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現在第三期が好評放送中のM Fゴースト。シーズンが進むにつれ、キャラクター間の物語の深掘りもなされ、さらにはかつての頭文字Dの登場人物も多数登場するというファンサービスもあり、一度見初めて仕舞えば止めることができないほとです。
次に回を進めるときの、どうしても続きが気になる、と思わせる展開運びはまさに圧巻だと常々思います。
しかし私は同アニメの第一期が放送開始された頃は、正直、あまり肯定的な評価はできませんでした。
・ユーロビートの衰退
もともとユーロビートは頭文字Dの第一期が放送されていた時期に人気絶頂を迎えた音楽ジャンルでした。当時のギャルや若者はパラパラはほぼ必修科目であり、安室奈美恵やV6など名だたるアーティストが外国産ユーロのカバーをしていたことからも、その人気の片鱗が見えるはずです。
その人気をさらに高めたのが、木村拓哉がある番組内にてNight of fireのパラパラを披露したことでした。同楽曲は頭文字Dの挿入歌としても使用されており(あまり大仰な場面ではありませんが…)、多くの人が知ることとなりました。
しかし2000年代を過ぎると、パラパラブームは徐々に衰退してゆき、楽曲の制作ペースも落ち込んでゆきます。端的に言えば大衆が飽きてしまったのです。それに合わせて、楽曲のビートの刻み方もガラリと変わり、90年代のような名曲ラッシュはなくなりました。
その、変わってしまったあとのユーロビート、全盛期を超えてしまった楽曲たちをMFゴーストは挿入歌として使用してきました。
「せっかくなら90年代のユーロ使ってよ…」と思ってしまった感は否めません。
・頭文字D初期とは違う、新劇場版寄りのカーグラフィック
原作の漫画表現に忠実なこの再現はありだとは思います。ただ、しっかりCGで車一台一台を実車と見間違えるほどに作り込んでいた、初期の頭文字D(1から3期、うち一つは劇場版)で目が肥えている私にしてみれば、少し物足りない気もしていました。レースシーンに目を通しても、どうしても頭文字Dの記念すべき第一話「究極のとうふ屋ドリフト」を目にした時の迫力と、ユーロビート楽曲との一体感と比べてしまうと見劣りする感覚がありました。
しかしこの二つの心配は、第二期まで見たところで杞憂に変わりました。
何より話の組み立て方が良過ぎるのです。「絶対に一目惚れなんかしない」という、ヒロインである恋が、居候しにやってきたカナタに一目惚れするある種ベタな展開で始まり、カナタはなにか複雑な家庭環境を抱えているようで…と、いきなり走り屋アニメらしからぬ、パワポケ風の話しが展開されます。
カナタはとある目的のために、レースに参戦し、ルーキーながらも経験豊富な他のライバルを蹴散らして行きます。その姿は前主人公の藤原拓海そのもの。あえて戦闘能力の低いマシンで、通常なら太刀打ちできない相手を打ちのめしていく。
これはたしかに頭文字Dの因子が受け継がれていると感じました。
そして頭文字Dと比べ大きく変わった点が一つ。
それは初期から登場するヒロインが普通の可愛い少女だと言うことです。前作のヒロインであるなつきは、正直ヒロインと呼んでいいのかわからないほどひどいことをしでかしましたが、今作の恋にはそんなしがらみは一切ありません。
レースを支える存在であるレースクイーンとしての一面も兼ね備えているその二面性はかなり魅力的だと思います。通常時とレースクイーン時の格好のギャップは必見ですね。
その二面性が物語でちょっとした波乱を呼ぶのもナイスな案でした。
レースが進むにつれ、カナタの実力は広く認められてゆき、やがて大会王者であるミハイル・ベッケンバウアーにライバル視されるようになります。絶対王者として心を動かさなかった彼が、少しずつ熱くなっていく様は王道ながら、見るものまで熱くさせてくれます。
そしてカナタと恋の恋仲も進展してゆき、ついにはお互いの好意を自覚して…
さらにそんな折にカナタの彼女だったと名乗るライバルも出現して…
ネタバレ防止のためにかなりぼかして書きましたが、これだけでもかなり濃い内容の物語だとわかると思います。
というかこれ、ほとんど恋愛漫画ですね。しかもそれがレース場面とバランスが取れているのがなんとも美しい。
レース場面も迫力がないなんて思っていたらとんでもありませんでした。何十台と絡む緊迫したレース展開をドローンと実況、過去作の登場キャラクター用の席である解説者でものの見事に再現しています。いや、再現どころかファンタジーかもしれませんが、終始、夢のあるレース展開を堪能させてくれます。
第三期ではついに車が空を飛ぶ時代が来るようですし。
この頃の走り屋アニメはある問題を抱えていました。それはアングラな世界であるがゆえに、大っぴらに作品化することはあまりよろしくなく、車好きに受ける作品にするために、登場キャラクターなどもアングラ寄りになるケースが少しだけ見受けられました。
一番のアングラは頭文字Dの茂木なつきですね。ヒロインがまさかの〇〇活少女だとは…
また湾岸ミッドナイトでは「非合法の世界」であるストリートで走ることへの渇望、純粋さとと狂った様を描写する場面もありました。非合法の世界でなきゃ生きていけない、そんなニュアンスのセリフを口にしたキャラクターまでいます(作品としては非常に理にかなったセリフではありますし私も好きなセリフの一つですが、何せ一般常識に照らし合わせるとかなりグレーゾーンになってしまいますね…)。
どちらも誌上で連載は続行されてきましたが、警察の取り締まりが厳しくなるにつれ、アニメ化も二の足を踏んで行くようになりました。やがて地上波では放送されなくなり、有料放送でのみの配信になってしまったことからもその背景は明白です。
しかしMFゴーストはその壁を一気にぶち破り、走り屋アニメを正当なバトルアクションアニメに進化させることに成功しました。
法的にグレーゾーンであることを除けば、もともと頭文字Dも少年漫画のバトルアクション漫画と遜色ない爽快さと面白さがあります。その法的な問題を、公道レースを「作品内で」合法化することによって、再び一般放送を可能にしたのです。
富士山が大噴火しゴーストタウンと化した街を、レースコースとして整備し、そこでレース大会を開催するというアイデアには度肝を抜かれました。ロケーションも小田原、真鶴や熱海など、都民でも旅行先として馴染みのある選定がなされ、そのご当地ごとの背景の再現度も非常に高く、聖地巡りをするファンが増えること間違いなしの作り込みには驚かされます。
小田原駅では大々的にコラボレーションを開催し、駅構内がカナタの86の暖簾で埋まると言う力の入れよう。
そしてM Fゴーストはユーロビート界の救世主となりうるかもしれません。
第二期にて、過去作、それも頭文字D全盛期だったサードステージの挿入歌である、「speed lover」を再び起用したのです。もともとが、藤原拓海を唯一敗北させた須藤京一という男と拓海とのリベンジ戦で使われたためにインパクト大でした。同曲が使用された回の放送日に、speed loverが Xにてトレンド入りするほどの反響を呼びました。
世間ではユーロビートは化石だと揶揄する声もあります。実際に、国外へ出てみると、ユーロビートを好んで聞いている国は日本ぐらいのものだという話もあります。しかし、こういったかつての名曲が世代を超えて伝わりるというのはなんとも感慨深いですね。
ただの化石だと思っていた古いコンテンツが、このアニメの出現によって、新たな価値を創造していく。これはとても浪漫がある素晴らしいことだと、個人的には思います。
これはちなみに他の今期アニメでも実践されています。毎話ごとにどんでん返しのラストを孕む破天荒なスタイルで話題を呼んだ「鎧真伝サムライトルーパー」です。これもまた、前作「鎧伝サムライトルーパー」にて人気を誇った主題歌である「サムライハート」を挿入歌として早くも5話で起用し、こちらも当然Xでのトレンド入りを果たしました。
話は若干それましたが、ユーロビートも歌も、少し前の世代に目を向けてみるとはっきり言って名曲の宝庫です。文化は巡るもので、ルーズソックスが若者の間で流行ってきているように、昭和、平成歌謡が、若者たちのトレンドになるときが来るのかもしれません。
このように、新しい「恋愛×走り屋アニメ」と、「新旧含めた名ユーロビートの起用」という、新しさと古さを共存させた頭文字Dの続編、MFゴーストは大変魅力に満ちた作品です。
車好き、頭文字D好きの人には往年の作品なりの楽しさが、それらに興味のなかった人でもヒューマンドラマとモータースポーツとしてのレースが楽しめる本作。
ただの走り屋アニメだと思わず、ぜひ一度、手を出してみてはいかがでしょうか?