藤田正美の時事日想:
7月21日に投開票される参議院選挙。投票率は50%を切るかもしれないが、結果はほぼ間違いなく政権与党である自公の圧勝だと思う。非改選議席と合わせて参議院でも多数派となるだろう。
民主党は、これもほぼ間違いなく2012年暮れの衆議院選挙、2013年6月の東京都議会選挙に続いて大敗する。東京選挙区で鈴木寛氏一本に絞ったというところに民主党の厳しさが集約されている。有権者が自公に積極的に信認を与えるわけではないとしても、民主党にもう一度任せることはおろか、民主党を野党としても信認しないというのが大方の有権者の姿勢であるようだ。民主党をここまで追い込んだのは、責任の重い順にいうと、鳩山元首相、菅元首相、小沢元代表、野田元首相、輿石参議院議員会長といった面々だろうか。
●国民は自民党の利権体質を忘れていない
有権者にしてみれば、自民党を完全には信認できない。なぜなら日本がいま抱えているさまざまな問題の根っこは、自民党の古臭い利権体質にあったことがはっきりしているからだ。1000兆円、GDPの2倍という超巨額の借金国家になったのは、誰のせいだったのか。1991年にバブルが弾けて以来、ただただ国家予算を公共事業などに注ぎ込んできたかつての政府の責任ではなかったか。
この状態の日本で政権を取ったことの重みを感じるのは、これからだ。すでに異次元の金融緩和はある意味で限界に来ている。その証拠が長期金利の「乱高下」だろう。つまり市場は、安倍政権がこの巨大な借金の山をどうするつもりなのかを気にしている。もし安倍政権が本気でこの赤字に対処するつもりがないということになれば、市場の「期待」は一気に「不安」に変わるということだ。
不安が蔓延するきっかけは何だろうか。いちばん重大なきっかけになり得るのは中国経済の動向だろう。中国の成長率は下がることはあっても、上がることはない。7%台の成長率の維持すら危ういかもしれない。しかも成長率の低下で、先週のこのコラムで書いたように、銀行システムの裏で回っていたカネが滞るかもしれない(参考記事)。そうなれば金融不安が発生し、国有企業も資金繰りに窮するかもしれない。そこにカネを注ぎ込めば、一時は生き残ったとしても「ゾンビ企業」になるだけだ。
●景気が回復しなくても消費税は引き上がる
中国という外的要因だけではなく、われわれは「内なる敵」も抱えている。さしあたっては消費税引き上げと社会保障改革という「痛み」を伴う政策である。特に消費税引き上げは、安倍首相の支持率が大幅に下がろうとも、やらなければならない。景気が回復していないという言い訳は通用しない。なぜなら来年春の景気回復が見通せないならば、それはアベノミクスの失敗を意味するからである。つまり、金融緩和と財政出動による「期待への働きかけ」で矢が尽きて、それ以上の具体策は持ち合わせていないということになるからである。
消費税が10%に引き上げられた段階(つまり2015年秋以降)で、国税収入は約10兆円程度増える。基礎的財政収支の赤字が23兆円ぐらいだから、これだけでは半分も埋まらない。しかも社会保障関連費は毎年1兆円以上純増する。医療費、介護費、年金などである。
この社会保障関連費用は総額で年間100兆円を超えているが、そのうち国税や地方税から支出される分はだいたい40兆円ぐらいだ(国の支出分だけだと28兆円程度)。1000兆円にも及ぶ国の借金を減らそうと思えば、この最大の支出項目である社会保障関連費に手をつけなければならない。消費税引き上げを決めた民主党政権は、社会保障を維持するために消費税引き上げをお願いするとよく言っていたが、実は現在の社会保障を維持したままというのは不可能だと思う。
人口の塊である団塊の世代は、いま前期高齢者になった(参考記事)。この人たちが後期高齢者に入り始めるのが2022年。そこから医療や介護の費用が激増することが予想されている。そこまでに制度を変える、つまり社会保障の給付の制限をしなければ、社会保障の重みで押しつぶされてしまうかもしれない。
●「無能」な政治家たち
日本の政治はこれまでこの状況に対してあまりにも「無能」だった。例えば70歳から74歳の老人医療費の自己負担分は本来2割であったのに、それを1割にしてわざわざ赤字を増やしてきたのは昔の自公政権である。民主党も2割に戻すとは言ったが、とうとう実現しなかった。本来の2割に戻すことで節約できる分は2000億円程度だが、こういうことを国民に向かって率直に話し、理解を得るのが政治家の仕事なのである。衆参ねじれがなくなったとき、この政治の本来の課題が自公政権に肩にずっしりとかかってくる。
忘れてはならないのは、自公政権が痛みを伴う政策を先延ばしする余裕はないということだ。日銀がいくら金融を緩和しても、政府の財政赤字をファイナンスしているだけだと判断されれば、麻生財務大臣がよく言うように「日本の国債の信認が薄れてしまう」のである。そうなったら、国債は市場で売り叩かれ、結果的に長期金利が上がることになるだろう。
長期金利が上がってしまえば、アベノミクスは崩れる。なぜなら国債を大量に保有している金融機関では巨額の評価損が発生し、その分、金融機関は貸し剥がしや貸し渋りに踏み切ることになるからだ。そうなったら、財政基盤の弱い中小企業から倒産する可能性が高い。もちろん景気は大打撃を受けるだろう。
●救国の指導者となるか、日本に引導を渡した指導者になるか
結局のところ、最近の政治で目立つのは、選挙を控えると政治家は「痛み」を持ち出せないという事実である。幸い、現在の自公政権にとって3年間(つまり次の参院選まで)は大きな選挙がない。もちろん安倍首相がつまずけば別だが、そうでない限り、日本の将来を見据えた政策を国民に提示する余裕があるということだ。
ただそれでも残された時間はせいぜい2年である。選挙まで1年を切ったら、多くの議員は腰が落ち着かなくなり、支持率を下げるような話はできなくなる。安倍首相が、日本を救った指導者になれるか、それとも日本に引導を渡した指導者になるか。それはこの暑い夏から本格的にスタートする。
[藤田正美,Business Media 誠]
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