飛行機の翼やエンジンの周りに現れて、幻想的イメージを演出してくれるベイパー

 

 

英語のVapor = 蒸気から来ている言葉なのですが、一体どうしてこんな事が起きるのでしょうか? そしていつ、どういう時にベイパーは現れるのでしょうか?今回はそんな疑問に答えたいと思います。

 

ベイパーとは??

まず、ベイパーは簡単に言うと「雲」です。でも雲にしては一瞬で消えてなくなるじゃない? って思われる方もいるかと思いますが、そこには「気圧」と「気温」が関係してきます。


普段目には見えないのですが、空気中には水が水蒸気として含まれていますそして、どれくらいの量の水が含まれるかは、気温が左右します気温が高いほど、空気に含まれる水蒸気の量も多くなりますこの水分の最大量は、20℃で17.2g/m3くらいです。

 

この「飽和状態」の空気の気温が下がると、空気が含みきれない水分が「雲」として現れるのです。そして、「雲」が現れる気温のことを、露点といいます。

 

「気温が下がる」→「雲ができる」という点は身近な所でもよく見かけますよね。例えば、冬の寒い日に吐く息が白くなるのは、温かい湿った息が急に冷やされることで、含まれきれなくなったた水蒸気が「雲」として現れるのです。そして、周りの乾いた空気と混ざった「雲」は、また水蒸気として見えなくなるのです

 

では自然界で、空気が冷やされる時ってどんな場合があるのでしょうか?多くの場合は気圧が関係してきます。重要な事は、気圧が下がると気温も下がるということです。これは、気圧が下がり空気が膨張するのに、エネルギーを使うからです。

 

代表的なのは、前線です。寒冷前線は、寒気がより軽い暖気を押し上げることにより、気圧の低い上空へ暖かい空気が押し上げられます。気圧が低いところへ押し上げられた空気は膨張し、同時に気温も下がります。その結果、気温が露点に達し、雲が発生するのです。

この「気圧が下がる」→「膨張する」→「気温が露点まで下がる」→「雲が発生」という流れは、航空気象学のクラスではしっかりと頭に叩き込まれるコンセプトです。

 

飛行機とベイパー

では飛行機の周りで発生するベイパーのからくりはどうなっているのでしょう??

飛行機の場合も、気圧が強く関係してきます。

 

飛行機の翼で揚力を発生させるのに、翼の上面と下面の気圧の違いを利用します。

皆さんもご存知のように、大抵の飛行機の翼は滑らかな曲線をしています。

空気や水のような流体は、流れが曲がるときに内側と外側で圧力に違いが生じます

アメリカ流体力学委員会の水での実験ビデオを参考として見ると...

 

 

真ん中の曲がっている部分では、外側に位置しているチューブの方が内側に比べて水が押し上げられている、つまり水圧が高くなっていることがわかります。

 

この原理を翼の断面に当てはめてみましょう。

翼の上面を通る空気は、曲がっている部分の外側と同じ効果で気圧が低くなります。そして翼の下面は逆に気圧が高くなります翼はこの気圧の差と、翼の後縁で空気が下の方に押し下げられている反作用で揚力を得ています。

 

そしてこの気圧の差は、翼の迎え角が大きくなって空気の流れがさらに曲げられている時、つまり機首が上がっている時にさらに大きくなります。飛行状態で言うと、ちょうど離陸の時や、アプローチの最中になりますね。翼の上に発生するベイパーがアプローチ中に良く発生するのも、翼の上面の気圧が下がっていることにより、気温も下がり、水蒸気が雲として現れているからです。

最初の動画を見てもわかるように、着陸したとたんベイパーが出なくなるのは、翼の揚力が減り、翼の上面の気圧が元に戻ったためです

 

翼の上のほかにも、翼の先やフラップの隅から、渦状のベイパーを見ることもできます。この空気の渦は翼端渦流といって、空気が気圧の高い翼の下面から、気圧の低い上面へ流れる際に渦を作る際にできます

渦状になった空気の中は気圧が下がるので、ベイパーが発生するのです。

特にフラップは日本語では「高揚力装置」呼ばれている事から分かるように、フラップの下面はかなり気圧が高くなっています。この空気がフラップの隅から逃げ出すときに、渦状の空気を作り出してベイパーが現れます。

 

 

ベイパーが出やすい日がある?!

ここまでのおさらいをすると、ベイパーが発生するのには、水蒸気が気圧の変化により膨張・冷やされることが必要と分かりました。ここで注目したいのが、空気が含んでいる水蒸気の量が多いほど、空気が冷やされた時に含み切れなくなる水蒸気の量も多くなり、ベイパーが発生しやすいということです。つまり、湿度が高い日はベイパーがでやすくなります断続的に雨が降っている日や、霧が発生している日は狙い目かもしれません。

逆に晴れた日に降る天気雨や、雷雨は比較的狭い範囲で一時的に降るので、空気が混ざり合い湿度も元に戻ってしまうことが多いです。

 

他にベイパーが出やすいポイントは、平らな雲のレイヤーの近くです。平らな雲があるということは、その近くの気温が露点であり、今にも水蒸気が雲としてあ溢れ出る寸前であることを示しています。なので低空の雲のレイヤーが出ている日は、アプローチ中の飛行機のベイパーを見れるチャンスでもあるのです。

 

 

おしまいに

いかがでしたか?基本的な雲のでき方から、揚力の発生まで書いてしまいましたが、少しでも皆さんのふとした疑問が晴れたらうれしいです!