義務、では決してなかった。

 しかし、手放しで喜んだかといえば、そうでもなくて。

 とにかく失礼があってはならないと、どこかで半歩引いた自分がいる。

 

「ありがとうございました。とても楽しかったです」という言葉に、「退屈ではなかっただろうか」と、つい考えてしまう。

 つまり、なんのとりえもない中年男と食事をする、物好きなお嬢さんの胸の内がはかりかねて。

 

「あの、また、お誘いしてもいいですか?」と問われ、「次」があるのかと、むしろ意外な気持ちになった。

「え、あ、ああ。もしも君が嫌でなければ」

 主人が救われたという義務感が、娘を駆り立てているのだろうか。

 

「よかった、うれしいです」

 はずんだ声が演技だとまでは、思わないのだが。

 

 しかしたぶん、彼女は誤解しているのだ。

 皇妃陛下を命の危険にさらしたてまつったのは、間違いなく自分の不手際で。

 いずれ、そうしたからくりを知るときがくるだろう。

 

「君が負い目を感じる必要などない」

 何度か口を開きかけて、結局言いそびれたのは、自分が卑怯者だからだとわかっているだけに、妙に後味が悪かった。

 

 若い身空で人身御供のような真似をしなくてもいいのだと、教えてやらねばならない立場にいながら、あえてそれを言わないのが、どれほど醜い行為か。

 

 せめて、そのやさしさに甘えてはいけない、寄りかかることは許されないと、自戒しておこう。

 

 彼女が進むべき道を見いだしたとき、さまたげにならないように。

 

 

《了》