特別支援学校の児童生徒数が増加傾向にあり、その背景には、いわゆる「グレーゾーン」と呼ばれる、発達障害の傾向はあるものの診断名がついていない、あるいは軽度と診断されているお子さんの保護者からのニーズの高まりがあると言われています。
これは、以下のような複合的な要因によって生じていると考えられます。
五歳児検診の未実施:本来発達障害の診断がつくはずの子が知的障害と診断され、特別支援学校に入学する。
発達障害への社会的な認知度の向上: 発達障害に関する情報が増え、保護者の方がお子さんの特性に気づきやすくなりました。以前は見過ごされていた特性が、適切な支援が必要なものとして認識されるようになった側面があります。
通常学級での課題: 通常学級における集団生活や学習において、配慮が必要な特性を持つお子さんが増える一方で、担任の先生の多忙化や専門知識・支援体制の不足から、十分な支援が行き届かないケースがあります。
特別支援学校への期待:
少人数教育への魅力: 特別支援学校は、通常の学級よりも少人数のクラス編成が基本であるため、一人ひとりにきめ細やかな指導が行き届くというイメージが、保護者にとって魅力的に映ります。
落ち着いた環境: 集団での刺激が少なく、落ち着いて学習に取り組める環境を求める保護者もいます。
「少人数教育ができなくなっている」という課題
このような特別支援学校へのニーズの高まりと児童生徒数の増加は、皮肉にも特別支援学校が本来目指す少人数教育や個に応じたきめ細やかな支援が難しくなるという新たな課題を生み出しています。
具体的には、以下のような問題が指摘されています。
教室不足、過密化: 在籍児童生徒数の増加に施設整備が追いつかず、教室の数が足りなくなったり、既存の教室が過密状態になったりするケースが見られます。プレハブ校舎での授業を余儀なくされている学校もあります。
適切な年齢での知的課題の把握の不足、小学部1年生、2年生で、知的発達が標準の能力を持つことが認められ、発達障害のadhdである認定がされている場合、知的特別支援学校での学習スタイルでは退屈してしまう。本来の知的能力を発揮する機会を先延ばしになってしまう。
教員の負担増: 児童生徒数の増加に対して教員の増員が追いつかず、一人あたりの教員が担当する児童生徒数が増え、個別のきめ細やかな指導が難しいという課題があります。
「個別最適化」の困難化: 少人数であることが前提の個別最適化された教育計画の策定や実行が、児童生徒数の増加によって困難になる場合があります。
校舎内外での児童移動時の、安全確保等のための整列、集団化の必要性。
登校時の送迎人数の増加による、学校玄関の混雑に対する個人的配慮の限界、静かな待機場所の不足。
下校時の個別的受け取りによる、多くの送迎車の誘導対策の必要性と、混雑に対する駐車場での安全確保のための人員増加。
重度・重複障害児への影響: 「グレーゾーン」のお子さんが増えることで、より重度な障害を持つお子さんへの支援が相対的に手薄になるのではないかという懸念の声も聞かれます。
今後の展望
こうした状況を受け、文部科学省をはじめとする関係機関は、特別支援教育の質の維持・向上に向けて様々な取り組みを進めています。
通常学級における特別支援教育の充実(合理的配慮の提供、通級による指導の拡充など)
インクルーシブ教育システムの推進
「グレーゾーン」のお子さんを含む、支援を必要とするすべての子どもたちが、それぞれの特性に応じた適切な教育を受けられる環境をどのように整備していくか、社会全体で考えていく必要がある重要です。
大分県立中央支援学校
特別支援教育コーディネーター
渡辺信一郎
