それから、ママは私に起こったことを話していくんだけど、彼は終止落ち着き払った様子でメモを取り、私には屈託のない笑顔で会話をしてくれた。まるでこういったことを専門に扱っている医者のようだった。医者でもここまで上手く話を引き出せる人はいないかもしれない。エキスパート。超一流のような感じがした。その後もママは何回か資料を渡す為に彼とあっていたようだけれど・・・今は病院で私の傍にいてあの時のように接してくれている。やめてよ…そんなに優しいと好きになっちゃうじゃん…


「ん?大丈夫?少し顔が赤いよ?」

「なんでもない!」


照れる私を他所にママに向かってこういった。


「すみませんが、少し席をはずしてもらえますか?」


食べかけたケーキをそのままにして訝しげなかを彼に向けながら、


「え?・・でも・・・」

「今は思い出さないほうが良い。家族の方がいると少しでも思い出してしまいますからね・・・」


落ち着いたトーンではあるが、それがかえってことの重要性を秘める感じになっていて、ママは言われたとおりに部屋を出て行った。もともと私に愛情なんて抱いていないんだから、当然の行動だけどね。

 

 「具合が良くなったら、ケーキ食べに行こうか?おいしいお店見つけたんだよ」


何を言っているのか分からなかった。いや、分かるけど。今そんなこと言わなくない?ましてや死のうとしていた人間に向かって・・・


 「君はさ、自分の運命って考えてるでしょ?この先も一生不幸だって。」


今度は何?何でそんなこと・・・ずけずけと言ってくれるじゃない。


「うるさい!分かった風な口きかないでよ!」


そう、分かるわけ無いでしょ。口ではなんとでもいえるのよ。


「まあ、落ち着いて。運命を変える方法って実はあるんだよ。君はそれを知らないだけ。いや、知っているんだけど周囲の環境がそれを見せないだけなんだよ。そして君自身も死ぬことしか考えられなくなっていて見えなくなってるんだ。」


なんだろう?本当に何を言ってるの?この人?探偵なんていってるけど本当は怪しい宗教かなんかなの?さっき私が感じたアレも嘘?


「いきなりこんな話をすれば信じられないかもしれないよね。まあ、それはいいとして。君は死ぬにはもったいないよ。人生の楽しいことを知らないまま死んでしまうなんて、そんな悲しいことはないだろ?」


確かにそうだけど、でも現実的にどうすれば良いかなんてわかんないじゃん。誰も私を必要としてないし。助けてなんてくれないし。


「そんな悲しい顔しないでさ、俺にまかせなって。さっき言った約束。ケーキのおいしいお店必ず連れてくからさ、ね」


なんだか頭が混乱してきた。元々意識を取り戻してすぐだから錯乱しててもしょうがないかもしれないけど、冗談なのか真剣なのかはっきりしないから余計に頭が混乱してくる。


「ねえ、助けてくれるの?」


思い切って聞いてみた。どうせ遅かれ早かれ死ぬつもりだったし。これぐらい聞いといて損はないよね。助かるならラッキーじゃん?


「助けるのとは少し違うけど、君の両親の命を俺にくれないか?君にとっても悪くない話だと思う。君の運命をそれで変えることができる。もちろん君にもそれ相応の努力をしてもらうことになるけどね。」

パパとママの命?やっぱり宗教なの?よく分からないけど・・・

「そんなことして・・・」

「後ろめたいかい?今まで君が受けてきた仕打ちを考えてごらんよ。君の両親は君を都合の良いおもちゃとして扱っているんだよ。それはもう止めようがない。この先君が今日みたいに死なない限りは永遠と続くんだよ。」

「永遠って・・・そんな・・・パパもママも・・・どうして・・・」


まだ私が小学生だった頃、パパとママは今と違ってすごく優しかった。よく三人で出かけ、ありふれたどこにでもある幸せな家庭だった。それがもう戻ってこないなんて・・・分からない・・・何も分からなくなってしまう・・・希望を抱いてたことに気がついた。もしかしたら何かの拍子にもとのパパとママに戻るんじゃないかって・・・でもこの人はそうじゃないって・・・


「まだ焦ることはないよ。君次第だよ。このまま陰惨とした状況を続けていくか、それとも一人になって頑張って未来を掴み取るか。現実は冷たいよ。といっても人が冷たいとかそういうことじゃない。体感温度として冷たいんだ。音もなくただひんやりとしている。それは君も体験しただろう?」


何故?と思ったけれど、この人は探偵だったことを考えるとやっぱり知っちゃったんだ。少し悲しくなった。騒ぎを起こしてはいるけれど核心だけは知られずにここまでやってきたのも、やっぱりパパとママに元に戻って欲しいという願いがあったからなんだけど、どうやらそれもダメそう・・・


「でも?どうやって?・・・」


思わず口にしてみたけど、気になることではあるけど、知ってしまったらって思うと怖い。


「君は知らないほうがいい。知ってしまったら生きてはいけないよ。ましてやそれが作為的に起きた出来事だと知ってしまったらなおさらだろうね。」


どういうこと?サクイテキ?デキゴト?考えるまもなく彼は矢継ぎ早に、


「いいんだよ、気にしなくても・・・君は今契約をしたんだ。この私と。これから何が起ころうと君は生きていかなくてはならない。そして生きる為の努力をすること。分かったかな?。」


なんだか最後のほうは気の良い警察官に補導された時みたいに感じちゃうけど。人の命をそう簡単にどうこうできるものなのかな?分からないけど、私は生きていてもいいのね?もう迷いはない。生きたいの!


つづく