「拍手」

 

 馬は間に合わなかった

 観る者は拍手をしないのか

 馬は間に合わなかった

 観る者は何を観たかったのか 

 

 後ろ脚が出てくるのが間に合わなかった

 画家の最期に間に合わなかった

 画面から出てくるのに間に合わなかった 

 強い馬だった

 働き者の馬だった

 馬は体を動かすのが幸せだった

 馬は人間と働くのが好きだった

 馬は人間が喜んでいるのを分かっていた

 農家の男は馬に感謝していた

 家族のように思っていた

 農家の人間は作物を育てるのが幸せだった

 馬が手伝ってくれてありがたかった

 それをうまく表現できなかった

 

 農家の男の中に芸術家が棲んでいた

 芸術家は作品を手がけている時が最も幸せだった

 芸術家は農家の人間の心をうまく掴んでいた

 掴んだものを画面に表す才能があった

 

 人は前のめりで死んでいくのが最も幸せだと古い歌にある

 

 馬は間に合っていた

 画家の命が燃え尽きる前に歩き出していた

 画家を前のめりにさせるのに成功していた

 画家は馬を歩き出させたところだった

 画家は馬を画面から引きずり出しているところだった

 

 画家はその時死んだ

 余白は画家の死を描いていた

 画家は死まで観る者に伝えることに成功していた

 観る者にとっての幸せとは何なのか

 観る者は作品に画家の死が込められていることを感じとった

 何をしている時に死んだか分かった

 後ろ脚は出て来なくて良かった

 絶筆が絶命の形でもあったという幸せなことが画家に訪れていたのを知ることができて

 観る者は拍手する

 画家が作品に向かい続けてくれていたことに観る者は拍手する

 

 拍手は作品に向けられる

 作品は画家と繋がっている

 拍手は画家に

 届くだろう