やまぎです。

今回は六田登先生の「ICHIGO」という作品の感想を、自分の思ったままに語ってまいります。






まず、私が最初にこの「ICHIGO」に出会ったのは2017年の秋頃でした。

スマホデビューしたての私は、兄に勧められるままにインストールしたLINEマンガで、期間無料キャンペーン中の気になった漫画を片っ端から読み漁っておりました。

その中で特に心に強く刻まれたのがこの「ICHIGO」という作品です。


簡単にあらすじを紹介させて頂きますね。


戦後まもない頃、梅川建設の二代目に待望の男児が誕生しました。
この男の子が主人公の「一期(いちご)」です。一期は父を始め、周りの大人達に「これからの日本を発展させていく希望になる」と期待されます。
しかし生まれて間もなく、一期は大病に冒され、命のためにやむを得ず、片方の肺を摘出されます。それ以降、一期の胸には誰が見てもゾッとするような手術跡が残りました。
一期の父は、周りの人間からの「片肺でひ弱な一期に梅川建設を背負わせるなど酷だ」という声や、梅川建設の先代である自分の父の「出来損ないには任せられん、元気な2人目を早く作れ」という圧もあり、一期を山奥のじい様とばあ様に預けます。
一期はじい様に教わった空手のお陰で頑丈な身体になりました。
もう普通の子と変わらず元気な身体なのに、父や母は迎えに来てくれませんでした。
その頃父と母には既に2人目の子供、利行が生まれていたのです。
父は先代からの圧や 梅川建設の今後の事で、一期を養子に出そうかとも考えていました。
しかしその頃、幼い一期はなんと車で3時間もかかる道を一人で歩き、父と母のいる家に帰ったのです。
それを境に、一期は父と母と先代、そして利行のいる家で暮らすことになります。
梅川建設、手術跡、弟と自分を比較する先代、先代に贔屓される弟の利行…
一期は幼い頃から多くの事に苦悩させられ、徐々に人として歪んでいきます。

「ICHIGO」は、そんな一期の一生を描いた作品です。

全10巻で綺麗に完結している作品ですので、一度ぜひ読んでみてください。
「これを最後まで読まぬまま 突然ポックリ逝ってしまったら、とても成仏できない」作品です。

私は試し読みで3巻まで読み、「これはちゃんと最後まで読まなければいけない」と思い、今回やっと全巻セットで購入致しました(*^^*)

やはり名作ですね。手元に揃えられて幸せです!


【注】ここからは壮大なネタバレを含みます


勢い任せの拙い文章になりますが、自分なりに語りたい部分を語ってまいりますm(_ _)m





【一期が人を殺し続ける理由】

これについては、一期本人がほとんど語っていると思うのですが…自分なりの解釈です。
一期は小学生の時に文也を殺害して以降、死ぬまでずっと殺人欲求に駆られていました。
一期は手術跡ができてからずっと、周りの人間にひたすら踏みつけられる存在で、いつも1人でビクビクしていました。しかし文也を殺害してからは、一人になっても以前のようにビクビクする事はなくなりました。
むしろチャラついた青年に成長していきましたね!高校では悪友も複数いました。
それは 自信がついたから、とも言えますが、
言い換えれば「力で周りをねじ伏せることで自分の存在が許される」と学習したと言えるのではないでしょうか。

とある映画で、「奴は今 自分の強さを探っている」「食物連鎖のピラミッドの、自分の位置を知るために 無意味な殺戮を続けている」という台詞がありました。
一期もそうなのではないかと思うのです。
力で抑圧されてきた一期は、皮肉な事に 他者を殺すことで「自分は上だ」「自分は生きている」と感じなければ生きていけない人間になってしまったのです。
それが自分の存在を確かめる唯一の方法で、それを続けなければ自我を見失い、自傷行為や中毒症状に陥るのです。

病気さえなければ、一期はあんなに歪まずに済んだのでしょうか。
いや、梅川建設の跡継ぎという、生まれた時から背負わされる十字架により、殺人鬼とまではいかずとも 多少歪みはしたでしょう。
そして、歪んだ一期の存在があったからこそ、利行は梅川建設にとって理想の跡継ぎに成長したのだと思います。
その最期を思うとなんとも言えない気持ちになりますが…


【一期の父について】
私、初めてICHIGOを読んだ時は この父(以下:源)は 梅川建設の事で頭が一杯の冷血漢だと思っていたんです。
記憶が曖昧なのと、当時の私には話が難しかったのと、スマホの小さい画面で読んだからでしょうか…(^-^;
ちゃんと単行本買い揃えて本当に良かった笑

さて、話は戻りますが この源さん、冷血漢だなんてとんでもないです!
最初から最後まで一期想いの父親でした。
ですが、最初から最後まで一期にその想いが伝わる事はありませんでしたね。
その代わりに利行には伝わっていたのが本当に辛い。
この家族描写があまりにもリアルで生々しい。
この各々の心理状態の表現に、私は見事ズブズブとのめり込んでいったのです…

源さんは戦争経験者でもあり、過去の凄惨な体験をした回想シーンも見られます。
その経験から、「戦前のような日本を二度と繰り返してはいけない」「新しい時代をつくる」という気持ちが人一倍強く、暴力的なヤクザとの関わりも嫌います。
戦争経験者という壮絶な体験があるからこそ、例えひ弱であろうと殺人鬼であろうと、一期が大切な息子である事は依然変わらなかったのでしょう。
先代は戦時中の経営者であったため、ああいった冷酷な事も言ってのけられたのでしょう。
一期の事は 可愛い孫ではなく、梅川建設の跡継ぎとしか見ていなかったのです。
だから源さんに早く2人目を作るように急かし、梅川建設の足枷になる一期を邪険にしていたのです。
しかし先代も、時代背景や環境によってそういう人間になってしまったのですから、恨みようもないですね…
源さんは梅川建設と息子の可愛さに板挟みにされ、作中一不憫な人物だと思います。

源さんの最期は、ただ息子を想う父親でしたね。結局は自分を通し一期を見ていた源さんに、利行も幻滅したのでしょう。





【利行について】

一期の気持ちは、この漫画の主人公が一期だったからこそ理解出来たのですが…
個人的に一番気持ちが分かるのが利行なんです。

自分語りになりますが、私は末っ子で、6つ上の兄がいます。
親というのは、一番上の子が初めての子供ですから、上の子に対してどうしても「ああ、こう教育すれば良かった」と後悔してしまう事があるんです。
なので次に生まれた子供には、「お兄ちゃんみたいに○○しちゃだめよ」と教えがちです。
そんな事言われたら当然上の子は拗ね、余計ひねくれ歪んでいきますし、それを見た親の表情を見た下の子は、上の子の分まで親の機嫌を取ろうと頑張りますよね。
同時に、自然と上の子を反面教師にしてしまうんです。

「どうすれば親の機嫌を取れるか?」

上の子下の子に限らず、両親が不仲だったり いつも親が不機嫌だったりすると、子供はそればかり考え、日々気を遣うようになります。
そしてその場合、10代の頃に反抗期が来ないことがかなり多いです。
かくいう自分もそうでした。
これもまた自分語りになりますが、私の両親は本当に不仲で、リビングに一緒にいる時の空気といったらもう最悪で、いつも私が2人の会話の伝書鳩をやっておりました。
家に帰るなり母の夕飯を食べず自室へこもる父、常に眉間に皺を寄せ、物に当たり散らす母、母と顔を合わせる度大喧嘩する兄
家にいるより1人でマックにいる方がよほど気が楽でしたが、「自分がいないと家族が崩壊する」
という謎の責任を感じ、勝手に自称「家族の柱」をやっておりました(^-^;
ある程度大人になってからやーっと反抗期が来て、思い思いにぶちまけた結果、
「別に つなぎ止めてくれなんて頼んでない。勝手に気を遣ってただけでしょ」の一言で終わりました笑
勝手に末っ子が家族の機嫌を取っていただけだったのです。
この18年間の全ては一人相撲だったのです。


これ、人によっては「バカみたい!」と感じるだろうし、人によっては「分かる!分かりすぎる!」と感じるだろうと思います。
家族って本当に難しいです。
結局は他人ですから、気持ちなんて分かり合えるはずないんです。
でも、たとえ分かり合えなくても、ちゃんとぶつかり合えるのが家族なんだと思うんです。
今思えばですけれども。



大人になってからの反抗期は本当に悲惨です。
20歳を過ぎてから親のせいにすると、「いい歳して親のせいにして」と白い目で見られて終わりです。
いたいけで自立のできない子供時代に感情をぶちまけられていれば、たとえ理解してもらえずとも 助けになってくれる大人は絶対いたはずです。
大人になってからは助けて貰えないんです。
皆頑張ってるんだぞ、もっと辛い人もいるんだぞ、の圧力に潰されます。


10代のうちに反抗できていれば、利行もあんな最期にならなかっただろうに…
最終巻を読んで、本当になんとも言えない気持ちでいっぱいでした。
どうしてこんな事に…皆、皆…



【岩井さんについて】

一期が高校時代に出会った武闘派ヤクザ、岩井判治についてです。
…判治という名前の響きが好きです。笑
一期に本当に色々な事を教え、新世界へ導きましたね。
しかし実際、岩井さんが一期をヤクザな道へ誘わなかったら 一期はどうなっていたのか…?
岩井さんは一期に合った生き方を指し示した重要人物です。

個人的に、一番ショックな最期でした。
一期の欲求発散のために教えてやった拳銃で殺されてしまうとは、なんとも皮肉な最期です。
しかもその後はコンクリに埋められ、事務所の家具になってしまいますからね…
しかし死に際でも冷静に一期に語りかけるのは流石、長年武闘派ヤクザやってただけの事はあります。只者じゃない。
あんな最期になってしまうとは思いませんでしたが、破滅に走る一期を更に加速させた大場面でしたね。
生々しく、人間くさくて良い最期でした。




個人的に、一期と一緒にジェットコースターや観覧車に乗るコマがシュールで好きです笑  
 絵面だけ見るとお腹がよじれます(*´・ω・`)(コナンの第1話のジンとウォッカかよ!)
その後、密室空間で一期と二人だけだと思うと背筋が凍りますが…


…最後の2巻辺りは、毎話必ずと言っていいほど人が死んでいきますから、次は誰が死ぬんだとビクビクきながら読んでおりました。
岩井さんを殺した後の一期は、全く予測できない行動を起こすのが本当に恐ろしかった。
…猫の家族も、撃ち殺そうとしていたんですよね?
あれはもう、殺す意味など無く見境なしにとにかく殺したくて仕方ない、ドロドロを味わいたい、殺し中毒に陥っている証拠ですよね。





【久保さんについて】

実は、ICHIGOで一番好きなのが久保さんなんです。笑  (2番目は種夫さんか岩井さんか武村さん…ハッ…!選べない…)

初登場時は理屈屋の怠け者で、現場仲間からは迷惑がられていましたね。
でも分かるなあ。
本読みすぎると、どうしても頭でっかちになって行動しなくなるんですよね。
口先だけが達者になるんです
ただ偉そうに正論を語り、自分の事は棚にあげる
いや、その気持ち分かりますよ久保さん!こういう人、いるいる。自分がそうだもの!笑
でも初登場時は正直イラついたなあ…逆恨みで仲間を刺殺してしまうのも…
そこが人間くさくて良いんですけどね。
そしてまさかのヤクザ入り。更になんと岩井事務所の管理を任されます。
あまりに突然で不安だったろうに、でもしっかりこなしていました。さすがインテリ!

…一期のモモ食べてからの久保さん、なんだかとても可愛く見えましてね…
あれ以来ずーっと「一期さん一期さん」って。
拾われた子犬かい!大体それで合ってるけども。
最後はどんでん返しで一期を裏切ったりするのかと疑っていましたが、そんな事は全くなかったですね。
寧ろ、ずーっと一期と一緒に都を作りたがっていました。殺戮を繰り返し 周りから恐れられていた一期に、一人になっても最後までついて行きました。
また一期も久保さんの怪我を心配していましたし、殺そうとする素振りもありませんでした。それなりに信頼してたんでしょうね。
下水道で息絶えだえの中、久保さんの幻を見るほどです。
…幻ではなく、本当に久保さんが最期の挨拶に来たのかもしれませんが…
(源さんも死に際に、左手がもげた虫の息の一期の姿を浮かべていました。見えるはずもないのに、源さんにははっきり見えたのですね。息子を想う父親に他なりません。)
ここは人によって解釈が分かれそうです。


その信頼関係の間には、非常に長い付き合いという事は勿論ですが、久保さんの生い立ち暴露が大きく関わっていると思います。
最終巻で まさかの久保さんのお父さんが登場、これには大変驚きました。
…お父さん、ダイナマイトの存在には気づいていたんでしょうね。
自分も息子になんと言えば良いか分からず、あの姿勢を貫いていたのではないかと思います。
ダイナマイトが爆破するのを覚悟の上で、息子の気持ちを受け止めたのでしょう。
家族って本当に難しいです。
お互いため、相手のためと思って自分を悪人に仕立てあげようと奮闘するのですから

久保さんがあそこまで重要人物になるとは予測できませんでしたが、ここまで好きなキャラになるのも予想外でした笑
死んでしまって一番悲しかった。虚しかったです




【武村さんについて】
作中一かっこいい人物ではないでしょうか。
刑事としてではなく、1人の大人として 一期という少年に語りかけていました。
「人間という生き物は、人間社会の中で生きて初めて人間だ」
名言です。
私は今まで、「何故人を殺してはいけないの?」という究極の質問の回答が分かりませんでした。
むしろ、「殺したければ勝手に殺せば良い」派の思想でした。笑
思想も生き様も感じ方も人それぞれですから、殺意を抱くのは仕方ありません。
殺される側はたまったものではありませんが。

しかしICHIGOという作品から、この答えを学ばせていただきました。
一度人を殺してしまったら…一度一線を越えてしまったら、二度と戻ってこれないんです。
一度 力で黙らせる事を知ってしまうと、だんだん躊躇いなく実行するようになってしまう。
感覚が麻痺してしまうんです。
そして人間社会では 殺人=外道を意味します。
人間としての死です。一度死んだら人は二度と蘇りません

一期のような若者を沢山見てきた武村さんだからこそ、辿り着く事のできた真理なのではないでしょうか。

そして先程、「武村さんは刑事としてではなく、1人の大人として 一期という少年に語りかけた」と書きましたが、
それに対して 武村さんの部下、川田は 刑事としてではなく、一人の人間として殺人鬼に向き合い、気がつけば自分も危険な思想に取り憑かれていたように見えます。
自分の手で一期を殺す、一期を殺した後は美里を犯す、などと発言しました。
刑事の、というか正常な人間が言う台詞ではありませんよね。
「大勢の罪のない人と先輩を殺した殺人鬼を捕まえる」という正義感に酔狂し、一期を捕まえるためなら手段を選ばなくなり…
最後は一期とほとんど変わらぬ狂人のようでした。
登場人物全員が狂い果てていくのは見るのも辛い。しかしページを捲る手は止まりません。




ICHIGOは今後も読み返したいと思える作品ですので、また今度 ちゃんと整理して感想考察を書かせて頂くかと思います。
全巻読破した勢いで綴った拙い文章でしたが、最後まで読んでくださりありがとうございます。