########遡るところ10日前###########
「まもちゃーん!こっちこっち♪」
衛はうさぎを連れて、ドライブがてら白鳥が渡ってくると評判の湖畔まで遠出していた。
「白鳥が沢山!すごーい♪」
湖が見えてくると、群生する白鳥が何百羽も居た。都心で住んで居る、うさぎにとって、その光景は圧巻だった。
「うさこ!転けるなよ!」
車から降りて直ぐ走り出したうさぎに、注意しつつも衛の表情は穏やかだった。
(今日は天気も良いし、うさこも喜んでる。来てみて良かったな。)
研修先で勧められた場所だった。少し遠いので最初来るのを迷ったが、うさぎのはしゃぎ様を見て、衛は安心した。
うさぎは間近で白鳥を見ようと水辺に近づいた。
何羽か湖の側まで来ていたからだ。
「あれ?」
群れの中に自分を見つめている白鳥が居た。他の個体と比べ一際美しくその瞳に引かれた。より近づこうとした時だった。
~バサバサバサバサーッ!!~
「キャアー!!!」
湖に居た全ての白鳥が一斉に飛びたったのだ。
「うさこ!!」
少し遅れて歩いていた衛はその光景に驚きながら、慌ててうさぎの所へ駆けつけた。
しかし次の瞬間、衛は息を飲んだ。
其処にうさぎが倒れていたのだ。側には人の影がいた。
衛は急いでうさぎの側に駆け寄り助け起こす。気を失っていて体温が冷たい。着ていたコートを脱ぎ着せてやる。
すると、その影が衛に語りかけてきた。
「いつも遅いわね、貴方は。」
「誰だ…?…!?!!」
よく見ると影はうさぎの姿形をしていた。その声までそっくりだ。
「次の新月までその子を大事にするのね。」
「君は…。なんだ?」
影は次第に色を帯び、抱いている恋人の姿が浮き上がってきた。
「私は月野うさぎ。…の影。だけとそれも今日まで。」
衛は見比べようと腕の中のうさぎを覗きこんだ。すると、まるで入れ替わったかのようにうさぎの皮膚は黒く変色していった。
「…!?!うさこ!…。おい!これはどういうことだ!」
「もう戦う日々は要らない。私はそんな彼女の記憶から生まれた。
貴方のせいよ。出会わなければこんな想いはしなくて済んだもの。」
「君は何を言っている?うさこは…。どうすれば元に戻るんだ?」
衛は腕の中のうさぎが冷たくなるのを感じ、焦りながら目の前の女性に語りかけた。
「わたしが本来のうさぎになるのよ。普通の高校生の女の子…。だから…。」
~バサバサバサバサーッ!!~
「…。くっ!」
湖面に再び白鳥が戻ってきて辺りに風が舞い上がる。
『バイバイ、まもちゃん!貴方を解放して上げるわ…。』
「待てーー!」
うさぎと名乗った『彼女』は忽然と消えた。
残された衛はうさぎを抱え車に戻った。そして急いでルナに連絡をいれたのだった。
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「じゃあどうして、あたしたちにも直ぐ連絡をしなかったのよ!!!」
美奈子が話が終わると同時に怒りを露にする。うさぎの事で秘密にされていたのが相当気に入らない様子だ。
「美奈子ちゃん、落ち着いて…。」
「そうよ。衛さんの話はまだ終わっていないし、起こってしまった今はキチンと情報を共有することが大事よ。」
まことは美奈子をなだめ、亜美は状況把握をしたいようだ。
「で、うさぎは今どういう状態なの?」
レイが、一番知りたいことを衛に尋ねた。答えたのはルナだった。
「衛さんの生命とリンクさせて、生命維持をしているの。皮膚の色以外は、正常に動いている、ただ…。」
ルナが言葉を詰まらせたため、アルテミスが後を続けた。
「日を逐う毎に黒さが増している。まるで本当の影になるように。」
「じゃあ、早くその影を戻ってきてもらわなきゃダメじゃない!」
「このままじゃ、うさぎちゃんはどうなるのさ?!」
美奈子とまことは不安を露にした。
「どうして衛さんは、私達に内緒にしていたの?」
「その影、何者が作り出したのかしら?」
亜美とレイは冷静に話を聞き出そうとする。切り出したのはアルテミスだった。
「勿論もどさなければいけない。このままだと、うさぎの命は危ない。」
今はかろうじて命を繋いでいるようなものだ。
「その影、『彼女』は、普通に月野家に戻ってきたの。私は衛さんから連絡を受けてたから、本物じゃないと分かってたわ。だけど…。あまりにもいつもと変わらない振る舞いをされて、堵惑ってしまって。」
両親や弟に疑われもせず団らんに溶け込み、ルナに対しても変わりなく接するのだ。
「『彼女』は衛以外の事については、今まで通りだったんだ。だから…。」
アルテミスも実際に『彼女』を見て驚いた。話し方も振る舞いも何時もと変わらない。衛の話は惚けてばかりだったが、それ以外は記憶も間違いない。衛の部屋にいるうさぎを見るまで、疑いようがなかった。
「俺が頼んだんだ。出会ったとき『彼女』は言った。本来の姿、普通の高校生の女の子だと。だから、自然と『彼女』に接して貰えるよう敢えて皆には、黙っていてもらった。その代わり、彼らに様子を探るように頼んだんだ。『彼女』に新たに近づく存在が居ないかとか。君達にには隠してて済まなかったと思ってる。」
衛は守護戦士達に頭を下げる。四天王もそれに準ずる。
「別に謝ってほしいわけじゃないわ。」
「考えがあっての事なら仕方ないけど。」
「頭を上げて下さい。それより分かったんですか?敵は?。」
「『あのうさぎ』は私には近寄らないようにして居たわね。それに向こうは私達を知っている風だったわよ。」
四人の質問を受け、答えたのは四天王たちだった。
「ああ、今日の事件で確信が持てた。ネフライトの情報で検討はついていたのだが。」
「俺も潜入して操られかけたけどな。ゾイサイトのお陰で正気を保つことができたし。」
「『昔の知り合い』みたいだったから、対策できたのよ。ジェダイトにレイの家から魔除けを借りてもらったし。」
「僕には事後報告だったけどね。クンツァイトに言われて敵の資料を揃えたよ。」
そう言うと敵と思われる数枚の写真を取り出した。それを見て答えたのは衛だった。
「キュクノス。ライブライトとマラカイト。地球国第2王子とその側近だ。」
「地球国、第2王子?」
「王子はエンディミオン様だけじゃないのか?」
「聞いたことあるわ…。」
「私は知っている、その名。確か…。」
美奈子とまことは知らないようだったが、亜美とレイは覚えがあるようだ。
「そう。反逆の罪で追放された王子だ。俺のかつてのライバルだった。」
衛は悲しげに答えたのだった。
~あとがき~
真相です。
リクエストで、エンディミオンは第1王子だから、第2王子は居ないのか言われまして。ちょっと考えて敵として出してみました。
血の繋がりが有るかどうかはまたのちほど。
うさぎちゃんは実は影を奪われ、その影が操られ?てるのでした。
さて、これからどうなるのでしょう?
まだまだ続きそうです。