「閣下はたくさんのことをかかえていらして、おいそがしいですよね、きっと」
まなざしはカップにそそがれたままだ。
「どうも時間の使い方がへたなもので、走りまわってばかりいるよ」
もっと能力があれば、あるいはこなせるのかもしれないが。
「おじゃまだったら、ごめんなさい」
「君をじゃまだと思ったことはないよ」
「よかった、これで、閣下と夜明けのコーヒーも飲めましたし」
あやうく鼻に逆流しかけた分を、どうにか意志の力で飲み下したが、しばらく声が出せなかった。
「……それは、意味がちがう、と思う」
「なんでですか? 今、夜明けですよね?」
「たしかにそうだが」
「じゃあ、あってますよね?」
「そうではなしに、ひとつ屋根の下で……」
少女は天井を見上げ、無邪気な声を発した。
「ひとつ屋根の下じゃないですか」
「ええと、要するに、一線を越えた男女が」
「一線って、なにの線ですか? 日付変更線とか、境界線とか、いっぱいありますよね」
「つまり、あれを、その……」
あとでゆっくり考えたら、「契りをむすぶ」といった同義語がいくらでもあることに気づいたが、そのときはなぜかハラスメントに抵触する用語しか浮かばなかった。
「うれしい、これでみんなに自慢できます。閣下と夜明けのコーヒーを飲んだって」
「だめだよ、誤解をあたえたら」
あわてて撤回を懇願したが、なかなか承知してくれない。
「だって、本当のことだし」
「そういうのは、吹聴することではなくて、だね」
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