アシナガバチやスズメバチの権威といえば、尊敬する三重大学生物資源学部昆虫学の故松浦誠先生が浮かびます。2005年に64歳の若さで惜しまれながら亡くなられました。

スズメバチの本を何冊も出されていて、私も三冊バイブルとして持っています。中には、『社会性カリバチの生態と進化』という、たくさんの写真で構成された2万円の高価な本も持っています。実は、これは松浦先生にいただいたのです。

 

 

二十代前半の頃、玉川大学のミツバチ科学研究大会で、スズメバチについての松浦先生の基調講演を聞いたことがありました。お顔立ちがスズメバチに似ているなと思ったのが第一印象でした。

 

講演後の質疑応答で多くの参加者の中、若い私は臆せず「スズメバチの巣はなぜ、スイカのように丸いまま大きくなるのですか?」と質問しました。瞬間、会場から、なんて幼稚な質問するのだとばかりに失笑が聞こえてきました。でも、ずっと不思議に思っていたのです。松浦先生は丁寧に「巣材は外壁に外からどんどん足していき、内側から外壁を削って子育てする巣板に二次加工している」ことを丁寧に教えて下さいました。いっぺんで大好きな先生になりました。

 

私はその後、縁があって松浦教授の研究を手伝っていました。講演で希少と話されていたチャイロスズメバチが山形にはたくさんいるので、先生に送ってみたのです。するとまもなく子供用の虫かごが30個ほど大きな箱で届きました。嬉しいことに巣の質問をした私を覚えていてくださいました。それから私は、女王蜂を捕まえるたびに、その虫かごに入れて、研究検体として松浦教授に送っていたのです。おそらく20匹以上は送ったと思います。

 

チャイロスズメバチは、キイロスズメバチの巣に単独侵入して女王を殺して自分が女王に君臨します。松浦先生は、その習性を研究していたのです。高価な『社会性カリバチの生態と進化』はそのお礼にいただいたのでした。25年ほど前のことです。

私は、アシナガバチにはあまり興味がわかず、大好きなスズメバチのページばかりを見ていました。アシナガバチについても、詳しく生態が紹介されていたのは知っていましたが、きっとスズメバチと大差ないだろうと思い込んでいたのです。

 

自戒しながら、さっそく読んでみました。

 

 

すると「なるほど!」とか「やはり!」と感じるデータがたくさん紹介されていました。たとえば…
 

・女王が単独で巣をつくっている間は人に対する攻撃性はほとんどない。

 

・幼虫の食物として、鱗翅目幼虫を中心に各種の昆虫を狩る。農作物、街路樹、庭木などにつく青虫や毛虫を食べる益虫である。

 

・新女王の羽化は7〜8月。新女王が羽化すると、育子活動は停止し、残った幼虫や蛹は食べられたり捨てられる。オスバチと新女王蜂は羽化後、数日〜1〜2ヶ月後に巣を離れ交尾する。

 

・アシナガバチを襲う捕食者はヒメスズメバチのほかに、スズメバチ属の各種がある。キイロスズメバチやオオスズメバチは成虫も襲うのでアシナガバチは巣を放棄して逃げる場合がある。

 

・交尾は8〜10月の晴天の日中に行われる。セグロアシナガバチやキアシナガバチは、葉上、岩、建物など一定の場所に縄張りを作りそこで新女王を待つ。

 

・越冬は、営巣地から数十mないし数百mの短い距離に越冬場所を求める。単独または数頭から数十頭の集団で建物の隙間などに越冬する。セグロ・キアシ・ヤマトの3種は、キイロスズメバチの廃巣に三種が混在した集団で越冬することもある。

 

さらに各アシナガバチごとに、形態、分布、発生経過、造巣習性、営巣規模、食性、そして攻撃性まで詳しく説明してありました。

 

読み進めるうちに、なんだか松村先生に応援してもらっているような気持ちになりました。未来の私のために、なによりの素晴らしいバイブルをプレゼントして下さっていたのです。隅々まで読んで「アシナガバチ移住プロジェクト」の今後に活かさせていただきます。