昼と夜の間は2時間ほど。早朝に新幹線に乗ったので昼が終わると疲れはピーク、「引窓」で眠くなっては大変なので、法善寺で「冷し夫婦善哉」を食べてぐるっと一回りして蟹道楽の方へ戻りました。外国の方もいないし人出も少し減り、街の雰囲気はちょっと落ち着いたかしら。
竹本座跡にあるビルが、韓国アジア食材やコスメの量販店に変わっていたので、そこを覗き松竹座へ。

双蝶々曲輪日記 引窓
前回、仁左衛門の南方十字兵衛を観たのは平成28年12月の先斗町歌舞練場での顔見世でした。今回は、濡髪長五郎が幸四郎。思わぬことから人を殺してしまい(同士討ちからの言わば貰い事故みたいな感じ)最後に一目母親に会いたいと訪ねて来る、という若者らしさが幸四郎だと自然でした。仁左衛門の十字兵衛は、郷代官に取り立てられ喜ぶ姿が微笑ましく、かつ後半の展開に活きます。義理の母親を想い、長五郎の身の上を想い自分の初手柄を捨て、さりげなく逃げ道を伝える姿には重みがあり立派に思ってしまうのは、仁左衛門だという思い込みがあるからかな。長五郎が、ふと言うように、南与兵衛であった大阪時代の十字兵衛も、実は人を殺めている、この八幡に芸者であった都=お早(孝太郎)と帰って来て、義母と三人慎ましやかな幸せが始まるところに長五郎が現れた…。その戸惑いもあるのでしょう。
母お幸は、養子に出したことで、長五郎の運命を変えてしまったという悔いがあり、辛いのだろうなぁと。吉弥のお幸は武士の女房だった感じもありながら、息子への情も強く感じられる熱演。長五郎も十字兵衛や母に迷惑を掛けたくないと思う。それぞれの気持ちが浄瑠璃の語り、三味線に乗り揺れる。逃げてくれ、いや縄を掛けてくれ…浄瑠璃を聞いていると理屈抜きに心が揺さぶられ、やはり泣けてしまいます。
孝太郎のお早は、明るくお茶目な前半と女房・嫁の感じに安定感。重大な任務を伝えに来る丹平に壱太郎でしたが、声に落ち着きがあり、違和感なし、良かったです。もう一人伝造は、隼人でしま。

恋飛脚大和往来 新口村
鴈治郎が濃厚接触者となって、扇雀が忠兵衛と孫右衛門を代わり、壱太郎が梅川を代わったのも見てみたかった。竹三郎の忠三郎女房は出てくるだけで雰囲気が変わるし、ほっとします。
扇雀の梅川は、嫁としての舅孫右衛門への情が伝わって来る感じ。嫁になる立場であることを口にはしないけれど、孫右衛門には伝わって行く感じの切なさ、日本人ならではの感情が、義大夫の語りや節と役者の芝居から伝わってくる世界。上方だなぁと思うと同時に、それを大阪の劇場で観られる幸せを感じました。
鴈治郎の孫右衛門も、引窓のお幸と同じように息子を養子に出している、養父への申し訳なさはあっても、やはり息子が一番いとおしいと思う強い気持ち、もしかすると現代の親子関係よりもずっと強いのかもしれません。
万歳の虎之介と才蔵の千之助の若い二人が間狂言のように、場の雰囲気を変え明るく清々しい。虎之介の天性の愛嬌がいい感じ、これからが楽しみです。雪の降りしきる正月にやって来る万歳は、人々の心をほっこりとさせるものだったのだろうなぁと思いました。

夜まで、気力がもつかしらと心配しましたが、舞台に引き込まれ満ち足りたた気持ちで新大阪へ向かいました。終演は5分ほど延びたのではないでしょうか。駅で今井のきつねうどんを食べ新幹線に乗りました。

扇雀さんのブログに、昼夜の役作りのこと、代役のこと等が詳しく書いてあり、なるほどと思いながら読みました。