気がつけばもう10月も終わりではないか。

酷い暑さをなんとかやり過ごしたと思ったら
今では首もとに感じる寒さのせいで
元来の姿勢の悪さがさらに悪化する始末。

つきたくもないため息のひとつでも
ついて出たっておかしくはない。

だいたい、冬は好きじゃないんだ。

憂さ晴らしに酒でも、と思っても
来週火曜の精密検査とやらが気にかかり、
「せっかくずっとお酒を控えてるんだから
今日のところは穏便にひとつ…」
などと訴える情けない自分の心根に
いとも簡単に屈伏してしまう。

そうは言いつつも一昨日は飲んでいた。

その日は飲むと決めていた。
飲む店も飲む相手も昼過ぎには決めていた。

夜7時過ぎに職場を出て、
青山一丁目から大江戸線で新宿へ向かい、
ずいぶん深い地中から喧騒が待つ地上に出て
最近ではずいぶん通い慣れた道を
少しだけ遠回りして歩く。

新宿ゴールデン街三番街。
花園神社側から数えて5軒目左側の二階。

Bar Asylのカウンター奥から二番目が
最近の僕の指定席。
客が増えてくれば
隣の椅子に置いてある鞄を窓の桟に移し、
いちばん奥の椅子へ席を移動するのだが
そんな事態になることは、あまりない。

静かに過ごしたい客にはありがたいことだが
マスターの懐にはあまり優しくないらしい。

その日も指定席に座り
ビールをオーダーするまではいつもと同じ。
違うのはもう一杯ビールを頼んだことだ。

憲ちゃんはずいぶん年が離れた従兄で
物心がついた時にはもう立派な大人だった。

運動ができて、手先が器用。
一人っ子の僕にとっては
自慢の兄貴のような存在だった。

そんな憲ちゃんが自閉症だということを
いつ頃知ったのかはまるで覚えていない。

誰も信じてくれないが、
憲ちゃんは動物と会話出来ていた。
僕らが失ってしまったものを持っていた。

僕は今でもそう思っている。

肝臓ガンで余命一年。
そう告げられてから二十日で
憲ちゃんはこの世を去った。

だから、一昨日は憲ちゃんと
サシで酒を飲むことに決めた。

ビール一杯だけのつもりだったけれど
最後だからバランタインのロックも頼んだ。

バランタインが好きだったかどうかも
僕は知らないというのに。

気がついたら朝の5時を過ぎていた。

僕にはいつもと何も変わらない
今日という日がやってきていた。

店の外は寒かった。

冬が嫌いな理由が、ひとつ増えた。
ただ、それだけだ。