韓国猛追 日本ブランドは再構築急務



政府は「日本ブランド」の強化を進めるが、ちぐはぐな動きも散見される。一方で、Samsungなどの韓国企業がブランド力を急速につけており、日本の得意分野である自動車、電機分野の地位は大きく揺らいでいる。


 「人口は多いが資源が少ない日本は、原料を輸入し、それを加工してモノを生産することで生きてきた。しかし、これから、世界と勝負し、あるいは共に歩んでいくうえで、貢献するのは知恵の部分だ」。政府の知的財産戦略本部の手足となっている知的財産戦略推進事務局の中川健朗内閣参事官は、国策で進める日本ブランド戦略の核心をこう語る。


 知財戦略本部の日本ブランド・ワーキンググループは平成17年2月にまとめた報告書で、日本ブランドを確立すべき分野として「日本食」「地域」「ファッション」の3分野を掲げた。


 ただ、当時、各省庁と意見交換するなかで「知財戦略本部がなぜ食やファッションをやるのか」と冷たい目で見られた。「日本が誇る知的財産だ」と説明しても、なかなか理解を得られなかったという。


 それでも、中川参事官は、日本ブランド戦略にかかわって日本食の素晴らしさを実感した。世界では「日本料理ほど高級なものはない」という評価があることも知った。低カロリーで栄養があり、健康にいい。素材を最後まで使い切る「もったいない」の精神も日本ならではのものだ。「これは、一朝一夕でできるものではなく、日本人のライフスタイルが生んだ特長であり、これこそ日本ブランド。胸を張っていい」と自信を深めた。


 また、日本各地に散在する歴史的な技術の結晶ともいうべき地域産業も有力な“種”だ。


 地域ブランドは各地の名物や特産品に、地域全体で商標の表示を認める仕組みだが、「『商標を登録しました、はい終わり』ではいけない。取った商標をいかにアピールして実際に利益を生むものにつなげるか」と中川参事官は強調する。しかも、目指す舞台は世界だ。


 例えば博多人形も、夕張メロンも、世界に通じる産業としての潜在力を持っている。「日本地図だけを思い浮かべるのではなく、世界戦略を視野に入れることが肝要。それだけの力が地域にはあると自信を持つことが一番大切」という。地域ブランドを地球儀の上で語ることが、究極の狙いだ。


 昨年、知財戦略本部長が小泉純一郎前首相から安倍晋三首相に代わり、日本の強みを発揮しようという戦略に拍車がかかった。「美しい日本」というキャッチフレーズのもとで、「日本の良さへの認識が浸透していった。手応えを感じる」と中川参事官。


 「外国の物まねをするのでは競争力を期待できない。伝統や地域に根ざした文化を見直し、そうした日本のパワーを外交や経済戦略としても広げていこうと、政府をあげてやっている。その主役はクリエイターや料理人など、文化を支えている人たち」と強調。国民全体で考えていこうという取り組みだとして、広く参加を呼びかけている。



何を狙う? ちぐはぐな政府の動き

 しかし、知財戦略本部が掲げる理想も、実現の手だてを考えるのは容易ではない。戦略に今ひとつ合致しない動きは政府内にも散見される。農林水産省が昨秋打ち出した海外日本食レストランの認証制度は、国が民間レストランを選別する「スシポリス」と批判を浴び、推奨制度への変更を余儀なくされた。


 一方、経済産業省が昨年、日本製品の国際競争力を高めるために制定した商品・サービス認定制度「新日本様式」も、流れに乗れない動きのひとつだ。


 経産省によると、新日本様式とは、日本の伝統的なデザインや機能、コンテンツを最先端技術と融合させ、現代生活にふさわしいものにするよう再提言することだという。日本らしさを追求し、新たな様式を確立させようという試みで、「新日本様式」そのものが1つのブランドとして打ち出されている。認定商品はブランド品ということになる。


 その共通概念を設定するため、日本人の自然観である「和の心」を中心に、日本らしさのルーツを整理したという。経産省では、「日本のよさとは、匠の心、振る舞いの心、もてなしの心。この3つは、自然との共存と調和の中に美を感じ、感性を培う心でもある」と話す。


 10月に発表された「100選」には、薄型テレビや電子楽器から始まり、インスリン用注射針、和紙でモノを包むための折形半紙、ペットボトルの緑茶など多彩な製品やサービスが選ばれたが、初年度ということもあり、認定を受けたのは53点にとどまった。


 しかも、製品・サービスが多彩すぎて、100選の対象が「デザインなのか、使い勝手なのか、イメージなのかが不明瞭」という声が多く、一般への認知度も低い。そもそも、世界に通用するブランド作りを支援する中小企業庁の「JAPANブランド育成支援事業」との違いがわかりにくい。


 経産省でも「盛り上がりは思ったほどではない」と、国策としてのブランド確立の難しさを痛感している。「ブランドは伝統があって初めて信用を得るもの。継続的な努力が必要」(経産省)とも話し、3月にはパリ商工会議所で“53選”の展示を行うなど海外へのPRにも取り組み始めたが、制度の先行きは不透明だ。



韓国猛追 日本ブランドは再構築急務

 国際的なブランドコンサルティング会社「インターブランド」が昨夏、米ビジネスウイーク誌と共同で発表した2006年版「世界ブランドランキング」で、トヨタ自動車のブランド価値は279億4100万ドルと前年の9位から7位に上昇し、3年連続で世界の自動車ブランドで首位を維持した。トヨタの高級車ブランド「レクサス」も30億7000万ドルで92位に入っており、両ブランドを合わせるとトヨタはフィンランドの携帯電話ブランド「ノキア」の301億3100万円を抜き、6位になる。
 (2006年世界ブランドランキング)


 リポートによると、トヨタはガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッド車「プリウス」などで「洗練された信頼感」を獲得。レクサスは米国、欧州に続き日本でも販売されたことで、世界的な販売網が整ったと評価されている。


 1974年にロンドンで設立されたインターブランド社は、各ブランドの決算データや、米投資会社による将来の利益予測から、ブランドの持つ力や企業収益への寄与度などを勘案し、インターブランドが算定した割引率を当てはめてブランド価値を算出。2000年から独自のブランドランキングを公表している。


 企業の価値を計る尺度は売上高や株式時価総額などの財務データがよく使われているが、インターブランドジャパンの田中英冨エグゼクティブコンサルタントは、「世界的にブランド価値が企業そのものの強さを表し始めている」と言う。


 2006年度のランキングは、首位がコカ・コーラ、2位がマイクロソフト、3位IBM、4位ゼネラル・エレクトリック(GE)、5位インテルと米国勢が5位まで独占しており、日本ではトヨタが最高位。田中氏は「トヨタこそ、真の意味でグローバル化を達成した日本のブランド」と指摘する。


 田中氏は昨秋、トヨタ自動車のブランド戦略の基本概念を尋ねたところ、同社幹部は「業界の先頭を走るダイムラーベンツやBMWなどの路線を後追いしても勝てない。日本企業として、全く新しい視線から戦略を立てる必要があった」と答えたという。こうして打ち出されたのが、プリウスの「人間と環境の調和」であり、レクサスの「日本らしい高品質」だった。


 自動車という成熟した工業製品にとって、デザインの付加価値を高めることがブランド戦略の基本となる。また、似たような性能と価格の製品がかち合った場合、「決め手となるのは、信頼感、親近感、ステータス(地位)などの『情緒的な価値』だ」と田中氏は指摘する。


 他の自動車メーカーに目を向けると、ホンダが欧米市場での高評価を背景に19位につけたものの、日産自動車は90位で韓国の現代自動車(75位)の後塵(こうじん)を拝し、他の自動車メーカーは100選から漏れている。


 韓国勢は、自動車と並ぶ日本の基幹産業の電機分野でも互角の情勢だ。2006年度のランキングでは、サムスン(韓国、20位)、ソニー(26位)、キヤノン(35位)、松下電器産業(77位)、LG電子(韓国、94位)と日韓が入り乱れる。


 日本勢を抑えたサムスンは、日本では安価なイメージが持たれているが、米国市場などでの受け止められ方は大きく異なる。好調な液晶テレビで存在感を発揮し、1990年代後半からブランド戦略を進めてきた携帯電話端末も、洗練されたデザインで若者向けにアピールしている。


 国際的な工業デザイン学会で自社製品をズラリと並べるのは、優れたデザイナー確保するためだ。国際見本市でも、これまで日本企業が陣取っていた中心スペースにブースを構え、先進的なデザインで日本企業をうならせる。


 「日本企業は目標として売上高や市場シェアなどの数字を掲げるが、サムスンは企業ブランドのイメージのランキングで世界ナンバー3に入ることを目指している」。つまり、ブランド力向上への企業姿勢が違うのだ──と田中氏は指摘する。


 例えば、高いブランドイメージを築くために、製作と販売部門が一丸となり、商品開発から販売、宣伝まで取り組むシステムを採用。技術者と営業、広報担当が企画の段階から合同で自社製品の開発について綿密に話し合いを重ねるといい、あくまでブランド力を軸に商品を生み出そうとしている。この手法は膨大な宣伝広告費がかかるが、サムスンには「ブランド力が上がれば商品の売り上げは確実に伸びる」という確信がある。


 自動車も電子機器も、日米欧韓の製品間で機能や性能はほとんど変わらなくなった。雌雄を決するのはブランドイメージという市場環境で、日本勢はじりじりと韓国勢に詰め寄られている。政府の知財戦略本部は「食」「地域産業」「ファッション」「コンテンツ」など新分野の産業振興を打ち出したが、日本の得意分野である自動車、電機分野の地位は大きく揺らいでおり、こうした分野の日本ブランドも再構築が急務だ。