私の記憶障害は生まれつきのもので、

安定してよくない状態だったが、

ある時急激に悪化したときがある。

35歳の時の話だ。

 

コンロの火をつけっぱなしにしたり、

家の鍵をかけるのを忘れたりと、

我ながらほんとうにひどい状態だった。

 

引っ越しをし、仕事をやめ家庭に入ったあとのことで、

今思うと環境の変化に脳がついていってなかったためだろうと思うのだが、

その時の私は、もしかしたらついに若年性認知症なのではないかと不安になり、

長年考えていたこと、

脳神経科の受診をついに決行した。

 

病院では、頭部のCTスキャンと知能検査をしてもらった。

(CTスキャンの映像は、眼球の輪切りが写っていてなかなかグロかった!)

 

きっと先生もびっくりな、極小の海馬が写っているんだろうと予想していたのだが、

先生曰く、

「特になんの問題もありません」。

大きさも正常で、なんの異常も見られないとのこと。

 

知能検査は、

記憶力が他の能力と比べて低く、

能力に乖離があると言えなくもない、という所見だった。

とは言え、平均よりちょっと低い程度で、

私にとってはとても納得いかない結果だった。

 

先生は不満げな私に、

「そういったうっかりミスをするのは、前頭葉の働きが悪い場合に起こり、

記憶障害とは異なりますね」

と説明を加えた。

(前頭葉の働きが悪い・・・つまりそれが発達障害の原因なのだが、

このとき先生はそうとは言わなかった。

まだ発達障害がそれほど知られていなかった頃なので、仕方ないことなのかもしれない。)

 

私が、

「でも、昨日のことや昔のことが思い出せなかったりもするんです」

と食い下がると、

「そういった長期記憶を測る検査はないので、こちらでは分かりません」

と返された。

 

なんにしろ、持って生まれた記憶力を治療で改善することはできないのだろう。

それは、知能指数を上げる方法がないのと同じと言えるだろう。

 

認知症でないのが分かったのはよかったが、

記憶力に関して打つ手はなさそうだということに

世の中に見放されたような、ひどく悲しい気持ちを覚えたのだった。

 

私は一生変わらず、記憶障害者(しかも非公式)なのだ。