よくある質問で、

パイロットに必要な英語力ってどれくらい?

                                                                                       と聞かれることがあります。

 

やはり普段から英語によるコミュニケーションをしているパイロットという職業を考えると、当然英語もペラペラ話せないといけないと思われるかもしれません。

 

「自分は英語が苦手だからパイロットは無理か...」と諦めてしまっている人もいるのではないでしょうか?

 

でも本当に英語ペラペラである必要はあるのでしょうか??

 

今回は、そんなパイロットと英語力について書きたいと思います!

 

 

数字で見る!最低限の英語力はどれくらい?

まず、ANAJALの自社養成プログラムには、どれくらいの英語力が必要になるのでしょうか?

 

ANAの採用ページには、「TOEIC700点程度の英語レベル」と書いてあり、JALの方は具体的な数字は書いてないのですが、ANAと同等の英語力が必要になってくると思われます。

 

TOEIC700点とは、英検2級Aぐらいで、英語がある程度できるようになったと言える段階のようです。

 

英語が苦手な人には、少しハードルが高いかもしれませんが、そこまで手の届かない数字ではないと思います!

 

この記事の最後にも自分がどのように英語を勉強したか書きましたが、英語を理由にパイロットへの夢を諦めようと思っている人がいたら、是非とも諦めずに頑張ってもらいたいです!

 

 

 

安全を守るための航空英語!

皆さんも聞いたことがあるかもしれませんが、この業界には「航空英語」というものが浸透しています。

 

航空業界の拡大と共に、英語が十分なレベルに達していない人たちもこの業界に携わるようになり、コミュニケーション不足や誤解が事故を招くことが懸念されていました。

 

そこで、パイロットだけでなく管制官やグラウンドハンドラーの人たちなどともしっかりコミュニケーションが取れるように、なるべく俗語のない標準的な英語フレーズを使うことにより、誤解を減らし安全運航につながるようにしています。

 

例えば、管制官からパイロットへ離陸許可を出すときは「Cleared For Takeoff Runway 〇〇」、そして着陸許可は「Cleared To Land Runway 〇〇」という感じに、同じようなフレーズもなるべく区別しやすいようにしています。

 

 

そして、使う単語自体もなるべく統一するようにしています。例えば何かをリクエストする時には「I want Flight Level 360」や「Can I get taxi instructions」ではなく「Request 〇〇」を使うのが一般的です。

 

このような航空英語は、普段運航中によく聞きよく使うので、そこまで英語が得意でなくても慣れるのに時間はかかりません

 

問題は、日々の運航の中で、どうしても航空英語ではカバーしきれない場面に出くわす場合があった時、どれだけコミュニケーションが取れるかという所です。

 

 

 

実際に飛んでいる時に必要な英語力

パイロットが普段慣れている英語以上の会話をしなくてはいけなくなったケースが、JALのB787のボストンでの燃料漏れの際のATCとの会話です。↓

 

(資料:Youtube,TRNRVY様)

 

この場面ではまず、JAL機のパイロットが管制官に、システムトラブルの為、滑走路の前で10分待機することを要請するところから始まります。

 

JAL機のパイロットは「Request Holdshort」「Due to system trouble」「Affirmative」など、普段の訓練などで慣れている航空英語を使いコミュニケーションしており、管制官にもしっかりと伝わっているのが分かります。管制官がJAL機のリクエストを復唱しているのも、お互いが同じことを話している事を確認するうえで非常に重要で、とてもうまくコミュニケーションが取れているのが分かります

 

他の機からの連絡で、管制官がJAL機に燃料漏れの事実を伝える際に、すこし早口になりパイロットが聞き取れたかは分かりませんが、交信の最後ではゆっくり、そして簡単な英単語を使い燃料漏れについて伝えています

 

すこし辛口になると、交信の最初の部分は他の機がどこから見ていたとそこまで意味のない情報や、「To make sure everything is OK」、「a fire engine truck※」など、普段から英語を使っていない人には分かりづらい表現も使っていて、システムトラブルを解決しようと奮闘してすでにストレスレベルが上がっているパイロットにとっては、頭痛の種が増えたようなものです。

※Fire Engine Truck はEngineという単語が入っており、他の部分が聞き取れてない場合、その単語を聞いただけで「燃料漏れがもしかしたらエンジンで発生しているのではないか」と勘違いする可能性もあります。消防車にも Fire Engine Truck という種類があり、この消防車のコールサインが「Engine 6」だったことも影響したかと思いますが、簡単に Fire Truck でよかったと思いますし、実際にこの後の更新では Fire Trucks という単語に切り替えてます。

 

その管制官からの通報に、パイロット側もしっかりと確認するように復唱していて見事なコミュニケーションだと思います。

 

そこから管制官とJAL機の交信も、問題なくうまくいくのですが、消防のローガン司令がJAL機と直接話始めるところから、少し状況が変わってきます。

 

まずJAL機に対して呼びかけをして、JAL機がそれに返答したのに対し、次の交信が滑走路の運用状況を聞く交信で終わり、結局誰に対して話しているのか分からない状況になってしまいます。更に「We're gonna」と馴染みのない省略形や、「Clean Harbors」という空港の運用に関わっていないと知らないないであろう業者名(かな?)を使ったり、もうネイティブの人と話している状態になっています。

 

そしてJAL機への交信で「All passengers are all set?」など、ネイティブでないと通じないような言い回しを使ったり、ローガン司令の人が普段から航空英語を使っていないのがよく分かるかと思います。

 

ここの「All set?」は普段、「準備できてる?」などの意味で使われるのですが、このひとつ前の交信で乗客の状態を聞いた際(Is everyone on board ok?)に対するJAL機の返事を理解したか自信がなかったので、違う言い回しで再確認しようとしたんだと思います。

 

しかし、普段から「Set」はスイッチや計器を設定するときに使っているパイロットにとって、「乗客はセットできてる?」はめちゃめちゃな意味であって、パイロットの困惑した様子が交信から受けて取れます。

 

ここでまた素晴らしいと思うのは、JAL機のパイロットは分からないことに適当に返事するのではなく、しっかりと確認する返事をし、コミュニケーションに誤解や混乱が発生しないように努力している点です。

自分も経験したことで、分からない時は適当な返事をしてしまいがちですが、しっかりと確認する姿勢は素晴らしいと思います!拍手

 

ここでのポイントは、ここでの管制塔とパイロットとの交信が、パイロットに必要となってくる英語力の良い目安になってくると思います。

逆にローガン司令に限ったことでなく、航空業界で無線交信に携わることになるであろう人々には、しっかりと航空英語と、英語がネイティブでない人たちのとの交信にふさわしい英語に関する教育が必要になると思います。

 

動画のコメントを拝見すると、JAL機のパイロットの英語力には賛否両論がありましたが、自分はパイロットを称賛します! 機体トラブル、しかも燃料が関係してくる重大な場面でストレスのレベルも高い状態で、しっかりと交信復唱確認しており、重要な交信に対しては全然問題点は見られないと思います。拍手

 

 

 

「今のホントに英語?」 地域特有なアクセントに苦戦!

自分の会社では、離陸、アプローチ前にリスクになりえることについてクルーで話し合うことになっています。

 

北米以外へ飛ぶ時、ほぼ毎回話し合われるのがコミュニケーションについてで、特にアクセントによる誤解、混乱を避けるための対策について話し合います。

 

というのも、いくら英語の文法があっていても、アクセントが強すぎて分からないことが多々あるからです。

 

こればかりは慣れが必要になってきて、クルーの過去からの経験によってもコミュニケーション能力に差が出てきます。

 

自分は日本での英語の発音に慣れているので、アジアへの便に乗務する時は比較的管制官の英語を理解できるのですが、逆にヨーロッパ圏のアクセントはまだ聞き取りにくいと感じます

 

更に、地域によっては無線環境に差が出てきます。例えばブラジルのアマゾン上空は、無線環境が悪いことで知られていて、「まるで水中から話しているよう」とよく揶揄されます。

 

このようなアクセントや無線環境への対策として活躍するのがCPDLCと呼ばれるシステムです!

 

 

英語話さなくてもOK?!できるところ(交信)はCPDLCで!

航空で使われる無線にはVHF(超短波)が一般的なのですが、間に障害物や、お互いが離れすぎて地平線の陰に隠れたりする電波が届かなくなるという欠点があります。

なので、今まで大西洋上など遠距離での交信には、丸い地球の表面をなぞるように進む性質のあるHF(短波)が利用されていました。しかしHFは音質がひどく、相手が何を言っているのか全く分からないことも多々あります。

 

それを解決するために登場したのがCPDLCです!

 

CPDLCとは Controller - Pilot Data Link Communications の略で、その名の通りデータ通信で管制官とパイロットをつなぐシステムです。CPDLCはVHFのほかに衛星通信も利用してデータをやり取りするので、大西洋上や地上無線施設がない場所でも利用できます!

 

画期的なのが、運航に必要な指示/リクエスト/許可など標準化された形式のテキストで通信され、大抵の場合はテストなどで見る「空欄を埋める」や多肢選択タイプでメッセージが作成されます

 

例えば、パイロットが積乱雲を避けるために進路変更したい場合、そのカテゴリーであらかじめ用意されているテンプレートの空欄や選択タイプの質問に、「進路を何度」「右/左」「何マイルまで」「進路変更の理由」などを当てはめて管制官へ送信します。オプションで自由にテキストを入力し一緒に送ることもできます。

進路変更のリクエストを受け取った管制官は、単純に「許可」または「拒否」できたり、もっと詳しい指示(例:右30度/予定のコースから50マイルまで/可能になり次第〇〇へ飛行、など)を返信できます

 

あらかじめ形式化されているテンプレートなので、パイロットにも管制官にも分かりやすく、音声での交信をしなくてもよいのでアクセントや音質に苦労することもありません!

 

更に、もっと簡単な高度の変更や、ルート変更の場合、パイロット側が届いた許可を「了解」すると、飛行機が自動で新しい高度やルートをオートパイロットに入力し、パイロットの負担削減と同時に入力ミスも少なくできます。あとはパイロットはボタン一つで簡単に高度変更が可能になります。←もちろん飛行機にもよりますが...

 

ただし、音声での交信に比べてひとつひとつに時間がかかるので、操縦や交信が忙しくなるアプローチなどでは利用されません

 

また、CPDLCもVHFや衛星通信を利用してデータを送り合うので、北極ルートなど地域によっては通信具合が悪く利用できないこともあります。

その上、国や地域によってはCPDLCを利用していない所もあり、その場合は音声による交信に頼ることになります。先ほど出てきたブラジルでも今の所は利用できず、質の悪い音声での交信をするたびに「早く導入してくれ~」とみんなでボヤいてます笑い泣き

 

 

おしまいに

 

最後にはなりましたが正直な話、実は自分も英語は得意ではありませんでした(汗 

というか、苦手でした

 

そこで「日本で毎週数時間の英語の授業だけじゃダメだ」と思い、高校から海外の国際学校へ留学させてもらいました。

 

はじめは言葉が通じないことと、文化の違いから来るすれ違いのダブルパンチで、正直つらい事の方が多かったです。

 

それでも、「英語を上達してパイロットになる」という気持ちのおかげで頑張り続け、年を重ねるごとに話せるようになりました。

 

なので、皆さんの中にも英語が苦手でパイロットの夢を諦めようとしている人がいたら、ぜひ諦めずに挑戦し続けてほしいです!