パイロットにはどのような能力が求められるのでしょうか?

将来パイロットを目指している人でなくても、気になる人も多いのではないでしょうか。

 

今日は、これまで10年間飛んできて、機長も含めて経験してきた中で、必要だった能力について書きたいと思います!

 

1.コミュニケーション能力

2.人付き合いの良さ・周囲との協調性

3.判断力

4.健康な身体・ある程度の操縦感覚

5.最低限の英語力、そして聞き返す勇気!

6.精神力・持続力

7.常に飛行機の前を行く、「予想する能力」

8.マルチタスク能力

 
それではひとつひとつ、詳しく見てみましょう!
 
 
 

1.コミュニケーション能力

航空業界の安全性の向上に大きな影響を与えたCRM(クルー・リソース・マネジメント)の発達。そのCRMスキルの中でもよく出てくるのがコミュニケーション能力です。

コミュニケーション能力、すなわち正確に、そして効率よく物事を伝える能力。忙しい空港/空域での無線交信や、緊急時のコクピット内など、パイロットには素早く正確に情報を聞き取り発信する能力が求められます。

そしてコミュニケーション能力で重要な要素が、言いにくい事、また言いにくい相手に対しても、しっかりと発言できる能力です。CRMの発達以前は、立場的に上である機長の致命的な決断に対し、他のクルーが重要な情報を躊躇などから効果的に伝達できず、人為的なアクシデントにつながることが多くありました。そうならないためにも「相手が間違っている」という、言いにくい事でも、素早く正確に伝える能力が大変重要になります。

 

 

2.人付き合いの良さ・周囲との協調性

先ほどのコミュニケーション能力の場でも出てきましたが、防げたはずの事故の中には、人為的なケースが多々あり、その多くが一人のパイロットによる致命的な独断を周りのクルーが止められなかったことによるものです。この場合、他のクルーのコミュニケーション能力もそうですが、何よりミスを犯しているパイロットが他人の意見を聞き入れる心構えを持っていない事が問題でした。「この副操縦士は何も分かっていない」、「自分の方が経験がある」など、多くの場合で機長が自分の判断力と経験を過剰に信頼し、他人の意見を一概に無視した結果、事故へつながりました。

そうならないためにも、周囲の意見を取り入れられる協調性、そしてクルー全体からうまく意見を引き出せるリーダーシップが非常に重要になってきます。クルーの中には内気で自分の意見をうまく発信できない人もいるかもしれません。そんな人でも、発言しやすいような環境を作るのもパイロット、特に目上の存在である機長には必要な能力です。自分が前の会社で機長をしていたころは、特に笑顔を忘れないように心がけていました。特に初対面の新人副操縦士には、どんな小さなことでも指摘してもらえるように、フライト前に自己紹介などで盛り上がり、「なんでも言ってねー!」とブリーフィングしていました。そのせいか、新しい機種で慣れていない頃に自分のランディングを小ばかにしてくる副操縦士もいて、でもそれくらい機長である自分に対してもリラックスして発言できる方が、健全なコクピットであると考えます。大切なのは、楽しくもしっかりとプロ意識を保ち、安全を最優先するコクピット環境を作り出すことです。

 

 

3.判断力

パイロットの仕事中には、瞬時の判断力が求められる場面がいくつもあります緊急時には特にその能力が試されます

例えば普段の運航時では、管制官からの急なルートや高度の変更要請や、離陸直後の客室のCAさんからの連絡などがあります。前者の場合は、天候、残燃料、会社の運航手順などを考慮した上で判断を下す必要があり、後者の場合は飛行機の操縦とその他の要素のつり合いを瞬時に判断することになります。具体的に言うと、離陸直後でパイロットは忙しいとCAさんは知っている上で連絡してくるほど重大な何かがキャビンで起こっている、しかしまだ離陸したばかりで高度も取れていないような状況。そんな時は、2人のパイロットで今の仕事量が分担できる程度と合理した上で役割を分担し、一人のパイロットが簡潔にCAさんと連絡を取り合う、または、あと十数秒で操縦の負担が減るから、その後にこちらから連絡しよう、などというような判断を2人で瞬時にできる必要があります。重要なのは、パイロット同士が同じ判断を共有し、合意した上で行動することです。

 

 

4.健康な身体・ある程度の操縦感覚

これはよく聞くかと思いますが、乗客の命を預かる以上、乗務中に重病を発症してフライトを危険にさらすわけにはいかないので、健康な身体を保つことが重要です。またフライトに集中できるよう、精神の健康も重要です。

たくさんのパイロットの訓練を見てきて、たまに見かけるのですが、操縦感覚が非常に乏しい人がいます。例えば着陸の際、地面が近づいてきたときに機首を上げる「フレア」と呼ばれる動作をして降下率を下げ、スムーズに着陸します。このフレアのタイミングは、座学でも教わるのですが、実際に操縦してみると感覚的な部分も大きく、一回目からコツをつかめる人もいれば、何回やっても距離感がつかめず苦労する人もいます。距離感をつかめなかったり、周辺視野を使う操縦がうまく行かなかったり... 車の運転でも似たような部分があるかもしれませんが、やはり乗り物の運転には多少の操縦感覚が必要になってきます。

 

 

5.最低限の英語力、そして聞き返す勇気!

よく聞かれる質問がパイロットに必要な英語力。訓練を始める前は、ぎりぎり日常的な会話ができる程度で十分だと思います。というのも、専門的な用語は訓練中に習うので、始まる前からストレスをためる必要はないです。そして日々の運航でも、必要になってくるのは「航空英語」で、英語が第一言語でない人のためにも決まった単語、フレーズを使用します。これも訓練中に叩き込まれる物です。

無線での会話は英語圏の人でも手こずる所です。特に短い文章の中に多くの情報を詰め込みたがるこの業界では、聞く能力と瞬時に分かりやすくノートをとる速記能力も必要になります。

一番大事なのが、分からない事を聞き返す勇気。「たぶんこう言ったんだろう...」という感覚で操縦してしまっては大事故につながります。普段から分からなかったり聞き取れなかったら、聞き返す勇気を持つことが非常に大事です

 

 

6.精神力・持続力

エアラインパイロットへの道は長く、簡単な道ではありません。個々それぞれの目標の「パイロットになる」というゴールへ向かうために、たまには辛い選択も迫られることもあります。誰にでも訓練がうまく行かない日が絶対あります。重要なのは、そこでめげずに、問題と向き合い解決していく精神力です

そしてパイロットの仕事には、日々同じことの繰り返しになる事がたくさんあります。毎日同じ空港へ飛んで、毎日同じチェックリストを読んで、次の日もそれの繰り返し。それを何か月、何年と続けなければいかないかもしれません。そんな生活の中、ダラダラしてしまったり、「いつもやっている事」と言ってチェックリストをスキップしたり... そんな積み重ねが事故につながります。

日々初心に帰り、いつも向上心を忘れないように生活することは、パイロットにとって非常に大事な仕事の一部です。日々だらけてしまわないよう、自分をコントロールできる精神力と持続力も非常に大事です。

 

 

7.常に飛行機の前を行く、「予想する能力」

訓練中に耳にタコができるほど言われるのがStay ahead of the aircraft/飛行機の前を行け。自分の頭の中で行けていない所に、飛行機を持っていくなです。どういうことかというと、「常に自分の操縦する飛行機が、数分後、数秒後にどこでどんな状況であるかをきちんと考えて操縦しろ」ということです。もし状況が手に負えないほど忙しかったり、混乱していて、「えっ!もうこんな所まで来ちゃったの...?」となった状態を「Behind the aircraft/飛行機の後を行く」と言って、自分が予想できていない状況に飛行機があり、飛行機に置いて行かれてしまっている状態を意味します。こうなると、人は焦り、周りの状況も把握できず、ミスを連発し、最悪の場合事故につながります。常に、次の次の次のステップまで頭の中でイメージしながら操縦できるような「予想する能力」を鍛えるようにしましょう。

 

 

8.マルチタスク能力

訓練を始める前は、特に必要な専門知識はありません。難しい数式や力学などの分野も、得意でなくても大丈夫です。逆にパイロットに必要なのは、簡単は計算を操縦しながらでも頭の中でできるような、マルチタスク能力です。特に計器飛行では普段の操縦の上に、多くの計器を監視し、それらの情報を分析、操縦を修正、そしてまた計器を監視、その上にタイマーを使ったり、時間を監視したり、チャートを見たり、無線で交信したり...非常に多くのことが同時進行します。先ほど出てきた「予想する能力」と、それを実行できるマルチタスク能力も大事です

 

 

 

いろいろと出してみましたが、パイロットを目指している人を不安にするつもりで書いてはいません。これらの能力は、日頃から意識して生活することで身に付けられる物も多く、同時に普段の生活の役に立つものばかりです!

 

実は自分も昔はコミュニケーションがものすごく苦手でした。今も得意だとは思っていませんが...(笑

昔、深く考えず発言し、失礼なことを言ってしまったことも多々あり、めげてしまっていた時期もありました。しかし、それを克服しようと本を読んだり、積極的に知らない人に声をかけたりするように努力し、今では会話をするのが楽しいと感じるようにまでなりました。それが、自分をもっと良いパイロットにしてくれたのは確かで、日々の努力は必ず結果に結びつくと思います。

 

他にも普段からできる事の中に、いろいろと予想してみて、同時に難しい判断を自分に迫ることもしています。例えば歩いて出かける際、「次の道を左、そして駅に着いたらXX分の電車に乗って〇〇まで。そして△△で乗り換え」と次のステップを常に意識しながら行動します。そして、「もし△△で電車に乗り遅れたらどうすればいいんだろう」と第2のプランを考えてみたりしてみてください。小さなことかも知れませんが、常に次のことを意識して生活することに慣れるのは、パイロットにとっては大いに役に立つと思います!