「七夕の夢を見たんだ」
僕の幼なじみは、まるでマンガに出てくる勇者のような喋り方をする。
「君と私が、一緒に短冊を飾っていたよ。お互いに見せようとしないんだ」
クスクスと笑う様子は、どちらかというと大人びた紳士のよう。
ちなみに、彼女も僕も高校3年生。
どう考えても変人の部類なのに、成績も運動も常に学年上位だし
言うことが正論で説得力があるので、
だれも彼女を笑ったりしない。いや、できない。
「結局、そこで目が覚めてしまった。残念だ」
『夢では、天の川は見れた?』
僕は彼女に尋ねた。
「あぁ、とてもきれいに見えていたよ」
『じゃあ、今夜も見えるといいな』
「そうだね。毎年、雲が邪魔をするから」
そういって、サッカーに興じる男子たちから目をそらし、
僕と彼女は空を見上げた。
ここまでが、今日、僕が見た白昼夢。
普通に考えたら、こんなことあるワケがない。
今、僕は高校2年生で、
ちょうど去年の今日、七夕の日に
僕の幼なじみは
車に轢かれて死んだのだから。
なぁ、遥。
聞こえるか。
お前が夢で見た短冊に
書いてある願いごとは、
きっと
「遥がずっと横にいますように。」
* * * * * あ と が き * * * * *
なんか…
どことなく中2病のような高2病のような感じがしなくもない…?
くそぅ、通常運転で頭がパーンしててごめんなさい。
※どうでもいい裏設定
男の子は悠介(ゆうすけ)くん、女の子は遥(はるか)ちゃんといいます。
別に恋人ではないです。ただの幼なじみ。
「幼なじみ」って、本来は異性にしか言わないんだって。
知ってたぁ?(豆柴風に言ったらとってもウザくなるよ☆)
死んだ方がいくらかマシだ、とすら思えるほどの
熱くて苦い恋でした。
あなたにも、わたしにも、そして、あなたの想い人にも、
みんな、恋人がいましたね。
ほんとうに、みんな
困った恋ばかりしていました。
すべて、最初から傷つくと分かっている恋。
おそろしい
ただおそろしい光景でした。
だれ一人として、仕合せになどなれないのです。
それが分かっているのに、
あなたも、わたしも、
どんどん沼に足を踏み入れてしまうのです。
あなたは、あの人が好きで
わたしは、あなたが好きで
あの人は、わたしの恋人を思うているのです。
わたしはことに気づいたとき、
どれだけ神様を呪うたことでしょう。
だから、わたしは
けしてあなたと同じ空へ
逝くことは叶わないでしょう。
どうしてでしょうね。
あなたも、わたしも、あの人も、
こんなに狂おしいほどの恋をしておるのに、
どうしておのおのの恋人と
仲を違えなかったのでしょうね。
いまでも、それが不思議でしようがありません。
自分のことすら、分からないのです。
たったひとこと、「別れを」と
云えばすむお話だったのです。
我ながら、
そのひとことすら億劫な
無精者のつもりもございません。
ほんとうに、どうしてでしょうね。
いちばん分からないのは、
いまだにこんなことを書き連ねている
自分のこころかも知れません。
もう、終わったはずなのに。
もう、終わったはずなのに。
どれだけ声を嗄らしても、
どれだけ祈りを捧げても、
届くことは、ないのです。
届くことは、ないのです。
それでもわたしは
あなたの側を、
離れられずにいるのです。
* * * * * あ と が き * * * * *
はいはーい! ここから先、
「他人事だけどちょっとショッキング」
なこと書きますよー。
イヤな人は見ないでちょうだい!
わたしと同じチームにいる会社の先輩と、
すでに退社した1年先輩の元社員さん。
の、元社員さん目線のお話+脚色です。
どのあたりが脚色かは書きませんが、
(あんまり詳しく書くと身バレしちゃう&本人たちに見つかったら超ヤバい)
まぁ、要するに
「いつの間にか面倒くせー間柄になってたよ」って話です。
もう本当、リアルに、
すごく…面倒くさいです…。
っていう鬱憤を、ここで晴らしてみました(笑)
熱くて苦い恋でした。
あなたにも、わたしにも、そして、あなたの想い人にも、
みんな、恋人がいましたね。
ほんとうに、みんな
困った恋ばかりしていました。
すべて、最初から傷つくと分かっている恋。
おそろしい
ただおそろしい光景でした。
だれ一人として、仕合せになどなれないのです。
それが分かっているのに、
あなたも、わたしも、
どんどん沼に足を踏み入れてしまうのです。
あなたは、あの人が好きで
わたしは、あなたが好きで
あの人は、わたしの恋人を思うているのです。
わたしはことに気づいたとき、
どれだけ神様を呪うたことでしょう。
だから、わたしは
けしてあなたと同じ空へ
逝くことは叶わないでしょう。
どうしてでしょうね。
あなたも、わたしも、あの人も、
こんなに狂おしいほどの恋をしておるのに、
どうしておのおのの恋人と
仲を違えなかったのでしょうね。
いまでも、それが不思議でしようがありません。
自分のことすら、分からないのです。
たったひとこと、「別れを」と
云えばすむお話だったのです。
我ながら、
そのひとことすら億劫な
無精者のつもりもございません。
ほんとうに、どうしてでしょうね。
いちばん分からないのは、
いまだにこんなことを書き連ねている
自分のこころかも知れません。
もう、終わったはずなのに。
もう、終わったはずなのに。
どれだけ声を嗄らしても、
どれだけ祈りを捧げても、
届くことは、ないのです。
届くことは、ないのです。
それでもわたしは
あなたの側を、
離れられずにいるのです。
* * * * * あ と が き * * * * *
はいはーい! ここから先、
「他人事だけどちょっとショッキング」
なこと書きますよー。
イヤな人は見ないでちょうだい!
わたしと同じチームにいる会社の先輩と、
すでに退社した1年先輩の元社員さん。
の、元社員さん目線のお話+脚色です。
どのあたりが脚色かは書きませんが、
(あんまり詳しく書くと身バレしちゃう&本人たちに見つかったら超ヤバい)
まぁ、要するに
「いつの間にか面倒くせー間柄になってたよ」って話です。
もう本当、リアルに、
すごく…面倒くさいです…。
っていう鬱憤を、ここで晴らしてみました(笑)
本当にもう
一瞬、目が合うだけで
その日は頬の温度が数度上がってしまう
ってくらい、
好き。
本当にもう
胸の奥の、そのまた奥を
あなたの大きな手で握られ続けている
ってくらい、
幸せ。
本当にもう
あなたの旅立ちの報せをきいて
それでも美しい昔日の想い出に縋ってしまう
ってくらい、
あなたが大好き。
ねぇ、どうして
どうして私を
彼岸へのお供に
選んでくれなかったのですか。
どうして
あのおんななのですか。
わたしは、
あなたがしににいく
おてつだいさえも、
させていただけないのですか。
あなたが去ったこの家は
ひどく
からっぽです。
* * * * * あ と が き * * * * *
1948年、玉川上水にて愛人と入水自殺した太宰治。
太宰治の奥さんは、津島美知子さんといいます。
この入水自殺の理由には諸説あって、
自身の体調不良や息子のダウン症を苦慮したため、といったものや、
共に命を絶った愛人・山崎富栄さんによる無理心中、
狂言心中失敗説なんてのまであるそうです。
今回は、「もし、わたしが美知子さんの立場だったら」
という視点で詩を書いてみました。
よく調べる前に書いちゃったんで(ごめんなさい)、
あくまで『恋愛結婚した末の…』という体で読んでくださいまし。
※「このタイミングで入水自殺のテーマは…」という方、
もしかしたらいらっしゃるかも知れませんね。
ただ、作品自体には入水自殺のことはまるで出てきませんし、
あんまり何でもかんでも自粛しすぎるのも違うのでは?
と思うので、いたって普段どおりの状態で、他意なく書かせていただきました。
苦情があれば、コメントなりメッセなりでお寄せいただいて構いません。
このブログ自体、なかなか放置気味ではありますが、対応させていただきます。
一瞬、目が合うだけで
その日は頬の温度が数度上がってしまう
ってくらい、
好き。
本当にもう
胸の奥の、そのまた奥を
あなたの大きな手で握られ続けている
ってくらい、
幸せ。
本当にもう
あなたの旅立ちの報せをきいて
それでも美しい昔日の想い出に縋ってしまう
ってくらい、
あなたが大好き。
ねぇ、どうして
どうして私を
彼岸へのお供に
選んでくれなかったのですか。
どうして
あのおんななのですか。
わたしは、
あなたがしににいく
おてつだいさえも、
させていただけないのですか。
あなたが去ったこの家は
ひどく
からっぽです。
* * * * * あ と が き * * * * *
1948年、玉川上水にて愛人と入水自殺した太宰治。
太宰治の奥さんは、津島美知子さんといいます。
この入水自殺の理由には諸説あって、
自身の体調不良や息子のダウン症を苦慮したため、といったものや、
共に命を絶った愛人・山崎富栄さんによる無理心中、
狂言心中失敗説なんてのまであるそうです。
今回は、「もし、わたしが美知子さんの立場だったら」
という視点で詩を書いてみました。
よく調べる前に書いちゃったんで(ごめんなさい)、
あくまで『恋愛結婚した末の…』という体で読んでくださいまし。
※「このタイミングで入水自殺のテーマは…」という方、
もしかしたらいらっしゃるかも知れませんね。
ただ、作品自体には入水自殺のことはまるで出てきませんし、
あんまり何でもかんでも自粛しすぎるのも違うのでは?
と思うので、いたって普段どおりの状態で、他意なく書かせていただきました。
苦情があれば、コメントなりメッセなりでお寄せいただいて構いません。
このブログ自体、なかなか放置気味ではありますが、対応させていただきます。
『冬の刃は雪の煌めきに似て』
雪積もる師走の朝。
双葉(ふたば)が振り返ると、道着姿の桃時(とうじ)が素足で立っていました。
「何してんの、姉ちゃん」
何本もの竹刀を肩に担いだまま、桃時は双葉を見据えます。
「見たら分かるでしょ、刀磨いでんの」
「今は稽古中だろ」
「急に頼んできた父さんに言って」
そう話している間も、小気味よく砥石を撫で続ける刀。
双葉は刀剣を上へかざし、磨ぎ具合を確かめます。
「それより、アンタこそ良いの? 刀磨いでるときは近寄っちゃダメって言われてるでしょ」
「…うっ」
双葉の言葉に、幼い桃時は言葉を詰まらせました。
「もう戻りなよ、バレたら父さんから拳骨されるよ」
「………」
姉の磨ぐ刀剣の輝きを名残惜しそうに見つめながら、父の待つ稽古場へ駆けていく桃時。
「…さ、私もさっさと終わらせて戻ろ」
弟の後ろ姿を見送った後、双葉はそう呟いて作業を再開しました。
二人の住む山里家は、村を守る守人の家系。
両親は村の子どもたちへ、武道の指導も行っていました。
「みんな、木刀は持ったか?」
「「「はい!」」」
「それではこれから、型の稽古に入る。双葉、刀を」
「はい」
父に呼ばれ、双葉は磨いだばかりの刀を差し出しました。
美しく磨かれた直刃が姿をあらわし、桃時をはじめ子どもたちが目を輝かせます。
「…ほぅ。上手くなったな、双葉」
「ありがとう、父さん」
父からの思わぬ褒め言葉に、双葉は照れ笑いを浮かべました。
「竹と朔んとこ行ってくる!」
竹と朔とは、桃時の幼なじみである竹彦(たけひこ)と朔良(さくら)のこと。
稽古の片付けが終わるや否や、桃時は道着姿のまま道場を飛び出しました。
「ちょっと桃時、着替えは!?」
「竹と朔が道着見たいって言ったんだよ」
桃時の顔が赤く染まったのを見て、双葉はにんまり。
「…ふぅ~ん? 大変だねぇ、朔良ちゃんの気を引くのも」
「なッ…!」
「ほら、その汗くっさい道着で行っといでよ。竹彦くんに先越されるよ」
「~~~~~ッ! 行ってきます!」
顔を真っ赤に染め、少し怒りながら駆けて行く桃時。
幼い弟の初恋を甘酸っぱく思いながら、双葉は戸締まりをしに道場へと戻りました。
双葉が洗い終わった道着を干していると、後ろから足音が。
振り返ると、朔良の兄・壱葉(いちよう)がいました。
「そろそろ来る頃かな、とは思ってた」
「うん、さっき桃時くんがウチに来たからね」
座っても? と壱葉が縁側を指して尋ねたので、双葉はどうぞと促し、自身も隣に腰掛けました。
「ちょっと急いで来たんだけど、遅かったみたいだね」
「何が?」
「双葉の道着姿が見れるかな、と思って」
ふふ、と壱葉は笑います。
「…あぁ、桃時が道着だったから?」
「そう」
「アレ、朔良ちゃんのリクエストらしいよ。…そんなに道着が珍しい?」
「ん~…、和物が好きなのかもね。自分たちも着物だし」
壱葉と朔良の家は、村唯一の医家・浜里家。
村一番の大家とも言われる由緒正しい家柄です。
それもあって、壱葉と朔良は普段から着物で暮らしていました。
「ね、着てみせて」
「やだよ、まだ乾いてないもん。風邪引いちゃう」
「まだ何着か持ってるんでしょ?」
「…バレたか」
「ダメ?」
「うん、ダメ」
「ふふ、手強いなぁ」
双葉らしいけどね、と笑う壱葉に、双葉は微笑み返します。
そこへ、ひゅう、と北風がひと吹き。
「寒いね、家ん中入ろっか。あ、何か飲む?」
「いや、そろそろお暇するよ。あの子たちに勉強を教える約束したからね」
「…もしかして、桃時?」
「ま、言い出したのは竹彦くんだけどね。桃時くんと朔良と3人で勉強するんだって」
「勉強になるの? ソレ」
「ふふ、わかんない」
3人が並んで机に向かう様子を想像し、2人は顔を見合わせて笑いました。
「よぉーし、そういうことなら、私もお邪魔しちゃおっかな」
「えっ、珍しい。どういう風の吹き回し?」
「壱葉に勉強を教えてもらうお礼に、私が稽古をつけてあげるの。もちろん、朔良ちゃんの体調に合わせてね」
朔良は生まれつき体が弱く、寝込むことも多々ありました。
「朔良ちゃん、ああ見えて負けん気強いでしょ? 桃時や竹彦くんに守られてばかりじゃ、絶対イヤだと思うんだよね」
「…あぁ、言えてる。でも、逆に2人は守ってあげたい願望が強そうだよね」
「うん、かなり強そう! おもしろいわー」
「ね、かわいいよね」
雪景色の中、2人の笑い声が響きます。
「…ねぇ、壱葉。私たちのこと、聞いた?」
一頻り笑った後、双葉は意を決して切り出しました。
「うん、聞いたよ。神様もなかなか残酷だね」
「…本当に神様がいるならね」
双葉は膝を抱え、顔を埋めました。
「そりゃ、拾われた子だってのは知ってたけどさ」
桃時と朔良は実子ですが、壱葉と双葉は拾われ子。
同時期に拾われ、子宝に恵まれず困っていた山里家と浜里家が貰い受けたのです。
「今さら双子って言われてもさ。何なの、コレ」
壱葉と朔良の父が調べた結果、2人は二卵性双生児であることが分かりました。
「…ねぇ。結婚、できないねぇ」
「そういう大事なことはさー! 付き合う前に言って欲しいよね! ていうか、最初から言っといて欲しいよね!」
つい先日、2人は恋仲になったばかりでした。
「切ないねぇ」
「やりきれないねぇ」
複雑な感情を懸命に押し殺す2人を、白銀の雪たちが包み込みます。
2人は暫くの間、そのまま舞い降りる雪を眺めていました。
* * * * * あ と が き * * * * *
だいぶ遅くなってすみません!
(本当は11月締め切りだったの…;)
冬のお題『寒行または寒稽古』のお話です。
このお話は、最近書き始めた、The Beautiful Seasons ~鬼ヶ島物語~のスピンオフ。
主人公・桃太郎(桃時)の幼少期のお話です。
もっといろいろ書きたいことあったけど、本編に影響するからめちゃくちゃガマンしました(笑)
ちなみに、私も寒稽古経験者です。
高校のとき、剣道部で新春寒稽古をやってました。
剣道って実は冬のスポーツだからね。
道着に素足でグラウンドを走り、そのまま素振りして防具つけて、
仕合稽古して型やって…懐かしい。
寒いよね、寒稽古。
雪積もる師走の朝。
双葉(ふたば)が振り返ると、道着姿の桃時(とうじ)が素足で立っていました。
「何してんの、姉ちゃん」
何本もの竹刀を肩に担いだまま、桃時は双葉を見据えます。
「見たら分かるでしょ、刀磨いでんの」
「今は稽古中だろ」
「急に頼んできた父さんに言って」
そう話している間も、小気味よく砥石を撫で続ける刀。
双葉は刀剣を上へかざし、磨ぎ具合を確かめます。
「それより、アンタこそ良いの? 刀磨いでるときは近寄っちゃダメって言われてるでしょ」
「…うっ」
双葉の言葉に、幼い桃時は言葉を詰まらせました。
「もう戻りなよ、バレたら父さんから拳骨されるよ」
「………」
姉の磨ぐ刀剣の輝きを名残惜しそうに見つめながら、父の待つ稽古場へ駆けていく桃時。
「…さ、私もさっさと終わらせて戻ろ」
弟の後ろ姿を見送った後、双葉はそう呟いて作業を再開しました。
二人の住む山里家は、村を守る守人の家系。
両親は村の子どもたちへ、武道の指導も行っていました。
「みんな、木刀は持ったか?」
「「「はい!」」」
「それではこれから、型の稽古に入る。双葉、刀を」
「はい」
父に呼ばれ、双葉は磨いだばかりの刀を差し出しました。
美しく磨かれた直刃が姿をあらわし、桃時をはじめ子どもたちが目を輝かせます。
「…ほぅ。上手くなったな、双葉」
「ありがとう、父さん」
父からの思わぬ褒め言葉に、双葉は照れ笑いを浮かべました。
「竹と朔んとこ行ってくる!」
竹と朔とは、桃時の幼なじみである竹彦(たけひこ)と朔良(さくら)のこと。
稽古の片付けが終わるや否や、桃時は道着姿のまま道場を飛び出しました。
「ちょっと桃時、着替えは!?」
「竹と朔が道着見たいって言ったんだよ」
桃時の顔が赤く染まったのを見て、双葉はにんまり。
「…ふぅ~ん? 大変だねぇ、朔良ちゃんの気を引くのも」
「なッ…!」
「ほら、その汗くっさい道着で行っといでよ。竹彦くんに先越されるよ」
「~~~~~ッ! 行ってきます!」
顔を真っ赤に染め、少し怒りながら駆けて行く桃時。
幼い弟の初恋を甘酸っぱく思いながら、双葉は戸締まりをしに道場へと戻りました。
双葉が洗い終わった道着を干していると、後ろから足音が。
振り返ると、朔良の兄・壱葉(いちよう)がいました。
「そろそろ来る頃かな、とは思ってた」
「うん、さっき桃時くんがウチに来たからね」
座っても? と壱葉が縁側を指して尋ねたので、双葉はどうぞと促し、自身も隣に腰掛けました。
「ちょっと急いで来たんだけど、遅かったみたいだね」
「何が?」
「双葉の道着姿が見れるかな、と思って」
ふふ、と壱葉は笑います。
「…あぁ、桃時が道着だったから?」
「そう」
「アレ、朔良ちゃんのリクエストらしいよ。…そんなに道着が珍しい?」
「ん~…、和物が好きなのかもね。自分たちも着物だし」
壱葉と朔良の家は、村唯一の医家・浜里家。
村一番の大家とも言われる由緒正しい家柄です。
それもあって、壱葉と朔良は普段から着物で暮らしていました。
「ね、着てみせて」
「やだよ、まだ乾いてないもん。風邪引いちゃう」
「まだ何着か持ってるんでしょ?」
「…バレたか」
「ダメ?」
「うん、ダメ」
「ふふ、手強いなぁ」
双葉らしいけどね、と笑う壱葉に、双葉は微笑み返します。
そこへ、ひゅう、と北風がひと吹き。
「寒いね、家ん中入ろっか。あ、何か飲む?」
「いや、そろそろお暇するよ。あの子たちに勉強を教える約束したからね」
「…もしかして、桃時?」
「ま、言い出したのは竹彦くんだけどね。桃時くんと朔良と3人で勉強するんだって」
「勉強になるの? ソレ」
「ふふ、わかんない」
3人が並んで机に向かう様子を想像し、2人は顔を見合わせて笑いました。
「よぉーし、そういうことなら、私もお邪魔しちゃおっかな」
「えっ、珍しい。どういう風の吹き回し?」
「壱葉に勉強を教えてもらうお礼に、私が稽古をつけてあげるの。もちろん、朔良ちゃんの体調に合わせてね」
朔良は生まれつき体が弱く、寝込むことも多々ありました。
「朔良ちゃん、ああ見えて負けん気強いでしょ? 桃時や竹彦くんに守られてばかりじゃ、絶対イヤだと思うんだよね」
「…あぁ、言えてる。でも、逆に2人は守ってあげたい願望が強そうだよね」
「うん、かなり強そう! おもしろいわー」
「ね、かわいいよね」
雪景色の中、2人の笑い声が響きます。
「…ねぇ、壱葉。私たちのこと、聞いた?」
一頻り笑った後、双葉は意を決して切り出しました。
「うん、聞いたよ。神様もなかなか残酷だね」
「…本当に神様がいるならね」
双葉は膝を抱え、顔を埋めました。
「そりゃ、拾われた子だってのは知ってたけどさ」
桃時と朔良は実子ですが、壱葉と双葉は拾われ子。
同時期に拾われ、子宝に恵まれず困っていた山里家と浜里家が貰い受けたのです。
「今さら双子って言われてもさ。何なの、コレ」
壱葉と朔良の父が調べた結果、2人は二卵性双生児であることが分かりました。
「…ねぇ。結婚、できないねぇ」
「そういう大事なことはさー! 付き合う前に言って欲しいよね! ていうか、最初から言っといて欲しいよね!」
つい先日、2人は恋仲になったばかりでした。
「切ないねぇ」
「やりきれないねぇ」
複雑な感情を懸命に押し殺す2人を、白銀の雪たちが包み込みます。
2人は暫くの間、そのまま舞い降りる雪を眺めていました。
* * * * * あ と が き * * * * *
だいぶ遅くなってすみません!
(本当は11月締め切りだったの…;)
冬のお題『寒行または寒稽古』のお話です。
このお話は、最近書き始めた、The Beautiful Seasons ~鬼ヶ島物語~のスピンオフ。
主人公・桃太郎(桃時)の幼少期のお話です。
もっといろいろ書きたいことあったけど、本編に影響するからめちゃくちゃガマンしました(笑)
ちなみに、私も寒稽古経験者です。
高校のとき、剣道部で新春寒稽古をやってました。
剣道って実は冬のスポーツだからね。
道着に素足でグラウンドを走り、そのまま素振りして防具つけて、
仕合稽古して型やって…懐かしい。
寒いよね、寒稽古。
『ミルクティーが教えてくれたこと』
ぶるるっ
「寒い?」
「うん」
ずびっ
「風邪?」
「ん~…そうかも」
「何やってんのよ、も~。久しぶりに会ったと思ったらコレだもの、相変わらず頼りないわね!」
正月休みで帰省している怜(れい)は、親友・源(はじめ)に手厳しい一言を放ちました。
「うるさいな~。引いたもんは仕方ないだろ」
「最初から引くなっつってんのよ。奥さんが大変でしょ!」
「ちょっ…、まだ奥さんじゃないって!」
「あら、いずれはするのね」
「うるさいよ。」
源は、数年前に出会った初音(はつね)と付き合い始めたばかりでした。
「ね、写メくらいあるんでしょ?」
「あるけど見せない」
「えー、何よそれー。見せてよ」
「絶っ対見せない」
「何でよーケチー…。あ、横取りならしないわよ!」
「それは知ってるよ。性別的に」
怜はつい先月、性転換手術を終えて帰国したばかりです。
「じゃあ何でよ」
「怜が彼氏見せてくれたら、見せてもいいよ」
「それ、暗に私が彼氏できないって言ってるでしょう」
ごほっごほっ
「あ、バレた?」
「世界中のオカマを敵にまわすわよ、バカ」
どんどん弾む会話中も、二人でさくさく歩きます。
「で? 俺ら、今どこに向かってんの?」
「どこって……どこだっけ?」
「言っとくけど、もう『母校で雪だるま作り』はできないよ。知ってる先生ほとんど転勤してんだから」
一昨年の冬、二人は怜の思いつきから、母校で雪だるまを作って先生に怒られました(無断で入ったから)。
「アハハ! 去年はガヤっちに怒られたのよね、懐かしい」
ガヤっちとは、二人がとてもお世話になった社会科教師・加賀谷(かがや)先生のことです。
「ね。でも、ガヤっちも去年転勤したからなぁ」
「意外と老けてなかったよね?」
ぶえっっっくしょん!
「うん。あんま…ていうか、全然変わってなかった」
遠目にはカップルにしか見えない(ただし、彼女の肩幅がやや広すぎる)様子で、談笑しながら歩き続けます。
「で、どこ行くの?」
「う~ん…、どーすっかなぁ…」
ずびっ
「とりあえず、どこかに入らない? さすがに寒いわ」
「うん、いいよ」
あまりの寒さに、二人は数メートル先にあるカフェへ入ることにしました。
「………あっ」
偶然入ったカフェで居合わせたのは、一つ年下の怜の幼なじみ・奏子(そうこ)でした。
「…奏ちゃん」
「お客さま、2名さまでございますか?」
「あ、ハイ…」
「空いているお席へどうぞー」
約3年ぶりに再会した奏子は、かなり無愛想でした。
「怜、奏子ちゃんに何かしたの?」
「するわけないでしょ! 会うのも久しぶりなのに!」
二人は奥の方の席に座りつつ、ヒソヒソと話します。
「だって、めちゃくちゃ態度悪いよ?」
「うーん…」
怜も源も首をかしげるばかり。
そうこうしている内に別の店員さんがメニューを持ってきたので、とりあえずミルクティーとカフェオレを注文しました。
頼み終わるや否や、またすぐヒソヒソ話を再開します。
「もしかして、あのこと奏子ちゃんに言ってないの?」
「? 何よ、あのことって」
へっくしゅ! ずびっ
「大事なところをチェンジしたこと。」
「言うわけないじゃないの! ていうか、言えないわよ!」
「あー…」
「何よ」
「…いや、何でもない」
あまりにデリケート過ぎる話に、源は言葉を詰まらせました。
げほっげほっ
「まだ寒いの? ここ結構暖房効いてるのに」
「いや、今のはちょっと咽せただけだよ」
「ふぅん?」
「お待たせいたしましたーミルクティーとカフェオレになります」
抑揚のないマニュアルに沿った声に反応して、二人は同時に振り向きました。
そこには、すこぶる不機嫌そうな奏子の姿。
二人の間の抜けた顔をスルーして、店員は注文の品をテーブルに置いていきます。
「……あ、どうも…」
「…奏ちゃん……」
「ごゆっくりどうぞー」
「奏ちゃん!」
怜の言葉を無視して立ち去ろうとした奏子を、怜は半ば強引に引き止めました。
「…何」
「奏ちゃん…、何でそんなに冷たいの?」
「…別に」
奏子の口調は素っ気ないままです。
源は、二人のやりとりを黙って見守ることにしました。
「ほら、冷たい」
「だってバイト中だし」
「それにしたって、前とあまりにも違い過ぎるわ。何かあったの?」
「何もないって言ってんじゃん」
「嘘。確かに勝ち気ではあったけど、奏ちゃんはもっと」
「知った風な口きかないでよ! このオカマ!」
このセリフを聞いた源が(マズイ!)と怜の方を見ると、怜はショックで固まっていました。
一方の奏子はと言うと、怒ったような、少し泣きそうな表情。
(あぁ…そういうことか……)
源は二人の表情を見て、何も言えなくなってしまいました。
結局、奏子とはそのまま一言も口をきかずに店を出た二人は、日の暮れた街をさくさく歩き出しました。
ぶえっっっっくしゅ!
「やっぱ夜は寒いね」
「当たり前でしょ。さ、早いとこ帰りましょ」
「うん」
「………」
「…奏子ちゃんのこと、怒ってる?」
源は思い切って怜に訪ねました。
「……怒ってないわ」
「ホントに?」
「ホントよ。あの子は、事実を言っただけだもの」
チラチラと降ってきた粉雪の中、二人はさくさく歩きます。
「でも固まってたじゃん」
「まぁ…、人前だったし、まだ女になって短いから」
「…そ。」
「うん」
さくさく歩きながら、二人はだんだん言葉少なになっていきました。
「………奏子ちゃん」
怜と別れ、帰路についていた源の前に、仕事帰りの奏子が。
二人とも気まずい雰囲気で立ち止まりました。
「さっきはごめんね。…無愛想で」
げっほ、げほん!
「ううん、大丈夫」
小学3年の時に引っ越してきて以来、怜と仲の良かった源。
奏子のことも、その頃から知っていました。
「…かなりデリケートなこと聞いても良い?」
「うん」
奏子は意を決した顔で頷きました。
「いつから好きだったの?」
「……っぷ! アハハ! どストレートだなぁー!」
さっきまでとは打って変わって、奏子は今日初めての明るい笑顔を源に見せました。
「いや、俺だって聞きづらいよ? 聞きづらいけどさ」
「うん、分かるよ。微妙過ぎるよね、立場。ごめんごめん」
アハハ、と笑いながら、奏子は源の訴えに応えます。
「いつからって言ったってねー…。ずーっと見てきたから、もう分かんないや」
「ごめんね、変なこと聞いて」
「うん」
「…公園でも行く?」
奏子が少し話したそうだったので、源はすぐ近くの公園へ奏子を促しました。
「ていうかさー、源くんは結構前から気付いてたんでしょ、私の気持ち。ちょっとは協力してくれてもよくない!?」
結局そのまま二人は公園へ行き、ブランコへ。
奏子は源に貰ったホットミルクティーを飲みつつ言いました。
ずびびっ
「いや、そっちに気付くより先に、怜から相談されててね。気付いた時はホントどうしようかと思ったよ」
「で、結局何もできず。」
「うん。ヘヴィすぎて俺の手には負えないから、二人の流れに任せようと思って完全に手を引いた」
アハハハハ、と二人の笑い声が公園に響きます。
「何よー、逃げたなー!」
「いやいやいや、中坊にはさすがに荷が重いよ!」
奏子のツッコミに、源が必死に弁解します。
「女になりたい男と、その男に片思いしてる幼なじみとか…。ドラマでしか見た事ないよ、こんなデリケートな状態!」
怜は、生まれもっての性同一性障害でした。
その『性同一性障害』という状態を、幼かった彼らが理解できるわけもなく。
それを理解した時には、すでに奏子の恋心は怜へ向けられていたのです。
「ひどいよねー、こっちはちゃんと男として付き合ってたのにさー…。あ、付き合うって彼氏とかって意味じゃなくね」
「うん、分かるよ」
「しかも、しかもよ!? あっちに悪意がないのがまたどうしようもないっていうか! 私のこのモヤモヤはどこにぶつけたらいいの!? もぉー!!!」
奏子は星空を仰ぎながら、思いの丈を源にぶつけました。
「しかも、手術したことも知らなかったんでしょ?」
「そう! そうなの! ここ数年はあんな格好だったから服装的にはもう慣れたけど、…まぁ良くはないんだけどそうじゃなくて、体つきがさ! 何、あの胸! 普通に巨乳じゃん! 私よりデカイわ!」
ぐぇっほ、げほ! げほ!
実は、あまり下ネタ(まぁこの程度は下ネタでも何でもないが、発言したのが女の子だったので)が得意ではない源。
ちょっと咽せてしまいました。
「あ、ごめん源くん、大丈夫?」
「だっ、大丈夫大丈夫! 続けて!」
この会話で咽せたことが初音にバレたら、1週間は無視されるな、と源は思いました。
「んで、アレでしょ。二人の会話を聞いてる限り、もうキッチリ女になったんでしょ?」
「…うん」
「もぉー! 私がレズみたいじゃんかぁー! 別に女としての怜ちゃんが好きなわけじゃないのにぃいー!」
一頻り叫んで、グビグビとミルクティーを飲み干す奏子。
源は複雑な思いでその様子を見ていました。
「…止めた方が良かった?」
「何を?」
「チェンジ手術。」
「んー……、ううん」
源の問いかけに、奏子は少し考えてから、伏し目がちに首を横に振りました。
「そこは怜ちゃんが我慢するとこじゃないし、源くんが頑張るところでもないと思う」
「でも、奏子ちゃんが我慢するところでもないよね?」
「うぅー…。だからモヤモヤすんだよねぇ」
「……だよねぇ」
神様も変なイタズラをするなぁ、と源は思いました。
…ぶぇえっっっくしゅ!
「源くん、風邪!? そういえば、お店でもズビズビやってたよね」
「あー、うん。ちょっとね」
「じゃあ、もう帰ろっか。ごめんね、付き合わせて」
「や、大丈夫。家まで送ろうか? 近いし」
「いいよ、源くんの彼女に嫌われたくないもん」
ニヒヒ、と奏子が笑います。
「で、本音は『怜に見られて誤解されたくない』から?」
「うっ…、うるさいな!」
それから二人は顔を見合わせて笑い、公園で別れました。
その頃、怜は自宅で1枚の写真を見ていました。
「…ふふっ、懐かしい」
奏子が真ん中で、奏子に引っ張られて照れながら写る少年の怜、そんな二人の横でニコニコ笑っている源。
怜は、奏子の切ない恋心には気付いていませんでしたが、今日の奏子に悪意がないことは分かっていました。
「あんな私のためだけの気遣いができるの、奏ちゃんだけだものね」
今日、カフェで怜が注文したミルクティーに、予め少量のはちみつが入れてあったのです。
砂糖でもシロップでもレモンでもなく、はちみつを入れるのが怜のこだわりでした。
「あんなの、源だってできやしないわよ」
怜はその気遣いが嬉しくて、仕方がありませんでした。
怜ちゃん、私ね。
結構前から怜ちゃんのこと好きでさぁ。
怜ちゃんが女の子の私と一緒に遊びたがるのとか、私の持ってるおもちゃに興味持ったりしたこととか、今でも覚えてる。
実はね。
私のこの気持ちが、友達とか、幼なじみとかじゃなくて、恋なんだって気付いた時。
私、一度自分の気持ちを否定したの。
そんなハズない、って。
怜ちゃんは女の子になりたいんだから、って。
体だけ男で、心は女なんだから、って。
でも、考えて消せるんだったら恋じゃないよね。
何か変なのは自分でも分かるんだけど、消えないの。
おかしいね。
怜ちゃん、私ね。
この気持ちを怜ちゃんに言うことは、おそらくないと思う。
言わずにいようと思う。
怜ちゃんを困らせたくないからね。
だから、一つだけわがままを聞いて欲しいの。
私のこの気持ちに、一生気付かないでください。
* * * * * * * * * あ と が き * * * * * * * * *
幻のA.S.K.お題「冬」の作品でございました。
言うなれば『第0号』ですな。
季節が真逆なのは笑って許して☆
オカマネタで、ちょっと切ない系のお話が書きたかったんですよねー。
ほら、オカマネタって
物語でも現実でも、ギャグとして扱われることが多いじゃないですか。
結構デリケートなネタなのに。
だから、こんなネタです。
ちょっと長くてごめんなさいね。
ぶるるっ
「寒い?」
「うん」
ずびっ
「風邪?」
「ん~…そうかも」
「何やってんのよ、も~。久しぶりに会ったと思ったらコレだもの、相変わらず頼りないわね!」
正月休みで帰省している怜(れい)は、親友・源(はじめ)に手厳しい一言を放ちました。
「うるさいな~。引いたもんは仕方ないだろ」
「最初から引くなっつってんのよ。奥さんが大変でしょ!」
「ちょっ…、まだ奥さんじゃないって!」
「あら、いずれはするのね」
「うるさいよ。」
源は、数年前に出会った初音(はつね)と付き合い始めたばかりでした。
「ね、写メくらいあるんでしょ?」
「あるけど見せない」
「えー、何よそれー。見せてよ」
「絶っ対見せない」
「何でよーケチー…。あ、横取りならしないわよ!」
「それは知ってるよ。性別的に」
怜はつい先月、性転換手術を終えて帰国したばかりです。
「じゃあ何でよ」
「怜が彼氏見せてくれたら、見せてもいいよ」
「それ、暗に私が彼氏できないって言ってるでしょう」
ごほっごほっ
「あ、バレた?」
「世界中のオカマを敵にまわすわよ、バカ」
どんどん弾む会話中も、二人でさくさく歩きます。
「で? 俺ら、今どこに向かってんの?」
「どこって……どこだっけ?」
「言っとくけど、もう『母校で雪だるま作り』はできないよ。知ってる先生ほとんど転勤してんだから」
一昨年の冬、二人は怜の思いつきから、母校で雪だるまを作って先生に怒られました(無断で入ったから)。
「アハハ! 去年はガヤっちに怒られたのよね、懐かしい」
ガヤっちとは、二人がとてもお世話になった社会科教師・加賀谷(かがや)先生のことです。
「ね。でも、ガヤっちも去年転勤したからなぁ」
「意外と老けてなかったよね?」
ぶえっっっくしょん!
「うん。あんま…ていうか、全然変わってなかった」
遠目にはカップルにしか見えない(ただし、彼女の肩幅がやや広すぎる)様子で、談笑しながら歩き続けます。
「で、どこ行くの?」
「う~ん…、どーすっかなぁ…」
ずびっ
「とりあえず、どこかに入らない? さすがに寒いわ」
「うん、いいよ」
あまりの寒さに、二人は数メートル先にあるカフェへ入ることにしました。
「………あっ」
偶然入ったカフェで居合わせたのは、一つ年下の怜の幼なじみ・奏子(そうこ)でした。
「…奏ちゃん」
「お客さま、2名さまでございますか?」
「あ、ハイ…」
「空いているお席へどうぞー」
約3年ぶりに再会した奏子は、かなり無愛想でした。
「怜、奏子ちゃんに何かしたの?」
「するわけないでしょ! 会うのも久しぶりなのに!」
二人は奥の方の席に座りつつ、ヒソヒソと話します。
「だって、めちゃくちゃ態度悪いよ?」
「うーん…」
怜も源も首をかしげるばかり。
そうこうしている内に別の店員さんがメニューを持ってきたので、とりあえずミルクティーとカフェオレを注文しました。
頼み終わるや否や、またすぐヒソヒソ話を再開します。
「もしかして、あのこと奏子ちゃんに言ってないの?」
「? 何よ、あのことって」
へっくしゅ! ずびっ
「大事なところをチェンジしたこと。」
「言うわけないじゃないの! ていうか、言えないわよ!」
「あー…」
「何よ」
「…いや、何でもない」
あまりにデリケート過ぎる話に、源は言葉を詰まらせました。
げほっげほっ
「まだ寒いの? ここ結構暖房効いてるのに」
「いや、今のはちょっと咽せただけだよ」
「ふぅん?」
「お待たせいたしましたーミルクティーとカフェオレになります」
抑揚のないマニュアルに沿った声に反応して、二人は同時に振り向きました。
そこには、すこぶる不機嫌そうな奏子の姿。
二人の間の抜けた顔をスルーして、店員は注文の品をテーブルに置いていきます。
「……あ、どうも…」
「…奏ちゃん……」
「ごゆっくりどうぞー」
「奏ちゃん!」
怜の言葉を無視して立ち去ろうとした奏子を、怜は半ば強引に引き止めました。
「…何」
「奏ちゃん…、何でそんなに冷たいの?」
「…別に」
奏子の口調は素っ気ないままです。
源は、二人のやりとりを黙って見守ることにしました。
「ほら、冷たい」
「だってバイト中だし」
「それにしたって、前とあまりにも違い過ぎるわ。何かあったの?」
「何もないって言ってんじゃん」
「嘘。確かに勝ち気ではあったけど、奏ちゃんはもっと」
「知った風な口きかないでよ! このオカマ!」
このセリフを聞いた源が(マズイ!)と怜の方を見ると、怜はショックで固まっていました。
一方の奏子はと言うと、怒ったような、少し泣きそうな表情。
(あぁ…そういうことか……)
源は二人の表情を見て、何も言えなくなってしまいました。
結局、奏子とはそのまま一言も口をきかずに店を出た二人は、日の暮れた街をさくさく歩き出しました。
ぶえっっっっくしゅ!
「やっぱ夜は寒いね」
「当たり前でしょ。さ、早いとこ帰りましょ」
「うん」
「………」
「…奏子ちゃんのこと、怒ってる?」
源は思い切って怜に訪ねました。
「……怒ってないわ」
「ホントに?」
「ホントよ。あの子は、事実を言っただけだもの」
チラチラと降ってきた粉雪の中、二人はさくさく歩きます。
「でも固まってたじゃん」
「まぁ…、人前だったし、まだ女になって短いから」
「…そ。」
「うん」
さくさく歩きながら、二人はだんだん言葉少なになっていきました。
「………奏子ちゃん」
怜と別れ、帰路についていた源の前に、仕事帰りの奏子が。
二人とも気まずい雰囲気で立ち止まりました。
「さっきはごめんね。…無愛想で」
げっほ、げほん!
「ううん、大丈夫」
小学3年の時に引っ越してきて以来、怜と仲の良かった源。
奏子のことも、その頃から知っていました。
「…かなりデリケートなこと聞いても良い?」
「うん」
奏子は意を決した顔で頷きました。
「いつから好きだったの?」
「……っぷ! アハハ! どストレートだなぁー!」
さっきまでとは打って変わって、奏子は今日初めての明るい笑顔を源に見せました。
「いや、俺だって聞きづらいよ? 聞きづらいけどさ」
「うん、分かるよ。微妙過ぎるよね、立場。ごめんごめん」
アハハ、と笑いながら、奏子は源の訴えに応えます。
「いつからって言ったってねー…。ずーっと見てきたから、もう分かんないや」
「ごめんね、変なこと聞いて」
「うん」
「…公園でも行く?」
奏子が少し話したそうだったので、源はすぐ近くの公園へ奏子を促しました。
「ていうかさー、源くんは結構前から気付いてたんでしょ、私の気持ち。ちょっとは協力してくれてもよくない!?」
結局そのまま二人は公園へ行き、ブランコへ。
奏子は源に貰ったホットミルクティーを飲みつつ言いました。
ずびびっ
「いや、そっちに気付くより先に、怜から相談されててね。気付いた時はホントどうしようかと思ったよ」
「で、結局何もできず。」
「うん。ヘヴィすぎて俺の手には負えないから、二人の流れに任せようと思って完全に手を引いた」
アハハハハ、と二人の笑い声が公園に響きます。
「何よー、逃げたなー!」
「いやいやいや、中坊にはさすがに荷が重いよ!」
奏子のツッコミに、源が必死に弁解します。
「女になりたい男と、その男に片思いしてる幼なじみとか…。ドラマでしか見た事ないよ、こんなデリケートな状態!」
怜は、生まれもっての性同一性障害でした。
その『性同一性障害』という状態を、幼かった彼らが理解できるわけもなく。
それを理解した時には、すでに奏子の恋心は怜へ向けられていたのです。
「ひどいよねー、こっちはちゃんと男として付き合ってたのにさー…。あ、付き合うって彼氏とかって意味じゃなくね」
「うん、分かるよ」
「しかも、しかもよ!? あっちに悪意がないのがまたどうしようもないっていうか! 私のこのモヤモヤはどこにぶつけたらいいの!? もぉー!!!」
奏子は星空を仰ぎながら、思いの丈を源にぶつけました。
「しかも、手術したことも知らなかったんでしょ?」
「そう! そうなの! ここ数年はあんな格好だったから服装的にはもう慣れたけど、…まぁ良くはないんだけどそうじゃなくて、体つきがさ! 何、あの胸! 普通に巨乳じゃん! 私よりデカイわ!」
ぐぇっほ、げほ! げほ!
実は、あまり下ネタ(まぁこの程度は下ネタでも何でもないが、発言したのが女の子だったので)が得意ではない源。
ちょっと咽せてしまいました。
「あ、ごめん源くん、大丈夫?」
「だっ、大丈夫大丈夫! 続けて!」
この会話で咽せたことが初音にバレたら、1週間は無視されるな、と源は思いました。
「んで、アレでしょ。二人の会話を聞いてる限り、もうキッチリ女になったんでしょ?」
「…うん」
「もぉー! 私がレズみたいじゃんかぁー! 別に女としての怜ちゃんが好きなわけじゃないのにぃいー!」
一頻り叫んで、グビグビとミルクティーを飲み干す奏子。
源は複雑な思いでその様子を見ていました。
「…止めた方が良かった?」
「何を?」
「チェンジ手術。」
「んー……、ううん」
源の問いかけに、奏子は少し考えてから、伏し目がちに首を横に振りました。
「そこは怜ちゃんが我慢するとこじゃないし、源くんが頑張るところでもないと思う」
「でも、奏子ちゃんが我慢するところでもないよね?」
「うぅー…。だからモヤモヤすんだよねぇ」
「……だよねぇ」
神様も変なイタズラをするなぁ、と源は思いました。
…ぶぇえっっっくしゅ!
「源くん、風邪!? そういえば、お店でもズビズビやってたよね」
「あー、うん。ちょっとね」
「じゃあ、もう帰ろっか。ごめんね、付き合わせて」
「や、大丈夫。家まで送ろうか? 近いし」
「いいよ、源くんの彼女に嫌われたくないもん」
ニヒヒ、と奏子が笑います。
「で、本音は『怜に見られて誤解されたくない』から?」
「うっ…、うるさいな!」
それから二人は顔を見合わせて笑い、公園で別れました。
その頃、怜は自宅で1枚の写真を見ていました。
「…ふふっ、懐かしい」
奏子が真ん中で、奏子に引っ張られて照れながら写る少年の怜、そんな二人の横でニコニコ笑っている源。
怜は、奏子の切ない恋心には気付いていませんでしたが、今日の奏子に悪意がないことは分かっていました。
「あんな私のためだけの気遣いができるの、奏ちゃんだけだものね」
今日、カフェで怜が注文したミルクティーに、予め少量のはちみつが入れてあったのです。
砂糖でもシロップでもレモンでもなく、はちみつを入れるのが怜のこだわりでした。
「あんなの、源だってできやしないわよ」
怜はその気遣いが嬉しくて、仕方がありませんでした。
怜ちゃん、私ね。
結構前から怜ちゃんのこと好きでさぁ。
怜ちゃんが女の子の私と一緒に遊びたがるのとか、私の持ってるおもちゃに興味持ったりしたこととか、今でも覚えてる。
実はね。
私のこの気持ちが、友達とか、幼なじみとかじゃなくて、恋なんだって気付いた時。
私、一度自分の気持ちを否定したの。
そんなハズない、って。
怜ちゃんは女の子になりたいんだから、って。
体だけ男で、心は女なんだから、って。
でも、考えて消せるんだったら恋じゃないよね。
何か変なのは自分でも分かるんだけど、消えないの。
おかしいね。
怜ちゃん、私ね。
この気持ちを怜ちゃんに言うことは、おそらくないと思う。
言わずにいようと思う。
怜ちゃんを困らせたくないからね。
だから、一つだけわがままを聞いて欲しいの。
私のこの気持ちに、一生気付かないでください。
* * * * * * * * * あ と が き * * * * * * * * *
幻のA.S.K.お題「冬」の作品でございました。
言うなれば『第0号』ですな。
季節が真逆なのは笑って許して☆
オカマネタで、ちょっと切ない系のお話が書きたかったんですよねー。
ほら、オカマネタって
物語でも現実でも、ギャグとして扱われることが多いじゃないですか。
結構デリケートなネタなのに。
だから、こんなネタです。
ちょっと長くてごめんなさいね。