東海林・菅井の『通史足尾鉱毒事件』・12 | 足尾鉱毒事件自由討論会

東海林・菅井の『通史足尾鉱毒事件』・12

前回説明したように、科学的・客観的に記述するなら、明治29年の異常に拡大した被害面積は、異常気象による大洪水に原因する、とすべきです。


にもかかわらず、この本の著者は、田中正造に扇動されて、巨大化した被害の原因を足尾銅山にあると思い込んで、古河市兵衛に鉱業停止を要求することに転換した被害民を正当化します。
そこで、次のように記述するのです。


「この鉱毒被害の拡大・激化は、粉鉱採集器による詐称と、予防措置を放置して示談契約を推進してきた古河と明治政府の欺瞞と不当性を、いっきょに白日のもとにさらした。そして、鉱業主(古河市兵衛)を相手とする補償要求ー示談契約から、鉱毒による生存権と公益の破壊を、政府の政治責任とする鉱業停止要求-請願運動へと大きく転換する契機となった」


異常気象という自然現象による原因を、「古河と明治政府の欺瞞と不当性」にしてしまうのですから、驚くほかありません。何という論理の飛躍でしょう。


足尾銅山が排出していた公害原因物質(鉱毒)は、明治29年の洪水以前と変わらないのです。
示談金で満足していた被害民が、それなのに何で足尾銅山の閉鎖まで求めるのでしょう。全く意味がないではありませんか。


著者たちは、事実を記述しているのではなく、古河や明治政府を悪者と見て、主観を読者にぶつけているに過ぎません。何ともお粗末ではありませんか。
なぜ著者たちがこのように理不尽な主張をするかといえば、それは、田中正造の言動を絶対的なものと考えているからです。


次回に理由を説明しましょう。