https://ja.m.wikipedia.org/wiki/伝統
本来は「伝統」ではないものが「伝統」として広まることもあり、これらは「創られた伝統」、「伝統の発明」、「伝統の捏造」等と呼ばれる[3][4][5]。エリック・ホブズボウムとテレンス・レンジャーの1983年の編著『創られた伝統』により、この概念は広く知られるようになった。伝統とするのはおかしい例として以下のような指摘が挙げられることがある。
- 国内の例
- 夫婦同姓は日本の「伝統」とはいえない[3][5]。夫婦同姓が規定されたのは国民皆姓制度ができてよりもかなり後の明治後半の1898年(明治31年)である。
「夫婦別姓」も参照
- 「江戸しぐさ」は江戸時代からの「伝統」ではない[3]。江戸しぐさは1980年代に創作された、と指摘されている。
「江戸しぐさ」も参照
- 初詣は日本の伝統ではない[6]。初詣は明治中期に成立した新しい行事である。
- 「武士道」は江戸時代からの武士の「伝統」ではない[5]。「武士道」という言葉は1900年以前のいかなる辞書にも載っていない[5][7]。
- 万葉集は、伝統的に評価が高かったわけではなく、明治期に、庶民から天皇までの歌が収められているために、「日本」という統一国家観の形成のために価値が創りだされた、と品田悦一は指摘している[8]。
- 三輪隆裕(清州山王宮仁神社宮司、日中文化芸術専門学校教授[9])は、天皇のために死んだとされる人々だけを祀っている靖国神社は伝統などではない、としている[10]。多神教である神道では、敵と味方を峻別することはしない、とする[10]。
- 日本の元号は中国の制度をまねたもので、日本の伝統とはいえない[11]。
- ゴミが少ないのは昔からの日本の「伝統」ではない[3]。現在の日本においてゴミが少ないのは、戦後のさまざまな取り組みによるもので「伝統」ではない、という指摘がある。
- 海外の例
- タータンチェック・スカートはスコットランドの「伝統」ではない[4]。もともと、タータンチェックは17世紀後半頃、スコットランドの高地に住む人々が「伝統」として始めたものだった、との指摘がある。
- ケルト音楽として、古代アイルランド、古代スコットランド地方の伝統音楽が一ジャンルとして日本では定着しているが、ケルト音楽というものは、ヨーロッパに存在しない。そもそも古代アイルランド、古代スコットランドの伝統音楽は何十種類もあり、ケルト音楽はその中で日本人好みの曲を日本の音楽会社が選択して売り出しているにすぎない。
- ヨーガと言えば独特のポーズ(アーサナ)をとる練習風景を連想するが、このポーズ練習を中心に据えたヨーガは、インド古来の「伝統」ではない。19世紀後半から20世紀前半に西洋で発達した西洋式体操が、近代インドに輸入されてできあがったものである[12][13]。現在日本で行われている「ヨーガ教室」等の大半はこの流派に入る。
脚注編集
- ^ 日本国語大辞典、小学館、2005年。
- ^ 広辞苑、第六版、岩波書店、2008年。
- ^ a b c d 「それホンモノ? 『良き伝統』の正体」、毎日新聞、2016年1月25日
- ^ a b エリック・ボブズボウム、テレンス・レンジャー(編)、『創られた伝統』紀伊國屋書店、1983年。
- ^ a b c d 「創られちゃう伝統――「夫婦別姓」最高裁判決を受けて生じる無邪気な言説」、Yahoo News、2015年12月18日
- ^ 平山昇『鉄道が変えた社寺参詣 · 初詣は鉄道とともに生まれ育った』交通新聞社新書
- ^ Michele M. Mason “Empowering the Would-be Warrior: Bushido and the Gendered Bodies of the Japanese Nation”
- ^ 品田悦一、「萬葉集の発明」、新曜社、2001年。
- ^ 日中文化芸術専門学校 理事長挨拶・理念・教職人員 2016年7月7日閲覧
- ^ a b 成澤宗男「明治時代の天皇崇拝は神道の長い歴史では特殊」、『週刊金曜日』第1089巻、金曜日、2016年5月27日、 20-21頁。
- ^ 成澤宗雄、「日本会議と神社本庁」、金曜日、40ページ。
- ^ マーク・シングルトン 『ヨガ・ボディ - ポーズ練習の起源』 喜多千草訳、大隅書店、2014年。ISBN 978-4-905328-06-3。
- ^ 伊藤雅之「現代ヨーガの系譜 : スピリチュアリティ文化との融合に着目して」、『宗教研究』84(4)、日本宗教学会、2011年3月30日、 417-418頁、 NAID 110008514008。