先日、調布で小型機が住宅街に墜落するという痛ましい事故がありました。

自分は飛行機アクシデントのクラスも受け持っていて、この事故のことを聞いて真っ先に頭に浮かんだのが、2000年にカナダで起きた似た事故です。

カナダ東部で起きたこの事故も、小型自家用機が離陸直後に墜落するというものでした。
直接的な原因は、キャブレターヒーターがONのまま離陸し、エンジンの出力が低下しているまま離陸したため、失速・墜落したと言われています。

キャブレターとは日本語で気化器といい、燃料と空気を混ぜるための機関です。空気が入ってくる管の一部を細くしてあり、その部分を通る空気は速度が上がるのに伴い、圧力が低下します。この負圧を利用して、燃料を吸い出し空気と混ぜ合う機関をキャブレターと言います。

キャブレターは構造も簡単で、電気など他の動力を必要としないので、ピストンエンジンの小型機では古くから使われている機関で、今でも飛んでいる多くの飛行機にもキャブレターがあります。

キャブレターの難点は、機関内にできる氷です。管の細い部分から太い部分に移動するにつれ燃料と混ざった空気は膨張し、温度が低下し氷ができてしまいます。ひどい場合は空気の流れが止まり、エンジンが停止します。そのため、排気熱で温めた空気をキャブレターに誘導し氷を除去するキャブレターヒーター、通称キャブヒートを使います。

しかし、空気は暖かくなるにつれ密度が低下するので、キャブヒートをONにするとエンジン出力が低下します。そのため離着陸時はキャブヒートがOFFになっているのを確認するよう、チェックリストにも載っています。

カナダでの事故機は、通常1,000フィート程(約300m)あれば離陸できる所を、6,000フィート(約1,830m)かけて加速し、無理やり機首を上げ離陸しました。
飛行機は地面に近い時(地上数メートル)は、地面効果と言って揚力が増します。事故機も地面効果のため離陸できたのですが、少し上昇し地面効果を失ったため失速・墜落しました。

調布での事故の場合、キャブヒートのことは分かりませんが、夏の暑い日ということで温度も高かったと思われます。先程も書きましたが、温度が上がるにつれ空気密度が下がるので、揚力も低下します。飛行機自体の性能(エンジン・揚力)が低下する夏季は、ひどい場合、冬期の半分ほどの上昇率(フィート/分)しか得られない場合もあります。
その上、調布の事故機も、カナダの事故機の場合も、燃料が満タンの上、ほぼ満席だったこともあり、なおさら多くの揚力を必要としている状況でした。

車輪がを上げるのが遅かったという報道もありますが、離陸に滑走路いっぱい使っている時点で車輪以前の問題だと思われます。これからの調査の結果が気になるところです。

飛行機のその日その日の性能は多くのことに左右されるので、離陸前に製造社発行のマニュアルでチェックし、安全を確認する必要があります。
知事からは、調布空港から「自家用機を締め出す」ようなコメントも出ていますが、「自家用機だから危ない」などという発想はちょっと違う気がします。原因もまだ分かってないのですし...

犠牲者の皆様のご冥福を祈り致します。

資料:
http://www.bst-tsb.gc.ca/eng/rapports-reports/aviation/2000/a00a0071/a00a0071.pdf