「はぁ〜」


雲の多い空に向かって吐き出した息は白息に変わり、静かな住宅街に溶け込んだ。


「寒いね」


「ほんとね」


意味もなく、ただただ散歩するのが好きだった。

外に出るよりも家でゴロゴロ本を読んでいる方が好きな私にとって、この時間だけは唯一楽しいと思えた。


なんてことない会話をしながら、なんてことない日常を目にしては通り過ぎる。

変わっていないように見えてちょっとずつ変わっている風景を見ることも、隣にいる人と過ごした時間の長さを表しているようで好きだった。


「あ、雪…」


ふと空を見上げると、はらはらと白い贈り物が静かな街に贈られていた。

それは一時の夢のように儚く、時間が経てば幻のように消えてしまうもの。


「ほんとだ」


雪は好みの部類に入ると思う。

跡を残さない白く凛とした美しさの中の儚さ。

雨が嫌われる中、雪はキレイだなんてわがままだとは思うが、人間そんなもの。

そして、誰かと一緒に空を見上げてられれば、それで満足なのだから。


「風邪ひいちゃうよ」


奈々未が風に晒されっぱなしだった私の首に赤いマフラーを巻いてくれた。

暖かい…。

誰かの温もりを保持していたマフラーはとても温かく、私の首に馴染んだ。

その代わり、奈々未の白く細い首は冷気に晒されてしまっている。

どうしたものか。


大丈夫、寒くない。

そう言ったら私も寒くないと返されてしまった。


奈々未が風邪ひいちゃう。

そう言ったら飛鳥が風邪をひかないならそれでいいと返された。


そのままスタスタと歩いて行く奈々未の首はやっぱり冷たい風に晒されて寒そう。


だけど、私は奈々未を道具を持っていない。

奈々未に巻いてもらうまでは、マフラーはおろか手袋までも持ってきていなかった。

どうにかなるだろう。

そんな軽い気持ちで散歩に出てみれば雪が降ってきてしまったから。

今になって過去の自分を恨む。


しょうがないから、ポケットに突っ込んでいた手を奈々未の手に絡ませ、握った。

ずっと冷たい空気に触れていたからか、赤く凍るように冷たい奈々未の手。


私よりも奈々未のほうが寒そうじゃん。

それなのにマフラー巻いてくれたり、さり気なく車道側を歩いてくれたり…。

私はちょろいんだぞ、そういうことをされると…気にしちゃうんだぞ。


手を繋いでみるとなんだか恥ずかしくて、散歩の意味も忘れ、俯いて奈々未について行く。


アスファルトしか見えない視界も、悪くは無い。

真っ黒な地面を真っ白な雪が染め、一時の“夢”を描く。


「ふぉっ」


雪が一片、私の鼻に舞い落ちた。

寒さで感覚の無くなった鼻でも、その冷たさは感じられた。

冷たくて、思わず目を瞑るけど、本当は暖かくて、溶けるその一瞬まで見ていたくて目を開いた。

すぐ目の前で私の体温によって溶けてなくなる雪に名残惜しさと儚さを覚え、それ以上に美しさに息を飲んだ。


すぐに消えてしまう。

一瞬の輝きには何故こんなにも美しさを感じるんだろう。

水滴になってしまえばなにも感じないのに。


体温によって水滴に変わってしまった雪をじーっと眺めてから、ふるふると頭を振る。

変り果てた姿の雪は鼻から頬へ伝っていく。


「手で取ればいいのに」


スっと奈々未の手が伸びて来て、私の頬に触れる。

冷たい奈々未の手にうぅ…と声をあげると、ごめんごめんと笑いながら言われた。

笑いながら言われても謝られた気はしない。

だけど、奈々未の冷たい手が頬に触れて幸せな気分になれたから許してやろう。

私はちょろいんだ。こんなことされたら、そういう気持ちを抱いてしまうんだ。


「今日はお鍋にしようか。寒いから」


「なんでもいいや」


そんな会話をしながら、どちらからともなく手を絡ませ、離さぬようにぎゅっと握った。


赤い鼻先も、吐いた白息も、私と繋がれた横顔も、今は全部、全部私だけのもの。

降る雪さえも、私のものだ。


「明日、雪積もってるかな」


「どうだろう。積もってたら散歩しようか」


「積もってなくても散歩する」


「あはは、そっか。じゃあ風邪ひかないようにしなきゃね」


そう言ってまた伸びてきた奈々未の手は、赤いマフラーにかけられ、鼻までマフラーを引き上げてくれた。

さっきまで私の口から漏れていた白息は見えなくなった。

その代わりに、温かな温もりが鼻を包み込む。

奈々未の鼻は赤いままだ。


「今日はもう帰る」


「まだいつもの半分しか歩いてないけど?」


「疲れちゃった」


奈々未が風邪ひいたら嫌だから。

そんなことは言えなくて、胸の奥底にそっとしまった。


声に出してしまえばすぐに伝わるのに。

繋いだ手を離して、自分に巻かれたマフラーを奈々未に返せばもっと散歩出来たのに。


だけど、マフラーで塞がれた口は思うように開かなくて、繋いだ手は離したくなくて。

きっと明日には溶けているであろう魔法に胸を踊らせながら帰ることにした。


歩いたらどんな音がするかな。

どんな匂いが街を包むのかな。

真っ白な世界はどんなにキレイなのかな。


奈々未と一緒に歩く道は…きっといつもと違う景色なんだろうな。


回れ右をして向かう奈々未の家。

お互いの温もりを逃がさぬように握られた手はとても暖かく、奈々未に借りたマフラーは首を外気から守ってくれている。

暖かくて、暖かくて、だけど隣の人は寒そうで。

暖めてあげようとほんのちょっとだけ距離を縮めた。


このくらいで暖かくなるわけなんてないけれど、


「あったかい?」


そう聞いたら


「うん、あったかい」


雪をキレイな鼻筋に付けながら微笑まれた。

私は奈々未の鼻に乗った雪が溶「はぁ〜」


雲の多い空に向かって吐き出した息は白息に変わり、静かな住宅街に溶け込んだ。


「寒いね」


「ほんとね」


意味もなく、ただただ散歩するのが好きだった。

外に出るよりも家でゴロゴロ本を読んでいる方が好きな私にとって、この時間だけは唯一楽しいと思えた。


なんてことない会話をしながら、なんてことない日常を目にしては通り過ぎる。

変わっていないように見えてちょっとずつ変わっている風景を見ることも、隣にいる人と過ごした時間の長さを表しているようで好きだった。


「あ、雪…」


ふと空を見上げると、はらはらと白い贈り物が静かな街に贈られていた。

それは一時の夢のように儚く、時間が経てば幻のように消えてしまうもの。


「ほんとだ」


雪は好みの部類に入ると思う。

跡を残さない白く凛とした美しさの中の儚さ。

雨が嫌われる中、雪はキレイだなんてわがままだとは思うが、人間そんなもの。

そして、誰かと一緒に空を見上げてられれば、それで満足なのだから。


「風邪ひいちゃうよ」


奈々未が風に晒されっぱなしだった私の首に赤いマフラーを巻いてくれた。

暖かい…。

誰かの温もりを保持していたマフラーはとても温かく、私の首に馴染んだ。

その代わり、奈々未の白く細い首は冷気に晒されてしまっている。

どうしたものか。


大丈夫、寒くない。

そう言ったら私も寒くないと返されてしまった。


奈々未が風邪ひいちゃう。

そう言ったら飛鳥が風邪をひかないならそれでいいと返された。


そのままスタスタと歩いて行く奈々未の首はやっぱり冷たい風に晒されて寒そう。


だけど、私は奈々未を道具を持っていない。

奈々未に巻いてもらうまでは、マフラーはおろか手袋までも持ってきていなかった。

どうにかなるだろう。

そんな軽い気持ちで散歩に出てみれば雪が降ってきてしまったから。

今になって過去の自分を恨む。


しょうがないから、ポケットに突っ込んでいた手を奈々未の手に絡ませ、握った。

ずっと冷たい空気に触れていたからか、赤く凍るように冷たい奈々未の手。


私よりも奈々未のほうが寒そうじゃん。

それなのにマフラー巻いてくれたり、さり気なく車道側を歩いてくれたり…。

私はちょろいんだぞ、そういうことをされると…気にしちゃうんだぞ。


手を繋いでみるとなんだか恥ずかしくて、散歩の意味も忘れ、俯いて奈々未について行く。


アスファルトしか見えない視界も、悪くは無い。

真っ黒な地面を真っ白な雪が染め、一時の“夢”を描く。


「ふぉっ」


雪が一片、私の鼻に舞い落ちた。

寒さで感覚の無くなった鼻でも、その冷たさは感じられた。

冷たくて、思わず目を瞑るけど、本当は暖かくて、溶けるその一瞬まで見ていたくて目を開いた。

すぐ目の前で私の体温によって溶けてなくなる雪に名残惜しさと儚さを覚え、それ以上に美しさに息を飲んだ。


すぐに消えてしまう。

一瞬の輝きには何故こんなにも美しさを感じるんだろう。

水滴になってしまえばなにも感じないのに。


体温によって水滴に変わってしまった雪をじーっと眺めてから、ふるふると頭を振る。

変り果てた姿の雪は鼻から頬へ伝っていく。


「手で取ればいいのに」


スっと奈々未の手が伸びて来て、私の頬に触れる。

冷たい奈々未の手にうぅ…と声をあげると、ごめんごめんと笑いながら言われた。

笑いながら言われても謝られた気はしない。

だけど、奈々未の冷たい手が頬に触れて幸せな気分になれたから許してやろう。

私はちょろいんだ。こんなことされたら、そういう気持ちを抱いてしまうんだ。


「今日はお鍋にしようか。寒いから」


「なんでもいいや」


そんな会話をしながら、どちらからともなく手を絡ませ、離さぬようにぎゅっと握った。


赤い鼻先も、吐いた白息も、私と繋がれた横顔も、今は全部、全部私だけのもの。

降る雪さえも、私のものだ。


「明日、雪積もってるかな」


「どうだろう。積もってたら散歩しようか」


「積もってなくても散歩する」


「あはは、そっか。じゃあ風邪ひかないようにしなきゃね」


そう言ってまた伸びてきた奈々未の手は、赤いマフラーにかけられ、鼻までマフラーを引き上げてくれた。

さっきまで私の口から漏れていた白息は見えなくなった。

その代わりに、温かな温もりが鼻を包み込む。

奈々未の鼻は赤いままだ。


「今日はもう帰る」


「まだいつもの半分しか歩いてないけど?」


「疲れちゃった」


奈々未が風邪ひいたら嫌だから。

そんなことは言えなくて、胸の奥底にそっとしまった。


声に出してしまえばすぐに伝わるのに。

繋いだ手を離して、自分に巻かれたマフラーを奈々未に返せばもっと散歩出来たのに。


だけど、マフラーで塞がれた口は思うように開かなくて、繋いだ手は離したくなくて。

きっと明日には溶けているであろう魔法に胸を踊らせながら帰ることにした。


歩いたらどんな音がするかな。

どんな匂いが街を包むのかな。

真っ白な世界はどんなにキレイなのかな。


奈々未と一緒に歩く道は…きっといつもと違う景色なんだろうな。


回れ右をして向かう奈々未の家。

お互いの温もりを逃がさぬように握られた手はとても暖かく、奈々未に借りたマフラーは首を外気から守ってくれている。

暖かくて、暖かくて、だけど隣の人は寒そうで。

暖めてあげようとほんのちょっとだけ距離を縮めた。


このくらいで暖かくなるわけなんてないけれど、


「あったかい?」


そう聞いたら


「うん、あったかい」


雪をキレイな鼻筋に付けながら微笑まれた。

私は奈々未の鼻に乗った雪が溶けるまで、奈々未を見つめ続けた。