私のおばあちゃんは、85歳で現役のお茶の先生。


そしていつもサザエさんのフネのような髪型をしていて、着物がパンツルックが日常である。


なぜ日本結いの彼女がパンツルックなのは知らないが、スカート姿は観たことがない。


フォーマルなときは必ず着物。洋服でなければならない場合は、なぜかサイズの合わない伯母に服を借りている。


彼女の一週間は大変いそがしい。どれだけ大変かと言うと、週に二度は高田馬場の茶道会館へお茶を教えに行っている。


朝も早いし、無理をする性格だから75歳位の時に一度やめたほうが良いのでは、という話になったが…やめなかった。




そのほかにも、週に二日は自宅のお茶室にお弟子さんを迎えている。昼と夜と、大体二回だ。


数時間のお稽古の大半は彼女のおしゃべり。


確信のある事実を教えるのならまだしも、時々8割主観や彼女の推測である「事実」をまことしやかに語っていたりする。


やたら確信を持って話す為、それが根拠のある事実だと理解されているお弟子さんもけっこう多かったりする。


語っている本人はそんな事気づいていないので、別に悪気があってでまかせを語っているわけではないのだ。


時に自信がないと語尾に、「と、あたくしはそう思うんでございます。」がついたりする。


でもアクセントは「あたくしは」だから、なんだか説得力は強いままなのだ。




したがってお茶には大変厳しく、おいしいお茶しか飲まない。


そして人に飲ませない。


大量量販店で安い緑茶なんか買おうものなら没収される。


私も見つかって破棄された事が数度ある。


かわりにおいしい緑茶をくれるのだ。




気が強くてなかなか人の言うことを聴かない。


祖父と喧嘩はしょっちゅうである。


「だからわたしはそう言っただろう」、「君はいつも…だからそうなるんだ」などが祖父の口から出てくると危ない。


それに言い返すフレーズも大体決まっている。「あたくしそんな事まったく存じません!」、「そんなことあなたおっしゃらないじゃないですか!」


いえ、いつも祖父は「おっしゃって」おります。


時々逆ギレだったりするんだけど、二人とも年だからあっさり忘れたりする。




週のその他の日も彼女はいそがしい。「行かなければならない」美術展だったり、講演会があったりするのだ。


というわけで、いつも家にいない。


美術や音楽は大好きで、鑑賞にいっては感激して帰ってくる。


しかし、お弟子さんに語る場合とは打って変わってなぜか語彙がとぼしく、大概一時間あまりに及ぶ感想の大半は「すばらしかったのよ、あなた」である。




85歳の今も非常に勉強熱心で、NHKのドキュメンタリーを良く見てその内容を良く覚えているのだ。


年寄りなのに何故か宵っ張りで、たいてい12時頃まで起きているので、世界不思議発見やNHKのドキュメンタリーは大体制覇している。


特にお好みのジャンルは古今東西の古代文明である。この辺に私は血のつながりを感じる。


そういえばよく、「古今東西」という言葉を使う人だ。




ここまで書くとかなり激しい性格のようであるが、これで結構抜けたところもあって、割と面白いことをしたり面白いことを言ったりする。


要するに天然なのだ。


思い返すとキリがないが、本人には全く自覚が無いのだ。




たとえば昨日は母の勤める老人ホームのグループ(というか修道院だけど)が全部あつまるクリスマスコンサートだった。


音楽的には正直レベルが高い集まりではないが、各施設からみんな集まって2~3曲ずつ披露するわけで、祖母は何故かそれが好き。


最初と最後は配られた楽譜を見てみんなで歌を歌うのだが、彼女はフルコーラスで参加(=主旋律を歌うつもりが何故かハモってしまったりする)。


この会の趣旨はチャリティーなのだが、会場が一緒に歌うタイプの回ではない。けれど彼女は歌う。歌いたいから。


別にキリスト教でもない彼女が賛美歌の「いつくしみふかき」を1番から3番まで全部暗記していたのには恐れ入った。


二番はオーボエとトランペットの重奏だったが、祖母は「タ~ラララララ~ラ~」と参加していた。(前の席の方、すみません)


音楽的感性もさることながら、観察眼もとぎすまされている。


「あの指揮者の方の後姿がすてきだった」。へぇ~と思っていると、別のグループとしてその方が歌っているときにはきちんと当てていた。お見事。


修道女会が出てきたときには何故か「かつての乙女達…」。コメントできない私。


そして「今年で終わり、もう来年からはやらない」と何度も説明しているのにも関わらず、帰り際には「あたくし、命ある限り来年も伺わせて頂きます!」と言っていた。本人も来年はコンサートがないと理解していたのに、謎の発言である。


愛すべき人。




そんな彼女と、今晩も会食です。