第208話 「ネーミング -(ネーミング)」
(しゃくりあげながら摩耶が口を開いた)
「みんな・・・私のせいでごめんなさい・・・レイコさんのせいじゃない・・・それは私が一番わかってるから・・・生まれた時からずーっと一緒だったから、ちょっと寂しくなっちゃっただけ・・でも私にはクララちゃんがいるから新しいベアは必要ないの・・・ちょっと待っててね・・・」
途切れ途切れではあったが、しっかりと話した摩耶は、慣れた足取りで自分の部屋に向かい、その昔銀座の伊東屋で“宝物入れにする”と宣言して買った猫が描かれた箱を開けると、先日僕が渡したポーランド土産のピンクの猫を取り出し、
「ほらねっ」
と一生懸命笑顔を作り、居間にいる三人に見せた。
大切にしてくれているんだ・・・摩耶が僕との思い出でいっぱいにしたいと言っていた宝物入れに、初めてのプレゼントだった猫を入れてくれていたのかと、胸がいっぱいになった。
「そいつなんでクララってゆーんだ?」
素朴な疑問という感じで桃子さんが訊いた。
「だってポーランドのクラコフから来たって聞いたから・・・」
摩耶がまじめに答えたのが可笑しくて三人が笑った。
「おかしーい?」
「いや、おかしくなんかないよ!クラコフから来たクララちゃん、可愛いよ!」
僕は二度と蹴りを入れられまいと必死に賛同した。
「ほんと、ほんと、すっごい良いネーミングですよ、摩耶さん!」
レイコさんも続けて持ち上げる。
「そっかぁ、なんか安易じゃねえ?大体さー摩耶のつける名前は昔からセンスが今イチなんだよなぁー、あのクマの名前だってさぁ・・・」
地雷を踏んだ桃子さんにすかさずレイコさんの蹴りが飛んだ。
今度は僕も遠慮せず復讐の(というか念願の)一発を食卓の下から見舞わせてもらった。
桃子さんはワルガキがイタズラをして見つかった時のように首を前に突き出し、我々を拝みながらお辞儀のマネをして反省の態度を大げさに示した。
(つづく)