太陽の光が地面を焦がし、陽炎を生じさせている夏の午後。

中学二年生の男子二人は、制服を着て学校からの帰り道を歩いていた。

右が藤沢周平、左が小野田充。
「あっちー。周平、水持ってない?」
「学校で飲み干した。充、持ってこなかったのか? 今日は気温三十六度だって天気予報で言っていたのに」
「まじか!? あーあ、天気予報見ればよかった」
汗をだらだら流しながら、二人はなおも歩いた。
「この道をまっすぐ行った先に駄菓子屋があるから、そこでアイスでも買おう」
「お、いいね」
藤沢の提案に小野田は機嫌がよくなった。


首筋をじりじり焼きながら進んでいくと、目的の駄菓子屋に到着した。
「あ、島田」
藤沢は思わず声を上げた。

駄菓子屋の上がり框に二人と同じクラスの島田孝子がいた。

彼女は上がり框に座って、足下をうちわで扇いでいる。
「あ、藤沢くんと小野田くん」
藤沢の声に気づいて、島田は顔を上げた。

彼女はノースリーブの白のワンピース姿だった。
「学校行っていたの? 今日って登校日じゃないよね」
「補習」
小野田がぶっきらぼうに返事する。
「島田って、家、ここなのか?」
駄菓子屋に近づいて藤沢が聞く。
「ううん。私はこの子と仲がいいだけ」
「この子」が何なのかわからず、二人は島田に近づいた。


島田の足下を見てみると、白の地に茶の斑が入った猫が地面にべたっと寝そべっていた。

島田は猫に向かってうちわを扇いでいた。

猫は気持ちよさそうにしっぽをゆらゆらと揺らしている。
「島田、自分の足を扇いでたんじゃなかったんだな」
「うん」
三人の視線は猫に向けられていた。
「孝子ちゃん。誰か来たの?」
「あ、おばちゃん」
店の奥から駄菓子屋の店主がやってきた。

おばちゃんは藤沢と小野田を見ると、にっこり笑った。
「何が欲しいのかな?」
「バニラアイスバーください」
「俺はガリガリ君」
先に注文したのが藤沢、あとが小野田。

おばちゃんは二人にアイスを渡し、代金を受け取るとまた奥に引っ込んだ。
「おばちゃん、どうしたんだ?」
藤沢が心配げに島田に聞いた。
「暑気あたりだからあまり動きたくないんだって」
島田は肩をすくめた。

うちわを扇ぐ手は休めていない。


藤沢と小野田は溶けないうちにアイスにかじりついた。
「あー、生き返るー」
小野田はほうっとため息を吐いた。

島田が楽しそうに二人を見ている。

そのとき、三人の上空で飛行機が音を立てて進んだ。

三人は空を見上げる。
「高いところで飛んでるなー」
「今日は雲がほとんどないから、一段と高いねー」
「それにしては音がはっきり聞こえるから不思議だ」
三人はしばらく見上げたあと、顔を戻した。
「んじゃ、そろそろ行くよ」
ガリガリ君をかじりながら、こもった声で小野田が言った。
「うん。じゃ、二学期にね」
島田はうちわを持っていない方の手で、二人に手を振った。

藤沢と小野田も、アイスを持っていない手で彼女に手を振って、歩き出した。
「やっぱ、アイスはうまいよなー」
小野田は満面の笑顔でアイスを食べている。

藤沢も同意するようにうなずいている。

ふと、藤沢は駄菓子屋を振り返ってみた。

島田は、猫にうちわで風を送りながら飛行機を見上げていた。

彼女は目を細めて、口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。


横顔がきれいだな、と思った。