或る年の入学式前のエピソードだよ。僕たち教師にとっての初仕事が待ってる。クラス分け作業です。

     中学校からの申し送りと入学試験の結果を兼ね合いでクラス分けをするのです。


     出来るだけ平等に成る様に生徒同士を交換しながらクラス分けをして行きます。

そして、願書の写真も参考にするんです。


     ところが、願書の写真を見ると渡辺恭子は異様でした。他の担任たちは恭子の写真を見て僕のクラスに入れようとしたのです。

      僕たち教師は写真を見て其の生徒の性格が大抵分かるからのです。


     まぁ、僕は学年主任だったし仕方無く受け入れた。 問題児だろうなと予想してた。


    其の予測は生徒たちが教室に入って直ぐに的中した。恭子は椅子にふんぞり返ってました。

僕は (渡辺、其の態度10年早い)_ど怒鳴りつけたのてす。

    教室の後ろには保護者が居たけど関係無いもんね。


    授業が始まるや苦情が僕の所に殺到したんです。心の中で  (自分の授業位は自分で何とかしなさい)_と毒づいてたよ。


    とはいえ恭子を個室に呼んで学校や授業への不満を吐き出させたよ。あとは家や両親との関係かな。叱ったりしなかった。


    兎に角、恭子の内面を探る事に的を当てた。

家庭訪問にも行ったよ。何回か話すうちに学校や家庭の事を話す様になってきた。


     そんな雑談をしても彼女の (心の中の闇)_の核心に到達して無いと確信してた。

ところが、其の闇が突如として現れたんです。


    或る日の夜に恭子から電話が来たのてす。

(先生、怖いよ。助けて)_と叫んでた。僕は関越道で谷原の家に向った。


    家のリビングに入ると調度品が壊されてた。多分恭子が暴れたのだ。其れから恭子の部屋に入ると彼女は部屋の片隅でうずくまって泣いてた。


   僕は恭子の背中をさすり、彼女の言葉を待った。そして語り始めた。地元の元仲間たちが真面目になっていく彼女を許せなかったのだろう


     其の連中が薬を飲ませて〜をしたのだ。だけど警察に届ければ表沙汰になり、彼女は即刻退学になってしまう。彼女と僕の秘密にしたのだ。

    悲しくも悔しい秘密でした。


     1学年が終わり2学年に成る時のクラス分けの時と異なり、当然の如く恭子を自分のクラスに入れた。他の担任たちは安堵してた。


    ところが、2学年の2学期に事件が起こった。

恭子のカンニング疑惑だった。試験の監督者が訴えたのだ。


     職員会議が開かれた。カンニング疑惑に関しては僕は現場には居なかったので沈黙した。

    カンニングは1週間の停学なのに恭子には退学にする。

     彼女の1学年からの問題行動を加味しての提案だった。

    僕は猛烈に反対意見を述べた。


    然し賛否の挙手で退学反対は僕だけだった。

せっかく真面目になり更生の芽が芽生えたのにさ。お前等は教師失格だな。


     こうして恭子は学校を去った。悔しかった。

喉に小骨が刺さった感覚だった。


     其れから数年後、職員室に居た僕に後ろから声掛けがあった。(先生、元気だった)_後ろに恭子が立ってた。


    表情が穏やかだった。彼女はトルコ人と結婚して子どもも出来たという。完全に立ち直ったのだ。喉に刺さった小骨が抜けた感覚だった。


     また会いたいなと思う。

ありがとうございました。感謝、感謝