「まぁ、別に、事情聞きたいとかじゃない。
でも、気まずくなると厄介なだけだろ? こういうゲーム全般は。」
「ボクも思う。 嫌がらせで、同じプレイヤー狙いまくるのも多いし。」
「コイツみたいにな。」
「ボクは違います。」
俺の悪態、それをあしらうニケル。
緊張感に欠ける様を見てか、ヤヂの身体から、緊張感というものが抜けていく。
抜けていってるんだと思う。
段々と、目が合う様になってきているし。
「・・・“プロズ”。」
「?」
「おれと、さっきの桃葉(モモハ)がやってた、MMO。」
話し出したヤヂが、暮れる空を見上げた。
グラフィックでしかないのに、横顔で哀愁を漂わせて。
「これと違って、“プロズ”はレベル上げで転職して、
プレイヤー同士の戦闘を楽しむんだ。
おれ、F型のパティシエ。
此処で言う呪紋使いみたいなので、桃葉はF型のスケーター。
同じ時期に始めたから、レベルも近くて、しょっちゅう対戦してた。」
「パティシエ? 面白そうなゲームだね。」
「そうなんだよっ。」
ニケルの相槌に、ヤヂが身を乗り出してくる。
「色んな職業があってさ、装備充実しててさ。
ステータスも凄ェ弄れるから、ほんと、人によって違うんだ。
戦闘だって、やり込む要素一杯あったし・・・それに、
ライバルみたいなの、何か楽しいし・・・。」
「桃葉が、そうだった?」
弾んだ調子から一変、肩を落とすヤヂに尋ねた。
一度だけ、ゆっくりと頷いてくれる。
「アイツ居ないと駄目なんだ・・・。
全然面白くなくて、ゲームしてる感じじゃなくて。
“The World”で桃葉を見たって聞いて、おれも始めてさ。
ボイスチャットとか、キャラデザとか、面白いとは思った。
でも、やっぱおれ、“プロズ”やりたい。」
「だからって・・・。」
「わ、分かってる。 けどさぁ・・・、
仲間だったのに、あんなの、って・・・何か・・・。」
先程の二人を思い出し、俺の表情まで歪んでいく。
多分、ヤヂは桃葉を諦めてる。
確かに、“The World”には、彼女への感情だけで来てしまった。
だけど、彼女と対面した時、“プロズ”に戻せるという確信は見えなくなった筈だ。
((アンタに関係無いでしょ。))
そう吐き捨てられ、PKまでされ掛けたのだから。
しかし、彼はそれでも、桃葉と、何処かで繋がっていたかったのだろう。
だから、ヤヂは。
「そんなに、アタシん事好き?」
声と共に、真上から、人間の影が降ってくる。
「ヤヂっ!!」
ニケルの声が、エリア中に爆ぜた。
が、彼の意図と反し、名の主は女の奇襲に動じる事なく、双剣で重槍を防いでいる。
「やるじゃん。」
女、桃葉は笑った。
それにまた、ヤヂもニヤリとする。
「・・・嘘だよ、へっぽこ!!」
手加減もされず、大きく振られる重槍。
その勢いで放られたヤヂへ、笑みを深めた桃葉がにじり寄る。
何て、残酷な時間なんだろう。
MMOの汚れた一面を、突き付けられている気分だ。
だって、ヤヂが一瞬、昔に戻れるって期待をした。 素直に笑ったんだ。
なのに、桃葉は平気で踏み躙った。
胸糞悪い。
「ニケル。」
「・・・え?」
「一夜には、内緒にしといてくれ。」
「! ハザ・・・っ」
「大丈夫。」
振り向いて、彼に微笑んだ。
「どうせ、アイツにゃバレる。」
「じゃなくて! 普通のプレイヤーの前で!」
「勇者の面影を追う者、鍵はその能力を示す、力の象徴―・・・。」
ニケルの静止も、お決まりの言葉で掻き消して。
首から“タスクスレイラの鍵”を外した。
俺の周りから集結する、青い光。 脈動が・・・掌へ迫り来る。
これだ。
思って、強く振るうと、鍵が巨大化を果たし、重さを増す。
「ヤヂさー、“健闘を祈る”みたいな事言ってたよね?
なのに、何でこんなしつこいかなぁ。 マジウザイんだけど。」
「・・・。」
「追っ掛けて来るとかさ。」
「・・・。」
「ちょっと、何とか・・・っ?」
やっと、ヤヂが後ろを凝視してる事に気付いたらしい。
振り返ろうとした桃葉の喉に、俺は、鍵の切っ先を向けた。
「に、これッ。」
「ウザイんだけど。」
「はぁっ?」
「不利になって、回線ブチンした挙句・・・レベル低い奴にリベンジ。
しかも調子こく。」
彼女の台詞の一部分を拝借し、丸ごと鼻で笑ってやる。
対して、小刻みに震える桃葉は、的外れな要素で反撃してきた。
「ち、ちくってやるっ。 仕様外の、こんなっ。」
「残念。 それ、CC社にも黙認されてる。」
背中からは、営業スマイルの仮面をした、ニケルの強気な攻め。
(本当に面倒なのは、BBSに噂立てられる事なんだけどな。)
頭でぼやき、桃葉の瞳に眼球を向かわせる。
「・・・みま、せん」
居所を失って、それは怯えてた。
「すみませんっ! も、アタシ・・・!」
「ハザマ・・・。」
許しを請う桃葉を目にし、俺を見上げて、ヤヂは囁く。
もう良いよ、と、確実に。
PKをしたいなんて欲求は無い。
釈放してやろうと、鍵を握る指を緩めた。
「ヤヂ。」
自由となった身で、彼の元へ歩み寄る桃葉。
どう謝るつもりなのだろうか。
彼女の動きから、俺達は眼を離せないでいた。
否。
ヤヂにしゃがみ込もうとした刹那、桃葉の手にあった重槍が微動して、
次の瞬間には、もう、彼女は其処に居なかった。
「え―・・・」
「上。」
小さく言って、戸惑うヤヂを突き飛ばす。
「悪い・・・ヤヂ、言わせてもらう。」
ダンッ
彼が大地に打ち付けられる音。
起こる、砂混じりの風。
ガキィッッッ!!
互いの武器が、ぶつかり合った。
「・・・最悪、コイツ。」
間を空けての俺の発言に、ニケルの吐いた息が重なる。
「ベタだね。 ウザイ通り越して。」
「・・・殺してやる。」
「怖っ。 PK宣言。」
正に裏腹。 怖がるどころか、ニケルは酷く楽しそうだ。
桃葉の怒気が、空間を伝う。
そして、俺には頭痛が圧し掛かる。
「PKのコツは、戦闘状態の維持だよ。」
「言わんで良いッ。」
ったく、ニケルは何考えてやがる。
だが。
殺さないにしても、負けるつもりは、更々無い。
「ぁぁああああああああっっっ!!!!」
桃葉は盛大に叫ぶと、俺の鍵を槍から払い、鋭いその先端で突いてきた。
風圧が迫る。 が、避けた俺には掠りもしない。
今度は此方から、と、隙のあり過ぎる彼女の脇に、鍵の取っ手を減り込ませる。
ぎょっとする顔。 そのまま、食い入った部分を、更に足で奥へとやる。
「ッ!」
横っ面から、桃葉が倒れる。
しかし、彼女も下手ではないみたいで、
長い槍を地面より立て、俺の顔面を狙ってきた。
ビィンッ!
しなりながら飛んでくるそれを、彼女から抜いた鍵で叩く。
其処から加わる振動で動けなくなった桃葉の空へ、俺は大きく飛躍した。
「はやッ!」
「うん。」
米の様になったヤヂへと駆け寄る、ニケルが見えた。
「ハザマちょっと、特別だから。」
「・・・特別?」
「うん。 ちょろっとね。」
ぐんと遠くなったかと思うと、また近くなってくる、フィールドの平地。
あ、凄い。 マップ通りの場所で、魔法陣が回ってる。
・・・って、感動している場合じゃないな。
思い直し、下で這いつくばってる桃葉へ、鍵の先を合わせた。
「照準、確認!」
「どーぞっ。」
ふざけた俺に、ふざけたニケル。
「あああああああああああああああっっっっ」
末魔に触られた様な声が、黄昏の世界を覆い尽くした。
※ ※ ※ ※ ※
「ニケル詰まんなーい。」
「喚くな、テラウザス。」
「何ですとーっ!」
桃葉のネット語を真似ると、ニケルはニケルで、ミミルの口癖を持ってくる。
「言ったじゃん! 戦闘状態の維持って。」
「PKは趣味じゃない。」
「だからって・・・っ。」
「だから。 重剣なんだよ。」
埃を叩き落としてから、俺は静かに立ち上がり、支えにしていた重剣に身を任せた。
足元の砂へ、刃先が軽く嵌まる。
桃葉は居ない。
「大体、鍵でトドメいったら、どうなるか分かんないだろうに。」
薄く笑いながら、もう縮小させ、首に戻してある鍵を手で掬った。
暢気モン、馬鹿、馬鹿馬鹿、そう繰り返すニケルを尻目に、カメラをヤヂへと向ける。
複雑な心境かな、と、感じていたのだが、意外にも、彼の出だしは明るかった。
「プレイチケット、残ってるしさ。」
チケット? 疑問に眉を顰める俺。
今日一番の輝きで以て、ヤヂが笑ってくれる。
「楽しいかどうか、決めてみるよ。」
「・・・だな。」
その意図を掴ませて貰い、肯定を示せた。
と、拗ねていたニケルも、此処で復活を遂げる。
「じゃ、まずはライバル探さなきゃ。」
「見つけたよ、もう。」
「ほお。」
「って、また桃葉ぁ?」
「まさかっ、ハザマだ。」
・・・それこそ、“まさか”だ。
あっけらかんとする俺を見たヤヂが、笑みを益々深い物にする。
マジっすよ、と、付け足され、今度はニケルが苦笑い。
「ハザマを抜く、最初のPCになるぞ。」
「・・・そりゃ・・・、楽しいゲームだ。」
「あ゛、笑うなよ!」
「笑・・・っ、笑ってないっ。」
「笑ってんじゃんかよー―――――――――っ!」
自棄になり、双剣を振り回し始めるヤヂから、
笑いが止まらなくなった俺は逃げ出した。
それを必死で・・・、本気で追ってくる彼によって、
続々と開けられていく魔法陣の対処に、後で、俺とニケルは悩まされる事となる。
そんな、一寸先の苦悩にすら頭が働かなくなる程、そう、本気で、
追いかけっこをしている。
この滑稽な時間もまた、MMOの一面であると認めつつ。
※ ※ ※ ※ ※
FMDを外し、通常のモニターで、メーラーをチェックした。
新着は三つ。
まず、太陽からで、タイトルは「ゴメン(@@)」。
二つ目に、先程メンアドを交換したばかりのヤヂから、「自業自得だね!」。
そして三番目は、一夜からの物。 タイトルは・・・
「“ゴラァ!!”。」
バレたか。 仕事の早いハッカーだ。
呆れ半分、感心半分の心地で、他のメールも開封しようとする。
が。 リビングから、黄色い叫びが聞こえてきた。
「ちょっとっ、餓死させる気ですか!? 何も出来てないじゃないッ!!!」
「あ。」
そうだ。 俺が食ってないという事は、飯も出来てないという事で。
・・・嘘だろ? こんな時間から自炊かよ。
携帯の蓋に付属されたデジタル時計に、意識が遠退きそうになる。
♪タータータータタター
そして、それを現実に引き戻そうとする着信音に唖然としながらも、
手中の携帯を開け、耳に当てた。
話し出す声。 ハスキーな感じで読めた、理咲だ。
「・・・否、うん。 うん、そう。」
「愛ぃー―――っ!?」
「違う、それだと現在完了。」
「愛ぃいいいいいっっ!!」
「ちょっと待って。
・・・っる、せぇなっ!! 今やるんだよっ、んのダ阿呆がッ!!!」
「はッ、働いてきた人に向かって、何てこと言うのよ!!?」
「もしもし。 うん、問題無い。 うん、うん、合ってる。」
絶叫が、徐々に近付いて来る。
携帯で会話を続けながら、俺からも、リビングへと歩き出した。
今日は、肉じゃがにするんだよな。
理咲に分けたら、また喜ばれるかな。
・・・ほら。
余計な事を考えてしまう。
切羽詰った時に限って。
でも、気まずくなると厄介なだけだろ? こういうゲーム全般は。」
「ボクも思う。 嫌がらせで、同じプレイヤー狙いまくるのも多いし。」
「コイツみたいにな。」
「ボクは違います。」
俺の悪態、それをあしらうニケル。
緊張感に欠ける様を見てか、ヤヂの身体から、緊張感というものが抜けていく。
抜けていってるんだと思う。
段々と、目が合う様になってきているし。
「・・・“プロズ”。」
「?」
「おれと、さっきの桃葉(モモハ)がやってた、MMO。」
話し出したヤヂが、暮れる空を見上げた。
グラフィックでしかないのに、横顔で哀愁を漂わせて。
「これと違って、“プロズ”はレベル上げで転職して、
プレイヤー同士の戦闘を楽しむんだ。
おれ、F型のパティシエ。
此処で言う呪紋使いみたいなので、桃葉はF型のスケーター。
同じ時期に始めたから、レベルも近くて、しょっちゅう対戦してた。」
「パティシエ? 面白そうなゲームだね。」
「そうなんだよっ。」
ニケルの相槌に、ヤヂが身を乗り出してくる。
「色んな職業があってさ、装備充実しててさ。
ステータスも凄ェ弄れるから、ほんと、人によって違うんだ。
戦闘だって、やり込む要素一杯あったし・・・それに、
ライバルみたいなの、何か楽しいし・・・。」
「桃葉が、そうだった?」
弾んだ調子から一変、肩を落とすヤヂに尋ねた。
一度だけ、ゆっくりと頷いてくれる。
「アイツ居ないと駄目なんだ・・・。
全然面白くなくて、ゲームしてる感じじゃなくて。
“The World”で桃葉を見たって聞いて、おれも始めてさ。
ボイスチャットとか、キャラデザとか、面白いとは思った。
でも、やっぱおれ、“プロズ”やりたい。」
「だからって・・・。」
「わ、分かってる。 けどさぁ・・・、
仲間だったのに、あんなの、って・・・何か・・・。」
先程の二人を思い出し、俺の表情まで歪んでいく。
多分、ヤヂは桃葉を諦めてる。
確かに、“The World”には、彼女への感情だけで来てしまった。
だけど、彼女と対面した時、“プロズ”に戻せるという確信は見えなくなった筈だ。
((アンタに関係無いでしょ。))
そう吐き捨てられ、PKまでされ掛けたのだから。
しかし、彼はそれでも、桃葉と、何処かで繋がっていたかったのだろう。
だから、ヤヂは。
「そんなに、アタシん事好き?」
声と共に、真上から、人間の影が降ってくる。
「ヤヂっ!!」
ニケルの声が、エリア中に爆ぜた。
が、彼の意図と反し、名の主は女の奇襲に動じる事なく、双剣で重槍を防いでいる。
「やるじゃん。」
女、桃葉は笑った。
それにまた、ヤヂもニヤリとする。
「・・・嘘だよ、へっぽこ!!」
手加減もされず、大きく振られる重槍。
その勢いで放られたヤヂへ、笑みを深めた桃葉がにじり寄る。
何て、残酷な時間なんだろう。
MMOの汚れた一面を、突き付けられている気分だ。
だって、ヤヂが一瞬、昔に戻れるって期待をした。 素直に笑ったんだ。
なのに、桃葉は平気で踏み躙った。
胸糞悪い。
「ニケル。」
「・・・え?」
「一夜には、内緒にしといてくれ。」
「! ハザ・・・っ」
「大丈夫。」
振り向いて、彼に微笑んだ。
「どうせ、アイツにゃバレる。」
「じゃなくて! 普通のプレイヤーの前で!」
「勇者の面影を追う者、鍵はその能力を示す、力の象徴―・・・。」
ニケルの静止も、お決まりの言葉で掻き消して。
首から“タスクスレイラの鍵”を外した。
俺の周りから集結する、青い光。 脈動が・・・掌へ迫り来る。
これだ。
思って、強く振るうと、鍵が巨大化を果たし、重さを増す。
「ヤヂさー、“健闘を祈る”みたいな事言ってたよね?
なのに、何でこんなしつこいかなぁ。 マジウザイんだけど。」
「・・・。」
「追っ掛けて来るとかさ。」
「・・・。」
「ちょっと、何とか・・・っ?」
やっと、ヤヂが後ろを凝視してる事に気付いたらしい。
振り返ろうとした桃葉の喉に、俺は、鍵の切っ先を向けた。
「に、これッ。」
「ウザイんだけど。」
「はぁっ?」
「不利になって、回線ブチンした挙句・・・レベル低い奴にリベンジ。
しかも調子こく。」
彼女の台詞の一部分を拝借し、丸ごと鼻で笑ってやる。
対して、小刻みに震える桃葉は、的外れな要素で反撃してきた。
「ち、ちくってやるっ。 仕様外の、こんなっ。」
「残念。 それ、CC社にも黙認されてる。」
背中からは、営業スマイルの仮面をした、ニケルの強気な攻め。
(本当に面倒なのは、BBSに噂立てられる事なんだけどな。)
頭でぼやき、桃葉の瞳に眼球を向かわせる。
「・・・みま、せん」
居所を失って、それは怯えてた。
「すみませんっ! も、アタシ・・・!」
「ハザマ・・・。」
許しを請う桃葉を目にし、俺を見上げて、ヤヂは囁く。
もう良いよ、と、確実に。
PKをしたいなんて欲求は無い。
釈放してやろうと、鍵を握る指を緩めた。
「ヤヂ。」
自由となった身で、彼の元へ歩み寄る桃葉。
どう謝るつもりなのだろうか。
彼女の動きから、俺達は眼を離せないでいた。
否。
ヤヂにしゃがみ込もうとした刹那、桃葉の手にあった重槍が微動して、
次の瞬間には、もう、彼女は其処に居なかった。
「え―・・・」
「上。」
小さく言って、戸惑うヤヂを突き飛ばす。
「悪い・・・ヤヂ、言わせてもらう。」
ダンッ
彼が大地に打ち付けられる音。
起こる、砂混じりの風。
ガキィッッッ!!
互いの武器が、ぶつかり合った。
「・・・最悪、コイツ。」
間を空けての俺の発言に、ニケルの吐いた息が重なる。
「ベタだね。 ウザイ通り越して。」
「・・・殺してやる。」
「怖っ。 PK宣言。」
正に裏腹。 怖がるどころか、ニケルは酷く楽しそうだ。
桃葉の怒気が、空間を伝う。
そして、俺には頭痛が圧し掛かる。
「PKのコツは、戦闘状態の維持だよ。」
「言わんで良いッ。」
ったく、ニケルは何考えてやがる。
だが。
殺さないにしても、負けるつもりは、更々無い。
「ぁぁああああああああっっっ!!!!」
桃葉は盛大に叫ぶと、俺の鍵を槍から払い、鋭いその先端で突いてきた。
風圧が迫る。 が、避けた俺には掠りもしない。
今度は此方から、と、隙のあり過ぎる彼女の脇に、鍵の取っ手を減り込ませる。
ぎょっとする顔。 そのまま、食い入った部分を、更に足で奥へとやる。
「ッ!」
横っ面から、桃葉が倒れる。
しかし、彼女も下手ではないみたいで、
長い槍を地面より立て、俺の顔面を狙ってきた。
ビィンッ!
しなりながら飛んでくるそれを、彼女から抜いた鍵で叩く。
其処から加わる振動で動けなくなった桃葉の空へ、俺は大きく飛躍した。
「はやッ!」
「うん。」
米の様になったヤヂへと駆け寄る、ニケルが見えた。
「ハザマちょっと、特別だから。」
「・・・特別?」
「うん。 ちょろっとね。」
ぐんと遠くなったかと思うと、また近くなってくる、フィールドの平地。
あ、凄い。 マップ通りの場所で、魔法陣が回ってる。
・・・って、感動している場合じゃないな。
思い直し、下で這いつくばってる桃葉へ、鍵の先を合わせた。
「照準、確認!」
「どーぞっ。」
ふざけた俺に、ふざけたニケル。
「あああああああああああああああっっっっ」
末魔に触られた様な声が、黄昏の世界を覆い尽くした。
※ ※ ※ ※ ※
「ニケル詰まんなーい。」
「喚くな、テラウザス。」
「何ですとーっ!」
桃葉のネット語を真似ると、ニケルはニケルで、ミミルの口癖を持ってくる。
「言ったじゃん! 戦闘状態の維持って。」
「PKは趣味じゃない。」
「だからって・・・っ。」
「だから。 重剣なんだよ。」
埃を叩き落としてから、俺は静かに立ち上がり、支えにしていた重剣に身を任せた。
足元の砂へ、刃先が軽く嵌まる。
桃葉は居ない。
「大体、鍵でトドメいったら、どうなるか分かんないだろうに。」
薄く笑いながら、もう縮小させ、首に戻してある鍵を手で掬った。
暢気モン、馬鹿、馬鹿馬鹿、そう繰り返すニケルを尻目に、カメラをヤヂへと向ける。
複雑な心境かな、と、感じていたのだが、意外にも、彼の出だしは明るかった。
「プレイチケット、残ってるしさ。」
チケット? 疑問に眉を顰める俺。
今日一番の輝きで以て、ヤヂが笑ってくれる。
「楽しいかどうか、決めてみるよ。」
「・・・だな。」
その意図を掴ませて貰い、肯定を示せた。
と、拗ねていたニケルも、此処で復活を遂げる。
「じゃ、まずはライバル探さなきゃ。」
「見つけたよ、もう。」
「ほお。」
「って、また桃葉ぁ?」
「まさかっ、ハザマだ。」
・・・それこそ、“まさか”だ。
あっけらかんとする俺を見たヤヂが、笑みを益々深い物にする。
マジっすよ、と、付け足され、今度はニケルが苦笑い。
「ハザマを抜く、最初のPCになるぞ。」
「・・・そりゃ・・・、楽しいゲームだ。」
「あ゛、笑うなよ!」
「笑・・・っ、笑ってないっ。」
「笑ってんじゃんかよー―――――――――っ!」
自棄になり、双剣を振り回し始めるヤヂから、
笑いが止まらなくなった俺は逃げ出した。
それを必死で・・・、本気で追ってくる彼によって、
続々と開けられていく魔法陣の対処に、後で、俺とニケルは悩まされる事となる。
そんな、一寸先の苦悩にすら頭が働かなくなる程、そう、本気で、
追いかけっこをしている。
この滑稽な時間もまた、MMOの一面であると認めつつ。
※ ※ ※ ※ ※
FMDを外し、通常のモニターで、メーラーをチェックした。
新着は三つ。
まず、太陽からで、タイトルは「ゴメン(@@)」。
二つ目に、先程メンアドを交換したばかりのヤヂから、「自業自得だね!」。
そして三番目は、一夜からの物。 タイトルは・・・
「“ゴラァ!!”。」
バレたか。 仕事の早いハッカーだ。
呆れ半分、感心半分の心地で、他のメールも開封しようとする。
が。 リビングから、黄色い叫びが聞こえてきた。
「ちょっとっ、餓死させる気ですか!? 何も出来てないじゃないッ!!!」
「あ。」
そうだ。 俺が食ってないという事は、飯も出来てないという事で。
・・・嘘だろ? こんな時間から自炊かよ。
携帯の蓋に付属されたデジタル時計に、意識が遠退きそうになる。
♪タータータータタター
そして、それを現実に引き戻そうとする着信音に唖然としながらも、
手中の携帯を開け、耳に当てた。
話し出す声。 ハスキーな感じで読めた、理咲だ。
「・・・否、うん。 うん、そう。」
「愛ぃー―――っ!?」
「違う、それだと現在完了。」
「愛ぃいいいいいっっ!!」
「ちょっと待って。
・・・っる、せぇなっ!! 今やるんだよっ、んのダ阿呆がッ!!!」
「はッ、働いてきた人に向かって、何てこと言うのよ!!?」
「もしもし。 うん、問題無い。 うん、うん、合ってる。」
絶叫が、徐々に近付いて来る。
携帯で会話を続けながら、俺からも、リビングへと歩き出した。
今日は、肉じゃがにするんだよな。
理咲に分けたら、また喜ばれるかな。
・・・ほら。
余計な事を考えてしまう。
切羽詰った時に限って。
番外編1(後編)、完