2011年(平成23年)10月の上演は、見ていないので(七世芝翫丈が亡くなられた月だった…)今回が初めて。


4時間以上かかる作品を2時間半にコンパクトにまとめ、ストーリーもしっかり伝わりながら、見せ場も各所にあって、シンプルに面白かった❗楽しかった❗沢山笑えて幸せと思える芝居でした。


こんな風にコンパクトに楽しむ歌舞伎から入ったら、以前のような二部制で通し狂言を見ることに耐えられるかしら…などといらぬことを考えたりしました。(笑)


澤瀉屋らしい第一幕目。照手姫を逃がす横山太郎妻浅香に梅花、何だか久しぶり。その後、小栗判官(猿之助)がやって来て、曲馬の件。暴れ馬を二人で中に入って演じるその技術に感心、あちこち気持ちよく襖を破って、判官が上手に抑え込みまたがって、最後は碁盤の上で棹立ち。ワイヤーの仕掛けに納得。


第二幕が「浪七住家の場」

胴八(男女蔵)の月代が何かメタリックでまずびっくり。そして何と言っても巳之助の橋蔵に大爆笑。胴八が橋蔵をニセ代官に仕立て、浪七が匿っているらしい照手姫を何とか連れ去ろうとする件のトンチンカンなやり取りや楽屋ネタの面白さ。納涼歌舞伎でお父さんの三津五郎にもずいぶん笑わせてもらったけれど、また微妙に違う面白さ。最後には、すっきり白塗りの横山太郎で切り口上に並んで、こっちは確かに「イイ役」でした。


でも猿之助の何と言っても浪七。胴八たちのチャリ場をだま~って受け流がしてるのも良かったし、かってのお主のために、照手姫を守り命がけで海に漕ぎ出した小舟から姫を助け、切腹しての逆さ吊りの壮絶な最期の姿まで、判官に劣らず見ごたえがあったかな。あの岩の上からまっ逆さまに滑って行くあの仕掛けもびっくりでした。


照手姫は笑也。床下に匿われていて、畳を上げると、赤姫姿の照手が簡素な住まいに現れるビジュアルの面白さは、ちょっと南北みたい。大膳の陰謀で流浪の身となる照手なのですが、クールで悲壮感よりも芯の強さを感じさせたのが良かったかな。笑也、門之助の浪七女房お藤、笑三郎の後家お槙とともに、今や澤瀉屋を支える女形でそれぞれに存在感があります。


照手姫は、小舟で逃れるも人買の手に落ちて、今度はかっての乳母お槙の家の下女となり、その娘お駒(右近)と、流転の身となってる小栗(猿之助)の三角関係に。下女が実は照手姫と分かり、娘に小栗を諦めさせようとするのですが、お駒はそう言われるほど、強く小栗に執着する…こういう役、右近は上手、器用な人だな。で最後は母の手にかかり、怨霊となって連理引き。


その呪いで小栗は顔が腫れ躄となるも二人は旅を続けます。その雪が降り積もり銀世界の道行きには、これもお約束の寿猿(旅の女房およし)が義太夫に乗って登場。最後には熊野で歌六の遊行上人とその弟子(寺嶋眞秀)の一行の祈祷によって小栗判官の病も快癒。勝鬨の轡(かちどきのくつわ)も手に入れた二人は絵馬から抜け出した白馬に乗って、空高く舞い上がって行くのでした。👏

90歳の寿猿の味わい深い存在感と、眞秀くんのきっちり練習をした懸命な祈祷の舞と。今回は猿弥、青虎がかすむほど、多彩な澤瀉屋の一座の層の厚さを感じました。


「オグリ」も楽しかったけど、やはり本来はこちらなのかもしれません。4時間以上、いつかどっぷりと「當世流小栗判官」の世界にも浸りたいですね。