの予想外に、理解が追い付かなかったのだ。


20:15
特急電車から真っ暗な風景を眺めながら、
イヤホン越しの彼女の話に耳を傾ける。
そもそも、何故
こんなミッションを、
私の誕生日前日に出そうと考えたのかを。
 
 

20:32
泉州のオフィスに到着すると、

私は、
花束に刺さった白紙のメッセージカードに
心を込めて筆を泳がせる。ゆっくりと。
とても短い言葉。
とても大切な言葉。
  

ミッション開始は、もう目前だ。
  

20:45
泉州の実家に入ると、
御誂え向きのように、両親ふたり揃っていた。
 
 
パートナーから課せられたミッションは、
彼女が用意してくれた花束とケーキを、
私の両親に渡すというものだった。
私の誕生日前夜に。
私を産み育ててくれたことを感謝する為に。
 
彼女にとっても、
どうやら、私は、
自分の人生をとても犠牲的に生きていて、この世界に希望を抱かず、悲観的な未来を眺めたまま生きている、
そう見えるらしい。
   
そんな私だからこそ、
40歳という節目に、
産んでくれた両親に感謝の言葉と想いを届け、
これまでの人生の
大きな蟠り(わだかまり)を解消・リセットし、
自分の生を受け入れ、
勇気を持って肯定し、
これからの人生を、新たな姿で生きていって欲しい。
 
それが
ミッションの目的。
それが
彼女の願い。
 
 
 
ミッション通り、
大切に持ち帰った花束とケーキを手渡す。
自分の両親に。

「産み育ててくれて有り難う」
という言葉を添えて。
  
 
  
私のパートナーは、
五年間 乳児院で働いていたことがある。
そこで彼女は、
さまざまな人生を生きる親たち
さまざまな物語を背負う子供たち
言葉では表し難い親子関係
を見てきた。
 
「せっかくの誕生日(前日)にこんなことをお願いするのは、本当に怖かった。
周ちゃんに嫌われるんじゃないか、怒られちゃうんじゃないか、別れを切り出されるんじゃないか。本当に怖かった。
でも、自分の人生を否定し続ける周ちゃんの姿は見たくなかった。誕生日に、産んでくれた両親へ、心からの想いを伝えることで、新しい人生を生きる周ちゃんになって欲しかった。
たとえ、周ちゃんに嫌われても。たとえ別れることになっても。
    
あのね。
望まれずに生まれてきた命なんか無いんだよ。
子供を愛さない親なんかいない。
周ちゃんも、お父さん・お母さんを、絶対に今でも愛してるから」
電車内で聴いた 彼女の言葉。
  
あの時のパッセンジャーアテンダントさんは、さぞ驚いたことだろう。
耳からイヤホンぶら下げた大の大人が、
涙を流しながらドア口に立っていたのだから。
 
  
 21:37
彼女は抜かりが無い。
母の手で箱から登場したケーキには、
「産んでくれて有り難う」
というメッセージプレートが乗っていた。
  
この時の私は、
涙を出し切り枯らしていた。
 
  
 
  
23:57
茫然自失・放心状態のまま
オフィスの椅子に座っていた。
   
 
両親に何を話し伝えたかなんて、
殆ど覚えていない。
 
花もケーキも全てパートナーによって御膳立てされたもの。
用意周到な彼女によって創り出された時間。
 
だけれども、
実行したのは、
この私自身。
私の中の勇気。
 
勇気を振り絞った甲斐があったかなんて、
何も分からない。
 
今後の親子関係や
今後の私の人生に、
今回のアクションが、
どんな影響を与えてくれるかなんて、
皆目見当がつかない。
 
 だけれども、
  
確かに、スッキリしていた。
明らかに、何かが軽くなっていた。
喜んでいた。
嬉しかった。
   
 
   


翌朝
誕生日と呼べる日
07:11
 
ドラマや映画のような
分かりやすい劇的な変化や感動は無い。
 
だけれども、
呼吸は軽かった。
 
  

  
その日も、
いつものように、
私らしい計算と勘定の1日
が始まった。
ただ それだけ。
  
 
ちなみに、
  
このエピソードには、
結び は無い。
  
もし、
オチがあるとするなら、
今後の私が、それを示していくのだと思う。
確かに《新しさ》を実感している
この私が。
 
 
 
 
 
 
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