夜明け前は
いつも思い出す
あの頃大切にしてたこと
一瞬一瞬の思い
きらきらしてるわけじゃないけど
不思議な色彩を持って
ずっとそこにある
今となっては
それは古い古いおもちゃ箱のなかで眠る
いなたい塗装のミニカーと同じで
時折取り出してみて感慨に浸ってみることもある
街はまだ眠っていて
灯りのない部屋にできる陰影はモノクロに近くて
何もかもから感情はなくなってしまっている気がするのに
微かなあたたかさだけはそこにある
強がることを知っていた弱い心は
寄りかかる相手を探して
いつか一人で歩くときがくるまでは
依存という恐れも
孤独という悲しみも
与えないように
与えられないように
お互いを緩く縛りつけた
朝がくれば
セピア色に透き通ったガラスのようなそれが
ようやく目覚め始めた街の景色を映し
色を取り戻した世界を見つめるためにすっと細められることを知っている
ついでに言うならば
それを見つめていられる時間に限りがあることも知っている
まぶたの裏にじりじりと焼きつけたそれは
いつまでその像をそこに残すだろうか
立ちのぼる紫煙が
じっとりとした空気をまとって広がっていくと
季節の変わり目を予感する
暗闇の中で呼吸をするように灯る橙の美しさ
すべては日常だったもの
日常であるもの
これから失われていくもの
時計の針は正しく刻まれていく
心臓と同じように
どんどん先へ先へ
すべてを更地に返す準備を始めよう
築いてきたものは
もうこの先では思い出にしかなりえないから
少しの雨と
少しの干ばつでいい
風にのって粉塵は広く広くどこまでもゆく
いつか旅に出た先で
ふとすくいあげたそれが
優しいさらさらとした手触りでゆっくりとまた地面に還るよう