鎌倉

以前、こんな風に冬の季節だった気がする。
昔から仲の良い若くして結婚した男友達から、突然電話があった。
夜中に近づこうとしている時間に。
彼は少し黙り、会いたいと言ってきた。
私は会うことは難しくないけれども、今とっても大切な人がいると答えた。
それはそれは大切で、私の人生の中で最も愛すべき男がいると。
そして、大切な男が傷つくことは決してしたくない、と言った。
だから、何があったのか話して。

彼は、もうどうにもならないと悲嘆に暮れていた。
尊敬していた上司が事務の女の子にセクハラし、その女の子に相談されたこと。
でも会社という組織の中で、自分は余りにも無力だったこと。
それから、奥さんに愛されていないこと。
それが、こんなにも寂しく哀しく、自分に価値がないから生きていけない、と。
悪いことは、どうしてか重なり合うように訪れるもので。
八方塞がりだったり、長いトンネルに迷い込んだみたいになる。
だけども、そういった事に答えなど存在しないし、正義も正論も通用しない。
仕事を辞めるか、奥さんと離婚するか、メチャクチャにしてやるか。
私は、幾つかのことを提案した。どうしたい?と。

それでも、彼が出来る事はそれぞれ1つずつある。
そのエロ上司より偉くなること。
奥さんを心から愛し抜くこと。
これなら、自分次第でしょう?
たった1人の力で、何もかも上手くいくような大きく変えられる事は何も無い。
でも諦めたら、もう続きは無いから。
会社を辞めるのも、離婚するのも、明日にでも出来る。
じゃぁ今日しか出来ない事を、とりあえずやればいい。
とりあえずをやっている間は何があっても私が味方でいる、と。

彼は、ほんの少しだけ気が済んだようだった。
彼の悩みは、私がそれに応えようと整理してみると案外、
云っている言葉は自分に対してだったりしたんだと気づいた。
幸せであろうとするには、いくらかの努力がいる。
自分の理想や想いの近くで暮らそうとするなら、もっと努力がいる。
そして人が相手なら、+心が必要になる。
ただ、それだけかもしれない。