相場英雄の時事日想(最終回):
当欄で連載を始めてから早4年。私はかつて籍を置いたマスコミ業界の裏側や、企業の隠れた思惑などに触れてきた。当欄の主要な読者層が若いビジネスパーソンと聞き、少しでも政府や企業の裏側を知るきっかけになればと思い、大手マスコミがフォーカスしない“暗部”に光を当ててきたつもりだ。
小説と漫画原作の創作活動が多忙を極めているため、今回の原稿で本連載は終了となるが、最後に1つだけ、声高に主張しておく。政府や大企業は、これからもずっとあなたを騙(だま)し続ける。あなたは彼らに良いように躍らされ続けるのか。中年作家の斜に構えた視点から、1つの処方せんを提示したい。
●巨人の言葉
本題に触れる前に、いきなり脱線することをお許しいただきたい。
今から20年以上前のことだ。私は友人に誘われ、初めて千代田区隼町にある国立演芸場を訪れた。目的は、故・立川談志の独演会。
当時、サラリーマンになったばかりの私は、日々の仕事に追われ、かなり疲弊していた。クセの強い先輩や同僚に揉まれ、人間関係にも悩んでいた。
そんな私を見かねた友人が、家元の独演会のプラチナチケットを入手し、招待してくれたのだ。大げさな言い方かもしれないが、このときナマの談志師匠の姿に接し、私は人生観が変わった。
当時のメモを頼りに、談志師匠が“まくら”で語った言葉を再現してみる。
学校は誰のためにあるか知ってるかい? もちろん、教師のためにある。それじゃ病院はどうだい? 医者と看護婦のためにある。奴らを食わせなきゃ、病院なんて立ちいかないないからな。それなら国会は? もちろん、議員様のために決まってるじゃないか。
●凝り固まった世間の常識を一刀両断
学校は生徒の教育のために、病院は患者の治療のために、国会は国民の生活向上ために存在する。世間の常識はそうだ。だが、わずか数メートルの距離にいた談志師匠は、凝り固まった世間の常識を一刀両断した。
あのとき受けた衝撃から20年以上が経過した。昨今の世情を見渡すと、談志師匠の言葉が改めてすごみを持っていたことに気付く。
新聞やテレビの報道をみると、日々政府や企業の不祥事が伝えられている。予算の不正流用、消費者を欺(あざむ)く違法行為など、枚挙にいとまがない。
もう一度、談志師匠の言葉を読み返してほしい。政府や政治家、あるいは大企業の固有名詞をそれぞれ先の言葉に当てはめてみると、ピタリと符合するから不思議だ。
要するに、政治家は国民を向いておらず、企業も消費者ではなく、自分の利益のために動いていると言い換えることもできる。
当時の自分の身に置き換えてみると、合点がいった。駆け出し記者時代、何度もデスクに記事の書き直しを命じられ、私は腐っていた。そこで取った行動は、こうだった。
デスクの出番表を入手し、“話が分かる”デスクが出勤している時間帯を狙って出稿していたのだ。
今考えると、空恐ろしい。要するに、駆け出し記者時代の私は、読者のためではなく、自分の都合、さらに言えば、自分の稚拙さを修正してくれるデスクを避け、適当に原稿を校了してくれるデスクに腹を向けて仕事をしていたからだ。
新聞やテレビなど、大手と呼ばれるマスコミの大義名分は、読者や視聴者のためにニュースを伝えること。だが、内実は、他社を蹴落とし、取材対象者に迷惑をかけてまでスクープを取りに行くのだ。先の格言に照らせば、マスコミはマスコミ内部の評判や名誉のために仕事をしている、ということになる。
本稿読者の若いビジネスパーソンはどうか。
小うるさい上司を避け、適当にハンコを押してくれる上司にばかり報告を入れていないか。残業を早めに切り上げたいがために、顧客のクレーム処理を後回しにしていないだろうか。
こうした事態が積もり積もって、先の談志師匠のように「学校は教師のために、病院は医者のために、国会は議員のためにある」ということになるのではないか。
●あなたは騙され続けるのか
昨今、政府や企業、あるいは要人や芸能人のスキャンダルや不祥事がネット上に瞬く間に拡散される。世間の常識から外れた行為や隠し事はたちまち“炎上”するのはご存じの通り。
だが、こうした事態に遭う出来事は、氷山の一角でしかない。換言すれば、多くの読者は、騙されたままの状態で日々の生活を送っているということなのだ。
本欄では、食の安全、クルマの燃費基準のいい加減さ、大手マスコミの不正など、多岐に渡って書き続けてきた。だが、まだまだ世の中には“業界の常識・世間の非常識”が放置され、日々消費者や国民がないがしろにされているのだ。
くどいようだが、もう一度談志師匠の言葉を読み返してほしい。会社は自社の利益のため、国会は政治家の利権のためにある。そう考えて、個々のニュースやネット上にあまたあるブログの類いをチェックしてほしい。その情報発信者は果たして読者や消費者のためにとネタを出しているのか。その一点だけを見極めるだけでも、“騙される”リスクは軽減していくのだ。
[相場英雄,Business Media 誠]
- ヤバいのは“中国猛毒食品”だけではない、日本にもある
- “カワイイ”が自然を殺す、北海道で見た人間の残酷さ
- 「ピンクスライム」は問題にならないのか 食品業界の裏側に迫る
- “やらせライター”に困っている……とあるラーメン店の話
- NHKが、火災ホテルを「ラブホテル」と報じない理由