第105話 「ゴカイ -(誤解)」 


「クスリって・・・それは誓ってないです。」

僕は苦笑いしながら居間より遠い台所の桃子さんに向かって答えた。

「そんじゃ年がら年中海外飛び回ってて、脳が時差調節できてねーのか?」

桃子さんはこちらに戻りながらそういうと、「ほらっ!これで暫く頭を冷やしな!」

と僕にアイスノンとタオルとスポーツドリンクを渡してくれた。

「桃子さんすみません。実は前にも一度だけこんなことがあったんですが・・・」


僕は文字通り頭を冷やしながら、チベットでの不思議な体験を思い出していた。チベットといい、今回といい、どちらも妙にリアリティがあり、俄かには夢や幻覚と素直に認められない生々しさが、感触として残っていた。
桃子さんは向かいに座る僕を見ず、左手首に湿布を巻きながら言った。

「君のこと、ちょっと誤解してたみたいだな。摩耶が死のうが生きようが、これっぽっちも心配しないで例の白人女とヨロシク乳繰りあっているもんだとばっかり思ってたからさ。気を失うほど摩耶を案じてくれてたとは知らなかった。」

「・・・すみませんでした・・・あの・・・まさか姉さんは・・・?」


桃子さんは深いため息をつきながら、言葉を選ぶように話始めた。




(つづく)